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 経理部の方に「1円までこだわってはいけません」と言うと、たいがい驚かれます。なぜなら、経理担当者は入社以来、会計処理は1円まで合わすよう、正確性を第一に教えられているからです。

 

 誤解してほしくないのですが、私は決していい加減な会計処理を推奨しているのではありません。会計には「1円までこだわる会計」と、「1円までこだわる必要がない会計」があるということなのです。会計の専門用語で言うと、前者は“制度会計”、後者は“管理会計”です。

 

 制度会計は、文字どおり“制度”、つまり“法律”に基づいて実施する会計です。主な法律には「会社法」「税法」「金融商品取引法(金商法)」があります。法律ですから、その会計処理は、正確でないと困ります。1円たりとも間違わないようにしなければなりません。

 

 一方、管理会計は、経営のために企業が自主的に行う会計です。法律上やる必要はないけれど、経営に役に立つのでやっています。ですから、その精度は経営管理目的を果たすことができれば十分です。1円単位まで正確である必要はほとんどありません。

 

 冒頭で、私が「1円までこだわってはいけません」と言ったのは、管理会計の話です。たとえば、経営報告まで時間がかかっているならば、会計の精度を多少落としてでも早く報告するほうが、経営的にはずっと有益です。“会計は絶対に正しく”という経理部の思い込みを、解きほぐすための発言でした。

 

 しかし、制度会計と管理会計は融合している面もあります。両者が明らかに別ものであれば話は単純ですが、共有部分があると制度会計に引っ張られ、1円たりとも間違わない正確性が優先されがちです。

 

 たとえば、決算会計。「期末決算」(12ヵ月:会社法・税法・金商法)と「四半期決算」(3ヵ月:金商法)は制度会計ですが、「月次決算」(1ヵ月)は管理会計です。

 

 なお、上場企業になるための上場審査では、月次決算と取締役会の月次開催を求められていますが、これは適切な経営管理(特に予算管理)体制が構築できているかを見ています。期末決算や四半期決算のような決算開示(法律)ではありません。

 

 月次決算を義務とする法律はありませんが、よく月次決算は制度会計と勘違いされます。それは、毎月の月次決算が期末決算と四半期決算の構成要素だからです。四半期決算は月次決算を3ヵ月分集めて作り、期末決算は月次決算を12ヵ月分集めて作ります。

 

 つまり、月次決算には毎月の経営報告という「管理会計」の側面と、期末決算・四半期決算に準用される「制度会計」の側面があるのです。

 

 月次決算が制度会計に偏ると、経理担当者は1円まで正確に処理しようと、翌月届く取引先の請求書を待ったりします。あるいは、経費伝票がたった一枚漏れていたからといって、一度実施した原価計算を最初から再計算したりします。これだと、月次決算は間違いなく遅くなり、迅速な経営報告という本来の目的が失われます。

 

 では、どうすればいいのか。月次決算の役割を管理会計に戻せばいいのです。制度会計として求められる正確性は多少犠牲にし、スピードを優先します。管理会計としての月次決算は、経営が実態をつかみ、今後の方針を意思決定できる精度であれば十分です。

 

 ただし、そのままの月次決算だと制度会計としては使えませんから、後で使える部分と使えない部分を分けて、使えないところは正しい数字に置き換えます。このような処理を「仮伝票処理」または「洗替え処理」と言います。

 

 管理会計と制度会計。「二兎を追う者は一兎をも得ず」です。目的に合わせ、メリハリをつけることが大切です。