システム・業務・会計に関するコンサルティング   人手やコストをかければ、管理や業務は誰でもできるが、それでは生産性は上がらない

  1. 経営のしくみ別冊

Vol.5 消費税改正システム対応策

7.仕入税額と購買システムの仕様

森室長「これでインボイス制度の売手側として、販売システムの課題はだいたい整理できましたかね。」

杉下君「じゃあ、次は買手側として、購買システムのほうですか。」

水谷部長「その前に私から消費税の仕入税額の計算方法について説明しておこう。」

杉下君「何か関係あるのですか?」

水谷部長「おおいに関係あるよ。会社が採用する仕入税額の計算方法によって、システムに求められる“仮払消費税”の精度が違うんだから。」

・・・

適格請求書になってからの仕入税額の計算方法は、次のとおりです。

現在の仕入税額の計算方法は「割戻し方式」が原則で「積上げ方式」が特例ですが、適格請求書が始まると、この関係が逆転して「積上げ方式」が原則となり「割戻し方式」が特例となります。「⑧税率ごとの消費税額」で正しい税額を把握できる環境が整ったので、「積上げ方式」を原則としたわけです。

「積上げ方式」を選ぶと、システムに集計された仮払消費税の金額が、そのまま仕入税額となります。正しく集計できるように入力方法やシステム仕様を考えなければなりません。一方、「割戻し方式」であれば、仕入税額は別途計算されるので、システムの仮払消費税にそこまでの精度が要求されません。詳しく各方式を見ていきましょう。

請求書等積上げ方式

この方式を採用する場合、購買システムへの仕入入力、最終的に一般会計システムの仕入計上仕訳の仮払消費税の金額は、仕入先からもらう適格請求書の「⑧税率ごとの消費税額」と、同じでなければなりません。

中小企業であれば大きな問題はありません。仕入先の請求書が届いてから、「⑧税率ごとの消費税額」を見ながら仕入入力(ないしは仕訳入力)すればよいからです。※請求時点で仕入計上

発注 → 納品 → 請求書 → 仕入計上 → 支払

しかし中堅企業ともなると、仕入先が多くなるのでそうはいきません。請求書が届くのを待っていては、月次決算が遅くなってしまいます。ですから商品の納品されたタイミングで、自社の発注データを使って(ないしは納品書を見ながら)、仕入処理することになります。※納品時点で仕入計上

発注 → 納品 → 仕入計上 → 請求書 → 支払

自社の発注データを使って仕入計上すると、仕入先の請求書の「⑧税率ごとの消費税額」と消費税の端数で一致するとはかぎりません。また納品書を使うにしても「⑧税率ごとの消費税額」が記載されているとはかぎらず、自社のシステムで設定した税額計算で仕入計上することになります。

ですから請求書等積上げ方式を採用すると、最終的に適格請求書を1枚1枚確認して税額の端数を1円単位で、購買システム(ないしは債務管理システム)を修正していく作業が発生します。少なくとも中堅企業以上は、この方式を採用すべきではありません。

帳簿積上げ方式

この方式を採用する場合、課税仕入れの都度、会社が消費税額を計算する仕組みが必要となります。「課税仕入れの都度」とは、たとえば次のようなケースです。(参考:国税庁 消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A 問75)

・取引の都度もらった適格請求書を単位として、帳簿に仮払消費税を計上する場合
・取引をまとめた適格請求書を単位として、帳簿に仮払消費税を計上する場合

かんたんに言うと、前者は納品ごとに受け取る「納品書単位」、後者は月次で受け取る「請求書単位」というところでしょうか。一般的な購買システムの消費税計算でよくある「単位(くくり)」は、次のとおりです。

・納品書単位
・請求書単位
・月次単位
・商品単位

帳簿積上げ方式として、「納品書単位」「請求書単位」は問題ないでしょう。「月次単位」は仕入先の締め日が月末なら「請求書単位」と一致しますが、20日締めなどの仕入先もあるので、厳密には「課税仕入れの都度」とは言えないかもしれません。しかしおそらく許容範囲でしょう。

しかし「商品単位」は「課税仕入れの都度」とは言えない可能性が高いです。先に書いたとおり、「⑧税率ごとの消費税額」は、一の適格請求書につき、税率ごとに1回の端数処理しかできないとルール化されました。個々の商品ごとに消費税額を計算し、1円未満の端数処理を行い、その合計を消費税額とすることはできません。

ゆえに購買システムの税計算が「商品単位」だと、帳簿積上げ方式は採用できないでしょう。システムを改修するか、次の総額割戻し方式を検討しなければなりません。

なお「請求書等積上げ方式」と「帳簿積上げ方式」は併用することも可能です。たとえば、仕入は購買システムで「帳簿積上げ方式」を採用し、諸経費はワークフローシステムで「請求書等積上げ方式」を採用するなど使い分けができます。

総額割戻し方式

総額割戻し方式は、年間の課税仕入高に基づいて仮払消費税を計算するので、期中で行われる購買システムの税計算、仮払消費税はあくまで暫定的なものとなります。ですから、購買システムの消費税計算の単位はどれでもかまいません。ただし、仕入先の請求金額と当社との買掛金の消費税の端数差異の問題は残ります(「8.買掛金の消費税の端数差異」で説明します)。

仕入税額で「割戻し方式」を採用するためには、売上税額で「割戻し方式」を採用することが条件です。基本的に「積上げ方式」より「割戻し方式」の金額のほうが多くなるので、消費税の納税額が増える可能性があります。

8.買掛金の消費税の端数差異

杉下君「当社の購買システムは、納品されたら発注データを消込みして、商品単位で仕入計上し、税計算する仕様になっていますよね。」

森室長「たしかにこれを改修するのは、ちょっと重たいだろうね。」

水谷部長「経理部としては総額割戻し方式を使うから、システム改修しなくていいよ。積上げ方式だと現場の入力が不安だから。」

森室長「だとしても、買掛金の支払いをどうするかが、もう一つの問題ですね。」

・・・

当社の買掛金と仕入先の請求金額との間で差異が発生することを、一般的に「違算」と言います。主な違算の原因は、品違い・数量違い・単価違い・赤伝漏れ・締めズレなどです。違算が発見された時は、当社のミスならば自社の購買システムを訂正し、仕入先のミスならば仕入先に訂正依頼します。

しかし差異は「違算」だけではありません。「消費税計算の端数」も差異となって現れます。これは当社の消費税計算と、仕入先の消費税計算の違いから生じるものです。その要因は2つあって、1つは先ほどから出ている消費税を計算する「単位(くくり)の違い」、もう1つは「端数処理方法の違い(切上げ・切捨て・四捨五入)」です。

違算は修正しなければなりませんが、端数は基本修正しません。請求書の数が何百通ともなると、端数の修正入力は膨大な作業となります。そのため企業規模が大きくなると、仕入先の請求書と自社システムの買掛金との端数はムシします。自社のシステムで計算した買掛金額で支払うだけです。※この場合、端数は仕入先に負担してもらいます。仕入先は売上値引か、仮払消費税の調整として処理します。

しかし、繰り返しになりますが、適格請求書になると「⑧税率ごとの消費税額」は、一の適格請求書につき、税率ごとに1回の端数処理しかできなくなります。個々の商品ごとに消費税額を計算し、1円未満の端数処理を行い、その合計を消費税額とすることは認められていません。

そうなると、適格請求書で認められない単位で、自社計算した買掛金で仕入先に支払うことがいいのか疑問が生じます。このような端数差異をどう扱えばよいのでしょうか?

まず端数差異のうち、「端数処理方法の違い」によるものは、適格請求書になってもムシで良いでしょう。影響は僅少です。ただし帳簿積上げ方式では「切捨て・四捨五入」ですので、購買システムの端数処理方法も「切捨て」か「四捨五入」にしておくべきだと考えます。

次に消費税を計算する「単位(くくり)の違い」は、購買管理システムの税計算のくくりが、「納品書単位」「請求書単位」であれば、これまでどおり差異はムシで良いと考えます。「月次単位」も「請求書単位」に近い金額になるので、同じくムシで良いでしょう。

※この話は、仕入税額の帳簿積上げ方式と重複していますが、ここでは積上げ方式の可否ではなく、端数処理をムシして自社計算した買掛金で仕入先に支払いしてもいいかという観点で話しています。

しかし「商品単位」は適格請求書ではダメになりました。さらに「商品単位」で税額を計算すると、ほかの方法に比べ買掛金が小さくなります。そう考えると、自社の購買システムの税計算として「商品単位」は、端数の観点からも望ましくなくないと言えそうです。

仕入先の請求書と自社システムの買掛金との端数はムシするという商慣習が、適格請求書になって、今後どう変わっていくかは不明です。個人的見解としては、現行システムの改修に多額な費用がかかるならムリをして改修せず、これまでどおり商品単位で支払い、仕入先のほうで端数を調整してもらうのが無難だと思います。

次期システムに更新する際、ないしは改修に費用が大きくかからないなら、「納品書単位」「請求書単位」「月次単位」に変えていくのが、端数の観点だけでなく、将来的に仕入税額計算で帳簿積上げ方式を採用できるようにするためにも良いと考えます。

・・・

杉下君「それじゃあ、購買システムの税計算はやっぱり変えたほうがよさそうですね。」

森室長「だから、税額計算の話は別にして、見積もりだけは取ってみようと思うよ。」

水谷部長「でも、多額な開発費用をかけるくらいなら、仕入先には従来どおりで支払う旨、レターを出すとかでも、いいんじゃないか。」

森室長「そうですね。2023年10月まではまだ時間がありますから、ベンダーからの情報も集めて検討してみます。」

杉下君「まちがっても請求書1枚1枚の端数を、1円単位で手修正していたあの頃には戻りたくないですね。」

森室長「そうか、杉下君は昔、購買部にいた時にその仕事してたのか。そりゃ、大変だったね(笑)。」

・・・

いかがでしたでしょうか。今回の消費税改正には「税率変更」「軽減税率(複数税率)」「インボイス制度」の3つのポイントがあります。おそらくシステム的に一番やっかいなのは「インボイス制度」です。販売システム(POSシステム)の区分記載請求書、適格請求書への対応。適格請求書がはじまる2023年10月までには、仕入税額計算や購買システムの仕様も確認しておかなければなりません。「軽減税率」も在庫システムの商品マスタに税区分がないと重たくなる可能性があります。単なるシステム改修だけではなく運用も工夫しながら、ムダのないシステム対応ができるようにしてください。

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