システム・業務・会計に関するコンサルティング   人手やコストをかければ、管理や業務は誰でもできるが、それでは生産性は上がらない

  1. 経営のしくみ別冊

原価計算で稼ぐ力を取り戻せ

3.直接労務費は変動費か固定費か?

野村経理部長「ところで次の「直接労務費」ですが、これはどういうことでしょう? 概念は今も昔も変わってないと思うのですが・・・。」

コンサル「野村部長は40代ですよね。大昔、直接工は日払いや出来高払いだったことをご存知ですか?」

野村経理部長「ええ、詳しくは知りませんが、なんとなく。」

コンサル「当時の名残りを引きずって、じつは直接労務費を変動費として扱っている会社が、いまも少なくないんですよ。」

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【相違点2】直接労務費の違い

原価を考えるに当たって、変動費と固定費の違いは大事です。変動費は生産量と比例して発生しますが、固定費は生産量の増減に関係なく金額が一定です。変動費と固定費では、原価の発生形態がまったく異なります。両者を正しくつかんでおかないと、価格決定や採算管理を歪めます。

よくあるのが「直接労務費」を変動費とする間違いです。直接労務費とは、製造に直接かかわる部門工員(いわゆる「直接工」)の直接作業に関わる人件費です。たしかに一見、直接労務費と聞くと、製品を生産しなければ原価は発生しないように見えます。

しかしよく考えてほしいのですが、直接工の給与はどのように支払われるでしょう? 出来高払いですか、それとも時給制ですか? いまどきそのような支給方法は採用していないでしょう。社員は一律、月給制で固定給のはずです。

つまり生産の有無に関わらず原価が発生するので、直接労務費は完全な固定費です。それなのに、昔の原価計算のしくみを継続している会社は、往々にして直接労務費を変動費としています。

大昔の賃金形態は時給制・日給制・出来高制でした。当時の直接労務費は、ほんとうに生産に合わせて増減する変動費だったのです。

あるデータによると、月給制の割合は1939年(昭和14年)でたったの4%でした。それが1951年(昭和26年)には55%になったそうです。終戦後(昭和20年)、労働者の地位が急速に向上していったことがわかります。

ただし月給制が55%といっても、その内容はよくわかりません。月給制の中にも完全月給制、月給月給制、日給月給制と種類があります。日給月給制なら日給制と実質は変わりません。

さらに大企業から賃金制度が改革されていったことを考えると、世の大多数の中小企業のメーカーにとっては、日給制・出来高制のほうが普通だったに違いありません。

さて、ここでおさらいですが、原価計算基準ができたのは1962年(昭和37年)です。この当時に「直接労務費=変動費」という考え方が、まだまだ根強かったとしても、不思議ではないでしょう。
直接労務費を固定費ではなく、変動費に分類しているのは、当時の名残りなのです。

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金田社長「うちの直接労務費はどうなっている?」

落合製造部長「当社は、変動費と固定費の分類はしていません。直接費と間接費に分類しているだけです。」

金田社長「というと?」

落合製造部長「変動費固定費の分析が必要な時は、直接費を変動費、間接費を固定費とみなしてやっています。」

野村経理部長「つまり直接労務費は変動費として分析している、ということですね。だとすると、限界利益(※売上高-変動費)の考え方も変えないと・・・。」

コンサル「機械化が進んだ現代の製造業は、直間分類より変固分類のほうが圧倒的に重要です。原価計算のしくみだけでなく、分析手法や管理方法も改めて検討しましょう。」

4.実際原価を過信するな!

野村経理部長「3つ目は「実際原価」ですね。これは経理に関することですか?」

コンサル「もちろん経理の話もありますが、御社は実際原価を価格決定や原価管理にも使っていませんか?」

落合製造部長「ええ、使っています。当社はオプションや特注品を含めると結構な品目数になるので、全品目の標準原価や見積原価を作成できません。製造部も営業部も実際原価の情報をもとに、いろいろ管理されています。」

コンサル「そうですか。じつは実際原価は昔ほど基準になりえないのですよ。そのことを理解せず、鵜呑みにしていると大変な目に合うこともあります。」

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【相違点3】実際原価の違い

実際原価とは、実際に発生した最終の金額と、実際に生産で使った数量で計算した原価です。“実際”にかかった原価ですから、ある意味、真実に近い原価とも言えます。だから多くの人は、実際原価を正しい原価と考え、信じ、リスクペクトします。そしてあらゆる経営判断を実際原価にゆだねます。

しかし実際原価を過信するのは禁物です。なぜなら昔の実際原価は安定的でしたが、現代の実際原価は不安定だからです。状況や前提によって、金額が変わってしまうのです。どうしてそうなるのか? いくつか例を上げましょう。

①会計基準

現代には、当時にはなかった会計基準があります。2006年3月期から「固定資産の減損に係る会計基準」が、2009年3月期から「棚卸資産の評価に関する会計基準」が始まりました。簡単に言うと「固定資産や棚卸資産の資産には時価がある。その価値が下落したら、損失を認識しなさい」という会計ルールです。ある工場は、新築の建物で最新の機械を使っていたので、減価償却費の負担が重く、ずっと実際原価が高止まりしていました。赤字続きだったので、工場は固定資産の減損損失を計上、翌年から減価償却費がほぼゼロとなり、実際原価が30%も下落しました。

②賞与カット

現代の製造業の受注は、国内だけでなく米国や中国の影響を直に受けます。景気の好不況の波が激しいので、調整弁として賞与がよく使われるようになりました。たとえば「毎年夏冬合わせて4か月分支給していた賞与を、今期(来期)は2か月に半減する」などです。賞与が減らされれば、もちろん実際原価は下がります。このように現場の生産努力ではなく臨時的・政策的な要因が、実際原価に混入するようになりました。これは1960年代の高度経済成長期には、なかったことです。

③不安定な操業度

景気の好不況の波が激しいということは、工場の生産量も激しく上下するということです。受注や販売計画に合わせて、生産数量を調整していかなければなりません。製品の実際原価は「実際金額」÷「実際生産数量」です。生産数量が増えれば実際原価は低くなり、生産数量が減れば実際原価は高くなります。操業度によって実際原価の金額は大きくぶれるわけです。一方当時は、高度経済成長期が18年間続いたので、ずっと安定的に高い操業を維持したままでした。つまり実際原価はほとんどぶれていなかったわけです。

④設備老朽化

現代の製造業の多くは、新たな設備投資ができるほど余裕がありません。とっくに耐用年数が過ぎた、老朽化した建物や機械で生産を行っています。ですから現代の実際原価は、減価償却費がゼロ、ないしは極端に低い金額になっています。これに対して1960年代は生産拡大期ですから、設備投資もコンスタントに行われていたでしょう。当時の実際原価には適切な減価償却費が含まれています。

まとめると、現代の実際原価は大きくぶれる不安定な要素があります。当時の安定していた実際原価とは意味が違うのです。さらに将来の投資回収に必要な減価償却費が実際原価に入っていません。これは原価を安く見積ることにつながります。

価格決定でもっともポピュラーな方法は、価格=「実際原価」+「利益」でしょう。過去の実際原価またはそれを参考にして見積もった原価をベースに、30%などの一定の利益を加算して価格を決める方式です。

この時、実際原価に必要な減価償却費が入っていないなら、新たな設備投資をするための資金を回収できません。過去の減価償却分はすでに別な何かに使っています。減価償却費相当をきちんと実際原価に上乗せしないとなりません。

また賞与を半減した時の実際原価だったなら、それで価格を決定すると、どうなるでしょう? 社員が身を犠牲にしてねん出した財源をすべて、得意先に還元することになります。そして一度下がった価格はなかなか戻すことができません。賞与2か月状態がずっと続くことになるでしょう。

実際原価の“実際”とは、あくまで会計的な話にすぎません。たしかに会社の業績はそれで決まりますが、原価管理や価格決定はまた別な話です。実際原価を絶対的に信じ、すべての判断材料に使ってはいけません。

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金田社長「うちの工場は創業30周年の時に建てたから、もうすぐ50年だろう。設備もほとんど老朽化しているが、減価償却費はどうなんだ!」

落合製造部長「たしかに今、減価償却費は僅少です。」

野村経理部長「価格決定時に加算している利益率40%は、販管費を回収して営業利益10%を出す設定ですから、新規設備投資は考慮していません。」

コンサル「でも、営業利益10%の中に新規設備投資を含めていませんか? そうであれば総額は問題ありません。ただし製品によって必要な減価償却費は異なりますから、各製品原価に含めて価格を考えるほうが、利益率で一律加算するよりも適切です。」

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