システム・業務・会計に関するコンサルティング   人手やコストをかければ、管理や業務は誰でもできるが、それでは生産性は上がらない

  1. 経営のしくみ別冊

原価計算で稼ぐ力を取り戻せ

「経営のしくみ別冊」は、弊所が発行している季刊誌です。
この記事は、Vol.8 2020.1「原価計算で稼ぐ力を取り戻せ」です。

はじめに

よく日本の製造業はピンチだと言われます。「日本国内で生産を続けても、海外の安い労働力で、価格競争で負けてしまう!」と。

たしかに、製造現場の「カイゼン」や「QCサークル」は出し尽くした感があります。もう目につくコスト削減の余地は見当たりません。10年前、私もそう思っていました。

しかしここ10年、企業投資ファンドのお手伝いで、多くの地方の中堅製造業を見てきて、実際はそうではないと確信しました。管理面の課題を改善できれば、稼ぐ力を取り戻すことができます。

改善ポイントの1つは「業務システム」です。製造業は他業種と比べると仕様が複雑なこともあり、システム化が遅れています。紙や手作業が減り、自動化やデータ活用が進めば、今より生産性が確実に上がります。

もう1つは「原価計算」です。担当者に「原価計算をつくったのはいつですか?」と尋ねても、答えはまず返ってきません。何十年か前につくって、それきりの原価計算を、実態と合わなくなった今も使い続けています。

本レポートは、改善ポイントの一つ、原価計算に焦点を当ててみました。古い原価計算はなぜダメなのか? 原価計算を刷新していくためにはどうしたら良いのかを書きました。製造業の方はぜひお読みください。

目次

1.営業が原価にもつ疑心暗鬼
2.少品種大量生産VS多品種少量生産
3.直接労務費は変動費か固定費か?
4.実際原価を過信するな!
5.原価計算プロセスは宝の山
6.新・原価計算プロジェクト
【付録】原価計算の種類

1.営業が原価にもつ疑心暗鬼

㈱甲乙製作所は年商80億円の地方メーカーです。産業用機械及び部品の製造販売をしています。昭和のオイルショックや平成の円高など、業績が苦しい時期もありましたが、令和2年の今年、創業80周年を迎えます。

将来の100周年に向けて、会社がより一層飛躍するためにどうしたらよいか。それを検討するため、「100周年に年商100億円を達成する」という目標をかかげ、「100・100プロジェクト」を立ち上げました。そこで、取り扱うテーマを社内から幅広く募った結果、営業から気になる意見が上がってきました。

「当社の製造原価は、ほんとうに正しいのでしょうか? 他社の販売価格と比べると、K製品シリーズは圧倒的に当社が安く、逆にL製品シリーズはかなり高めです。結果としてK製品ばかりを販売することになるのですが、はたしてそれで会社が儲かっているのか、営業として疑問を感じています。」

たしかに甲乙製作所の原価計算のしくみは、ここ何十年変わっていません。もしかしたら創業時から変わっていない可能性すらあります。早速、金田社長は、落合製造部長、野村経理部長、コンサルタントを呼び出して説明を求めます。

・・・

金田社長「営業からこんな意見が上がっているが、うちは大丈夫なのか?」

野村経理部長「経理上は問題ありません。」

落合製造部長「製造部も特に問題はありません。」

金田社長「じゃあ、どういうことなんだ!」

コンサル「原価計算の目的は3つあります。財務会計、原価管理、価格決定です。これは価格決定で、原価計算の問題が生じているかもしれません。」

金田社長「何だって? 会社としては一番ダメなパターンじゃないか。」

コンサル「そのとおりです。しかしこれは珍しい話ではありません。昔の原価計算を使い続ける会社では、よく起こる問題です。」

・・・

原価計算基準ができたのは、1962年(昭和37年)です。プロ野球の長嶋と村山の天覧試合が1959年、東京タワーができたのが1958年ですから、いかに古い時代にできたかがわかります。

しかも原価計算基準は公表されてから、一度も改定されていません。1962年当時の内容が一字一句そのままなのです。この事実を覚えておいてください。(※企業会計原則は1982年までに何度も改訂されています。ですから原価計算基準が日本で最古の会計基準だとも言えます。)

さて戦後日本は、朝鮮戦争(1950~1953年)が勃発し、膨大な朝鮮特需が生まれたことで、再興を果たします。そして1960年、池田内閣が「所得倍増計画」(1961年から10年間でGDPを2倍にする計画)をかかげ、日本はそれ以上の成長を遂げました。いわゆる高度経済成長時代(1955~1973年)です。

原価計算基準は、この高度経済成長時代の真っただ中につくられました。つまりその当時の製造業の経営・生産・慣習を前提にしてつくられた基準なのです。そして多くの製造業がこの時に基準を踏まえ、原価計算のしくみをつくり、その原型を大きく変えずに、いまも使用しています。

2.少品種大量生産VS多品種少量生産

金田社長「当社の今があるのも、高度経済成長期のお陰だ。」

落合製造部長「私は1980年入社ですが、たしかに当時と原価計算は変わっていないですね。正直、今のしくみに疑問を持ったこともありません。」

野村経理部長「当時と今の時代とでは具体的に原価計算が、どう違うのですか?」

コンサル「原価計算が違うというより、原価計算を取り巻く環境が劇的に変化したということです。大きな違いは3つです。」

・・・

製造業の経営・生産・慣習が、1960年代と現代とでは大きく違います。特に重要なのが「生産方式」「直接労務費」「実際原価」の3つです。

【相違点1】生産方式の違い

1960年代は少品種の製品を大量生産することで、原価を安くするスタイルでした。製品をつくるのに必要な材料や部品をまとめ買いしたり、製造現場に機械を導入して生産量を大幅に増やしました。

さらに、量産効果を上げるために、製品1個当たりの加工時間をいかに短くできるか? 設計段階から塗装、切削、加工、仕上などの各製造方法に至るまで工夫・改善されました。加工時間を短くして、生産量が増やすことが、工場長の命題だったのです。

これに対して、現代は多品種少量生産です。一つの製品がコンスタントに大量に売れることはまずありません。消費者やバイヤーのニーズに応えるために、製品のバリエーション(色・サイズ・オプション)は劇的に増えました。

製造品目が多品種になることでどう変わるか? これまでの量産によるコスト削減のしくみは通じません。

材料や部品は大量在庫できないので、代わりに販売計画や受注量に合わせた、きめ細かな在庫管理と少ロット発注の仕組みをつくることとなりました。また機械は、ロボットに進化しました。機械は単一作業専門ですが、ロボットはプログラム設定すれば、何でも行えます。多品種少量生産でのコストダウンには欠かせません。

原価計算の視点でみると、機械とロボットでは計算ロジックが全然違います。機械は基本、1台に一人の工員がついて作業します。いわゆる「有人」といわれる形態です。人と連動するので、機械コストを人の直接作業時間で配賦できます。

一方、ロボットは自動ですから、工員がずっと立ち会う必要がありません(いわゆる「無人」)。一人の工員が、複数のロボットを管理して、異なる製品を製造することも可能です。

もしロボット生産と人が連動しないにも関わらず、人の直接作業時間でコストを配賦すると、原価が狂ってしまいます。見直しが必要です。

話を戻しましょう。製造品目が多品種になることで、製造現場はどう変わるでしょうか。大量生産の時は、1個当たりの加工時間を短くすることが重要でした。しかし少量生産では、その有用性は大幅に低くなります。

それに代わって重要となったのが「段取作業」です。作る品目が頻繁に変わるようになったので、段取りを準備する回数が劇的に増えました。「1回の段取時間をいかに短くできるか」、「製造の順番や日程を工夫して、段取回数をいかに少なくできるか」が、現場のコスト削減(効率化)に直結します。

しかし、昔につくられた原価計算の多くは、段取時間や段取回数を計算ロジックに反映していません。それは古い原価計算の教科書を見てもわかります。段取時間が直接作業ではなく間接作業に分類されています。つまり昔は“大量生産”ですから、「段取」はそれほど重要ではなかったわけです。

・・・

金田社長「落合君、うちの段取時間はとれているのかね。」

落合製造部長「はい、段取時間は直接作業時間として集計しています。しかし加工時間と分けられていないので、段取時間や段取回数を原価計算に反映することはできていません。」

コンサル「まずは御社の生産方式において、段取がどれくらい重要なのかを調べましょう。見直しはその後です。」

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