最近、上場企業の巨額な「のれん減損」を目にすることが増えました。東芝しかり、日本郵政しかりです。

 

 のれんはM&A(企業買収)時に発生する無形資産(プレミアム)です。具体的に言うと、買収金額と対象企業の会計上の価値(純資産に持分割合をかけたもの)との差額です。営業権とも言われています。

 

 巨額な「のれん減損」が増えてきたというのは、裏を返せば大企業による巨額な企業買収が増えてきたということでもあります。

 

 なぜ巨額な企業買収が増えてきたのか。

 

 M&Aは昔から重要なグループ成長戦略の一つでした。シェア拡大で規模のメリットを得たり、上流と下流のようにグループの事業ポートフォリオを補完したり、中長期的な視点で経済シナジーを得ることが目的です。

 

 しかし、最近はその目的が少し変わってきたようです。身もふたもない言い方をすれば「企業買収して手っ取り早くグループの業績を上げてしまおう」という短期的な意味合いです。

 

 たとえば純資産100億円、利益20億円のA社を200億円で買収したとします。このとき、のれんは100億円です。※買収金額200億円-純資産100億円

 

 もし会社の会計基準がIFRSや米国基準だとすると、のれんは償却しませんので、A社の買収に成功するとグループ利益が翌年から20億円増えます。

 

 また、もし会社の会計基準が日本基準だとすると、のれんは20年以内で償却となります。年数が20年の場合、年間の償却費は5億円(100億円÷20年)です。A社の買収に成功すると、グループ利益は翌年から差し引き15億円増えます。※A社利益20億円-のれん償却5億円

 

 まさにM&Aは「打ち出の小槌」なのです。新規ビジネスを立ち上げたり、既存事業の売上を拡大したりするより、ずっとかんたんにグループの業績を向上させられます。

 

 そのため、安定的に利益が出ている企業が売りに出て、かつ自社の手元資金が潤沢だと、どうしてもM&Aをしたくなります。

 

 買収金額が多少高くなっても、のれんを償却しない、償却しても20年なら、対象企業が毎年計上する利益貢献のほうが大きいので、ついつい手が出てしまうのです。

 

 会社法ができる前の旧商法の時代、のれんは5年以内の償却でした。このなごりで、のれん償却年数を20年まで延長できるのに、いまだ5年としている上場企業も少なくありません。

 

 この「5年」というのは、とても良い制度でした。先の例で言うと、年間の償却費は20億円(100億円÷5年)です。つまりA社を買収しても、翌期はグループ利益がゼロです。※A社利益20億円-のれん償却20億円

 

 当初5年間はゼロですが、6年目以降はのれん償却が無くなり、利益20億円だけを享受できます。5年償却は保守的な会計処理だと言えます。

 

 東芝は米国基準を採用していて、のれんを償却していませんでした。日本郵政は、日本基準でのれんを20年で償却しています。

 

 これらは認められている正しい会計処理ですが、結果的に巨額な企業買収、買収金額の高額化を助長しているかもしれません。

 

 M&Aは将来のグループ経営を左右する重要な戦略です。会計上の一時の利益に惑わされず、企業価値と事業リスクを適切に評価して決断することが大切です。