誰かに教えてもらったのか、何かで読んだのか、覚えていないのですが、私が仕事で意識してきた言葉があります。

 

 その言葉は、「上の役職になって、考えてみろ」です。

 

 一般社員ならば課長やチームリーダーに、課長やチームリーダーであれば部長に、部長ならば役員になったつもりで、考えて行動せよ。そうすれば、組織にとってより良い行動や判断ができる、という格言です。

 

 真面目な人は、組織から自分に与えられた仕事を完璧にこなすこと、それが役割だと考えます。そういう人は、どうしても専門性に走りやすく、視野狭窄になりがちです。

 

 かの有名なピーター・ドラッガーが、50年以上前に指摘した「専門化の危険性」です。

 

 たとえば、経理担当者は1円まで正確であること、勘定科目に一つも間違いがないことを正しいとします。システム担当者であればIT化する際、現場の要求を100%取り入れて、完全なシステムをつくろうとします。

 

 専門性を追求しすぎて、担当者本人の時間のみならず、他の社員の時間まで奪ったり、多額な金銭的負担がかかったりしてしまうなら、それは会社の利益にはなりません。

 

 「上の役職になって、考えてみろ」という格言は、このような専門化に陥りがちな思い込みや殻を破るのに有効です。

 

 経理部長であれば、正確性だけでなくコストパフォーマンスや現場負担も考えるでしょう。軽微なミスは許容できます。システム部長も同様です。完全性だけでなくコスパや将来の変化を見越して考えるでしょう。現場の言うことが必ずしも正しくはないことを経験則として知っているからです。

 

 このように上の役職になりきると、ものの見方や、重要視する基準がより高いレベルになります。

 

 上の役職は、一つの上の直属の上司だけでなく、もっと上役でも良いでしょう。場合によっては、他部門の上役でも良いかもしれません。とにかく自分の仕事から一歩引いて、別な立場で考える方法は、担当者の判断をより組織目標に合致したものにしてくれます。

 

 私もコンサルをしていて難しい判断を要する時は、自分がクライアント企業の社長になったつもりで考えます。自分が社長だったらどうするか? 自分が社長になってやらないようなことを、アドバイスなどできません。本気で社長になりきって考えます。

 

 また、この“なりきり”のワザは、個人だけでなく企業でも使えます。

 

 たとえば、業務改革などをしていると、担当者は現行業務にこだわりがちです。そういう時、いま年商100億円の企業なら、年商1,000億円の企業になったらどうするか、と考えるのです。

 

 私は「ソニーやパナソニックがそのような業務をやっていると思いますか」などと言ったりします。

 

 もちろんソニーやパナソニックほどの超大企業である必要はありません。今の10倍の売上になった時に「この業務は今の形で続けているだろうか」と考えて、もしその業務をやっていないと思うなら、それはどこかで必ず切り替えなければならない、ということです。

 

 成長した先や何かになりきって、今を振り返ってみる。「上の役職になって、考えてみろ」は、先人の知恵ですね。