製造業にとって稼働率は重要な経営指標です。目標稼働率を定め、その達成状況を工場長の評価にしている工場も少なくありません。

 

 たしかに稼働率が上がれば生産量が増えます。生産量が増えれば1個当たりの固定費が下がり、製造単価が下がります。製造単価が下がれば利益が増えますから、高い稼働率をキープすることは重要です。

 

 ただし、これには大きな前提条件があります。それはその製品が「作れば作るほど売れる」ということです。生産量の増加が許されるのは、それに見合う販売があるからです。販売できないのに生産量を増やせば、当然、工場は在庫の山となります。

 

 在庫が増えたとしても、在庫は会計的には資産です。そのため、作れば作るほど資産が増え、損益は改善します。稼働率を上げると会計上の利益が増えるので、関係者はあまり罪悪感を持たないのです。

 

 しかし資金繰りはどうでしょうか。販売量は増えないのでお金は入ってきません。それにも関わらず、生産量が増えた分、変動費の支払いは余計に発生します。つまりキャッシュ・フロー的には悪化しているわけです。

 

 さらに言うと、在庫がいずれ販売されれば良いですが、在庫の山が滞留在庫となり、最終的に売れずに損失になると、損益も一気に悪化します。経営的に決して良い状態ではありません。

 

 このように、稼働率に焦点を当て過ぎると、作り過ぎを誘発します。だからこそ、市場環境を正しく把握することが大切なのです。その製品は、作れば作るほど売れるのか、それとも、売れる分しか作れないのか。

 

 もしその製品が、売れる分しか作れないならば、稼働率を絶対的な経営指標にしてはいけません。需要が少ないのですから、稼働率は低くて当然です。それは工場の責任ではないのです。

 

 もちろん、そのまま稼働率が低いのを放っておけば良いという話ではありません。工場が持つ最大生産能力を活かせるよう、営業を強化して受注を増やす対策を取らなければなりません。

 

 また、市場環境が悪くどうしても受注が増やせず、将来の成長性も見込めないなら、今度は工場サイドの見直しが必要です。稼働率が低いということは、裏を返せば生産能力が過剰ということです。設備や人を配置転換したりして、需要に見合う生産能力にリサイズします。

 

 市場環境によって稼働率に対する見方は180度違います。環境が変わっているのに気付かず、稼働率を重視する経営を続ければ、最終的に経営悪化を招きます。一見会計上の利益が上がるので、見過ごされがちですが、十分気を付けましょう。