実績より高い目標値を設定し、その達成に向けて努力することは良いことです。ビジネスでも個人でも改善を促します。

 

 ところが、目標値と実績に差異があるからと言って、目標値を下げる行為はどうでしょう? 実績は改善せず、何をやっているのかわかりません。

 

 実は、原価管理の世界ではこのようなことが頻繁に行われているのです。いったいどういう事でしょうか?

 

 原価管理では「予定原価」が目標値であり、「実際原価」が実績です。その差が原価差異となります。

 

 予定原価や実際原価は、原価管理だけでなく会計決算にも使われています。期の途中では予定原価で数字を把握して、期末に最終の実際原価で決算を締めます。

 

 そのため原価差異が大きいと、期の途中では「今期は利益が1億円になりそう」と予想していたのに、期が終わってみると「利益が5千万円にしかならなかった」ということが起こるわけです。

 

 これは経理部長にしてみたら大変です。銀行には「利益は1億円でます」と言っていたのに、フタをあけて見たら半分だったのですから。上場企業ならば業績予想を発表しているので尚さらです。

 

 そこで「決算が混乱しないためには、差異を出ないようにするしかない」として、予定原価を当初の1.2倍にするなどの係数掛けが行われたりします。

 

 確かにこうすれば予定原価と実際原価の差は縮まり、決算の着地見込みは大きく狂わないようになります。

 

 しかし、原価管理の本来の目的はコスト削減です。生産の目標値である予定原価を、会計の都合だけで変えるのは良くありません。さらに、営業が予定原価を売価の見積りに使っているならば、販売価格もおかしくなってしまいます。

 

 原価差異が生じる一番の原因は、予定生産量と実際生産量の違いです。

 

 予定では100個つくるはずだったのに、実際は半分の50個しか生産しなかった。そうすると固定費が100万円だとして原価は1万円(100万円÷100個)から2万円(100万円÷50個)にアップします。

 

 裏を返せば、予定生産量と実際生産量の数字がどれくらい乖離するかを押さえておけば、差異が出ても決算の着地はかんたんに予測することができます。

 

 原価差異を怖がる必要は何もないのです。予定原価に係数掛けをして目標値を変えてしまうような行為をしないですみます。

 

 ただし、これには原価計算の仕組みの見える化が前提です。何十年も前につくった古い原価計算制度で、中身がブラックボックス化しているなら、予測することはできません。

 

 原価管理のためには、原価計算の精緻化・見える化、定期的なパラメータ(予定生産量の数字等)の更新が不可欠です。

 

 もし係数掛けで調整しているなら、経営が弱体化しないよう、原価計算改革に早めに取り組むべきです。