月次決算の早期化を実現

問題の背景

P社は、株式公開(IPO)を目指す非上場企業です。監査法人や証券会社の支援が入っています。

彼らから問題点として指摘されたのが「月次決算のスピード」でした。P社の月次決算は現在締まるのに20営業日くらい、ほぼ翌月末くらいです。これでは、毎月の取締役会にタイムリーに数字を報告できず、上場審査をクリアできません。

そこでP社は、上場準備室・経理部・経理企画部が中心になって、決算早期化プロジェクトを立ち上げます。プロジェクトのゴールは、少なくとも現在の半分、10営業日以下です。監査法人の紹介で、当事務所もそのプロジェクトに参画することになりました。

現状調査

まずは、月次決算作業の実態を各担当者にヒアリングです。決算全体の流れをつかみ、各作業の着手日・終了日・所要時間・使用システム(Excel)・元資料・修正頻度等を整理していきます。

調査してわかったことは、経理部ができる日数短縮はせいぜい数日程度であること。月次決算を10営業日以下にするためには「会社全体の仕組みを変える必要がある」ということでした。

決算とは言ってみれば、社内の全部署から数字を集め、経理がそれをまとめる作業です。肝心の数字集めが遅かったり、正確で無かったりすれば、それだけ決算が固まるのは遅くなります。

これはP社に限った話ではありません。月次決算が遅い会社は、たいがい会社全体の仕組みに問題を抱えています。

決算早期化の3つのBPR

P社のプロジェクトでは、大きく3つのBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング )を行いました。BPRとは、従来の業務プロセスを抜本的に見直すことを言います。いわゆる「業務改革」です。

仕入計上プロセスの見直し

BPRの1つ目は「仕入計上プロセスの見直し」です。P社は当月には仕入計上を行っていませんでした。翌月初めに仕入先の請求書が届いてからがスタートです。その内容をチェックし、単価や数量等の違算があれば修正し、最終的な当月仕入金額を確定します。

このプロセスは、請求書の精査が終了しているので、仕入計上金額が正確です。一方で、請求書が届いてから一斉に作業を始めるので、業務が月初に集中するのと、請求書がチェックが終わるまで仕入金額が確定しない、月次決算が遅くなる、というデメリットがあります。

仕入先数や仕入明細数が少ない場合は有効ですが、事業規模が大きくなり仕入先数・仕入明細数が多くなると業務が滞ります。

これに対して、入荷の都度、仕入計上するのが次のプロセスです。

このプロセスは、仕入先の請求書が届く前に仕入計上できるので、月次決算のスピードが圧倒的に早いです。しかし、翌月に請求書チェックを行い、間違いが見つかれば、仕入金額の修正が必要です。重要な金額であれば当月で、軽微な金額であれば翌月の仕入計上で調整します。

P社では関係部署の業務分掌を見直し、購買管理システムを一部改修した上で、都度仕入計上プロセスに切り替えました。その後、半年間は違算を詳しくモニタリング。重要な違算の発生原因を突き止め、都度仕入の正確性を向上させました。

配賦・振替の見直し

BPRの2つ目は「配賦・振替の見直し」です。P社は月次決算で、①共通部門の経費を各部門へ按分、②管理部門の経費を本社費として直接部門へ按分、③他部門への応援した際の自部門の人件費を他部門へ振替、④営業支援に使用した原価部門の経費を販管費へ振替などを行っていました。

配賦・振替の基準は「人数比」または「直接時間比」です。人数比の場合は、人事部が月末時点の部門在籍者の人数表を人事部が毎月作成。それを翌月初に経理部が入手して、当月の配賦・振替の比率を計算。部門金額が確定したら、比率を乗じて按分金額を算出します。

直接時間比の場合は、各部門の該当者の当月の作業時間報告書を経理部に毎月提出。経理部で直接時間の部門合計と該当時間を集計し、当月の配賦・振替の比率を計算。金額が確定したら、比率を乗じて按分金額を算出します。

配賦・振替は、管理会計の手法の一つです。その部門の「本当の経費」を見ることで、より実態に近い部門採算を知ることができます。

しかし「本当の経費」とは何でしょうか? その答えは誰にもわからないので、管理会計は確からしい基準を置いて按分しました。そこに、正確性や精度を求めすぎてもあまり意味はありません。

P社では、金額的重要性が低い配賦・振替や、一時的な配賦・振替を廃止しました。残った配賦・振替も毎月数字を集めて比率を出すことをやめ、年間通じて比率を固定し、月次決算の配賦・振替作業を大幅に簡素化しました。なお、P社は今回、部門予算制度の見直しも並行して行っています。

自動仕訳への転換

仕訳を会計システムに登録する方法は大きく2つです。1つは「手動仕訳」。経理担当者が会計システムの仕訳入力画面から手入力します。もう1つは「自動仕訳」。基幹システムや金融機関のデータを仕訳形式に変換して、会計システムに自動で取込みます。

P社の1年間の仕訳を調べたところ、全仕訳明細に占める自動仕訳の割合は約50%でした。つまり、残り50%が手動仕訳です。仕訳の種類別でみると、手動仕訳の大半は経費計上と売上計上で、どちらも翌月初に入力していました。これも大きな月次決算の遅延要因です。

経費計上は使用される費用科目が多く、間違った科目で自動仕訳されるのを経理部が嫌って、手動仕訳を続けていました。これについては、経費精算システムで典型的な経費パターンを多く設定したり、申請者が費用科目がわからない場合は「仮勘定科目」を使用する運用で、経理の関与チェックを残せる形にして、自動化を図りました。

また、売上計上は、P社の多角化戦略でさまざまな異なる事業が立ち上がり、各事業でExcelの販売管理が行われていたのが原因でした。これについては、数年かかる中期施策と、それまでをしのぐ短期施策を立案しました。

中期施策は、各事業のビジネスモデルや取引条件等でいくつかにグルーピングし、事業グループ単位で共通して使える販売管理システムの新規導入です。その中に、売上計上を自動仕訳生成も組み込みます。

短期施策は、販売管理のExcelデータをDBに取り込み、仕訳形式データを生成する簡易システムの構築です。事業の数が多いので、大きい事業に絞って実施しました。

半年後には自動仕訳率は80%に達し、経理担当者の業務を大幅に削減できました。

改善後の所要日数

これら3つの施策を実行した結果、P社の月次決算は平均7営業日で締まるようになりました。目標であった10営業日を十分下回り、上場企業として恥ずかしくない日数です。

P社は最大の懸念であった月次決算のスピードを解決できたので、その後、予定どおり上場準備を進めていきました。

※上記内容は、複数のプロジェクト経験を部分的に組み合わせ、登場人物・状況・数字等は改変し、フィクションも一部交えています。