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 「隗より始めよ」という故事があります。「何かをなす際は、まず身近なことから、あるいは、言い出した者から始めなさい」という意味です。最初の一歩を実行する大切さを説いています。

 

 しかし、経営の場合は必ずしもそうではありません。目につくことから始めても、成果がほとんど上がらなかったり、逆に状態が悪化したりすることさえあります。そのため、経営においては問題の本質を正しく捉え、どのような順番で取り組むかがとても重要になってきます。

 

 たとえば、同一工場でA製品とB製品をつくる製造業があるとします。販売計画よりA製品は売れていますが、B製品は下回っています。あなたが経営者ならどうしますか?

 

・B製品をもっと売るよう営業にハッパをかける

・B製品のコスト削減に取り組み価格を下げる

・B製品を減産しA製品を増産する

 

 パッと思いつく3つの選択肢をあげてみましたが、どれも経営判断の範ちゅうであり、正しいと思います。

 

 しかし、それはあくまでA製品とB製品の原価が正しいことが前提です。もしこれらの原価が間違っていたら、すべての選択が間違いという可能性もあります。

 

 製造業では製品原価を集計するために原価計算を行います。原価計算に唯一の正解はありません。原価計算はロジックを「どこまで精緻化するか」という世界です。

 

 ですから、精緻化をやりすぎると労多く益無しとなりますし、単純化しすぎると実態を表さなくなります。適度なバランスが大切です。

 

 A製品とB製品の話に戻ると、ある工程コストでA製品とB製品で折半していたとします。本当はA製品のほうがずっと手間がかかるとしたら、A製品の原価は実態より安くなり、B製品の原価は実態より高くなります。

 

 この間違った原価を元に販売価格が設定されていたとすると、A製品が売れた理由は価格が安いだけで、B製品が売れなかったのは価格が高かったからかもしれません。

 

 だとすると、B製品を売るようハッパをかけても、価格が割高なので努力に見合う成果が上がりません。さらにA製品を安売りしている状態で、B製品を減産しA製品を増産すると利益は激減します。

 

 このような負のスパイラルに陥ると、営業部は製造部の原価見積りに疑問を持ち始めます。「本当にこの価格で売って会社のためになっているのか?」と疑心暗鬼になって、自信を持って売れなくなります。

 

 また、製造部にB製品のコスト削減要請があっても、削るべきポイントが間違っているので、思うようには進みません。さらに無理なコスト削減は、品質の悪化を招き、別な問題を引き起こします。

 

 製造業にとって原価計算は経営の成果を図る基準です。しかも、一度決めれば良いと言うものではありません。原価計算は製品・製法はもちろん、生産の品種構成・ロット、費目構成が異なっても変化します。

 

 基準が狂えば経営判断も生産管理も価格決定も何もかもが上手くいきません。ゆえに何か調子がおかしいと思ったら、まず「原価計算」から確認するのが重要なのです。