もし世の中に「誤解されやすいものランキング」というものがあったとしたら、私は「システム」が1番ではないかと思っています。

 

 システムを理解している人は、システムには制約があることを知っています。システムでできること、できないこと、しないほうが良いことをわかっています。

 

 人体でたとえれば、首は180度後ろには回せませんし、手は5メートルも伸びません。「とにかく良い顔にしてくれ」と言われても、具体的なリクエストがないと手術もできないでしょう。

 

 システム(特にデータベース)には人体の構造と同じく限界があるのです。

 

 しかし、システムをよく知らない人からは「ここで首を180度後ろに回したい」、「毎日1回、手を5メートルまで伸びるようにしてほしい」という要望が出たりします。

 

 現場の方からの要望ならまだ訂正もできますが、社長からの要望ともなると、そうはいきません。情報システム部もベンダーも無視できなくて検討しなければならなくなります。

 

 そのため、「社長に口を出させないことがシステム成功のカギ」と言う人が一部でいます。

 

 ですが、本当にそうでしょうか?

 

 経営者ほど「どうすれば売上が上がるか」「利益が増えるか」を考えている人はいません。その思いから出てきた要望に耳を傾けないというのは、まったくの本末転倒です。

 

 システムだけが安定稼働して会社が消える、そんなことにもなりかねません。

 

 昔の話ですがある時、業務改革の方向性を固めて、それを実現するためのシステム改修の会議に出席したのですが、その内容を聞いたベンダーが、会議中に社内のシステム担当者に「そんなのやめましょうよ」と小声で言っているのが、聞こえてきました。

 

 この改革には会社の命運がかかっています。経営を背負っていない人が、社員の生活の責任を取れるのか、そんな思いを強くいだきました。

 

 私はちょっと怒りながら、「これは経営の決定事項です。実装手段を考えて下さい」と言い、これなら大改修しないで済むだろうと思われたアイデアを10個くらい提供し、上手くまとめることができました。

 

 大事なことは、社長に口を出させないことではありません。また、社長の要望を文字どおりそのままシステムに取り入れることでもありません。社長の思いや意図を組んで、システムと業務でどう実装するかを考えることです。

 

 社長が「手を5メートル延ばしてほしい」と言ったならば、その意図は高いところにある木の実を取りたかったからかもしれません。

 

 そうであればハシゴをつくったり、2階の窓から取れるようにしたり、木を下に移設して普通に手を伸ばせば取れるようにしたり、手を5メートルにせずとも色々なアイデアが出てくるはずです。

 

 それこそが工夫であり知恵であり、戦略的なシステム部門の大切な仕事だと思います。