システム・業務・会計に関するコンサルティング   人手やコストをかければ、管理や業務は誰でもできるが、それでは生産性は上がらない

  1. 経営のしくみ別冊

原価計算で稼ぐ力を取り戻せ

5.原価計算プロセスは宝の山

落合製造部長「ここまでは、わりと価格決定や営業見積りのメリットが多いですが、新しい原価計算は生産管理で、どれくらい役立つものなのですか?」

コンサル「今は具体的にどのような生産管理をしていますか?」

落合製造部長「月次で『製品原価差異分析表』を作成しています。差異内容や理由を説明し、今後の製造部の対策を書いています。」

コンサル「情報は金額だけですか? 時間・回数・個数とかは?」

落合製造部長「いいえ、金額だけです。」

コンサル「原価計算を刷新すると、いろいろな情報が取れます。たとえば結果でである金額になる前の“時間”“回数”“個数”など。これらをパラメータとして分析したり、予実管理できれば、より実践的なコスト削減ができるのです。」

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工場がよくおかす間違いは「1個当たりの製品原価を下げよう」とすることです。「実際金額」÷「実際生産数量」ですから、放っておくと作り過ぎを招きます。金額を削減するより生産数量を増やすほうがずっと簡単だからです。

操業度が大きくぶれる現代において、見かけ上の製品単価を削減することはあまり意味をなしません。原価差異分析で有利・不利が出るのはほとんど操業度差異、つまり受注・販売計画次第だからです。

それよりも工場が責任もって取り組むべきことは、「部門固定費の削減」と「現場の生産性向上」です。原価計算とは、言ってみれば、各部門原価の金額を、生産実態に即して“時間”“回数”“個数”などを使い、製品原価に配賦していく作業です。原価計算を刷新すれば、自ずと時間・回数・個数などのパラメータ数値を把握することができます。

これらを基準として、実際の金額・時間・回数・個数を比べれば、日々の改善活動に取り組むことができるのです。最終結果である“金額”の「製品原価差異分析」を見ても、わかることは限られます。より建設的に原価管理したいのなら、原価計算プロセスの中で生じるパラメータを活用しましょう。

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金田社長「トヨタのかんばん方式の生みの親、大野さんの言葉を思い出すよ。」

落合製造部長「“在庫は罪子”ですか? 現場に作り過ぎさせないために、後工程から前工程に製造指示(かんばん)を流すのを考えたのだからすごい。」

野村経理部長「そういえば、大野さんは本社経理部とよく喧嘩をしてたとか。」

コンサル「本当のところは知りませんが、大野さんは実際原価を嫌っていた話は有名です。現場が実際原価を下げようと、ついつくり過ぎるから、会計上の実際原価で経営してはダメだと思っていたようです。」

6.新・原価計算プロジェクト

金田社長「よし、よくわかった! 原価計算のしくみを全面的に刷新しよう。」

野村経理部長「賛成です。」

落合製造部長「私も賛成です。ところで原価計算の刷新は、実際どれくらい期間がかかるものなのでしょうか?」

コンサル「製造工程や品目数にもよりますが、1年は見たほうがいいでしょうね。その後もパラメータのチューニングも必要です。データがないと初期値は暫定となるので、実績がとれ始めたら調整も欠かせません。」

落合製造部長「段取時間や段取回数など、今までのデータがないですものね。」

コンサル「そうです。」

野村経理部長「プロジェクトは、具体的にどう進めていけばよいのですか?」

コンサル「これもケースバイケースですが、大きく6ステップになります。」

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原価計算の刷新は一大プロジェクトです。しっかりと体制を組み、人員を整え、十分な期間をかけて取り組みます。進め方の一例としては、次の6ステップです。

ステップ1 現行の原価計算を調査する

現行の原価計算の各種情報取得から費目別・部門別・製品別の計算過程まで一連の流れを調べます。さらに原価計算に関連する生産管理システム、経営管理・生産管理資料、引合い時の原価見積方法及びフローを確認します。成果物としては「原価計算の流れ図」「原価資料一覧」「経営管理・生産管理資料一覧」「生産管理システム構成図」「原価見積フローチャート」などをつくります。

ステップ2 組織・工程・製品の関係性を見直す

組織体系と製造工程・製品(工程仕掛品含む)の関係性は会社によってさまざまです。各部門の業務内容、現在の形に至った沿革と将来の事業展開も踏まえて、組織・工程・製品の関係性を見直します。ここでやるべきことは、費目から製品にどのような経路で原価を結びつけるか、ということです。これが正しくないと、大きく実態と異なってしまいます。成果物としては「組織・工程・製品の対応表」「新・原価計算の流れ図」などです。

ステップ3 費目別計算を精緻化する

原価費目の集計範囲、変動固定費分類、計上金額について検討します。開発費・営業支援等の販管費と原価の入り繰りも整理します。減価償却費は実績のままでよいか? 価格決定のために一定の嵩上げが必要ならば、その方法・金額も考えます。成果物は「原価費目ルール」「実際原価と嵩上げの調整表」などです。

ステップ4 部門別計算を精緻化する

部門間の配賦経路と配賦基準を検討します。配賦基準は細かすぎてもいけません。毎年実際にメンテナンスすることも考えて、バランスを考慮します。また部門から製品別計算が適切に振替えできない場合は、さらに部門を工程・小工程・作業単位に細分化することも必要です。成果物としては「部門原価表」「部門間配賦ルール」「情報・データ項目一覧」「情報・データ収集結果」です。

ステップ5 製品別計算を精緻化する

各部門(または工程・小工程・作業単位)のコスト発生形態に合わせて、製品への配賦方法を検討します。たとえば単純平均でなく段取り・加工を分けた生産量(ロット数量)に応じた原価配分ロジックなどを構築します。製品別の原価にメリハリをつける重要なステップです。成果物としては、「製品別原価計算表」「部門別生産能力一覧」「現場ヒアリング」「情報・データ項目一覧」「情報・データ収集結果」となります。

ステップ6 主要品目の予定原価をつくる

多くの企業は品目ごとに予定原価を設定しています。呼び名は予定原価、標準原価、社内価格、基準値、原価見積など各社によってさまざまです。ステップ5までの計算ロジックをもとに、主要品目の予定原価、場合によっては品目別ロット単位別の予定原価を求めます。製品の品目数が多いと相当な工数になります。予定原価を営業の見積に利用する会社は、営業との調整も必要となってくるでしょう。成果物としては「製品別(ロット別)予定原価一覧表」などです。

以上が、原価計算刷新の6ステップです。実際はこのあと、新しい原価計算を核として「価格決定」「生産管理」「基幹システム」も考えていかなければなりません。営業・製造部・情報システム部も加え、会社の稼ぐ力を生み出す土台づくりが、ここから始まります。

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野村経理部長「道のりは、ずっと先まで続いているのですね。」

落合製造部長「でも実現したら、当社が大きく変わるのは間違いない。」

金田社長「我々ができることは、次の100年続く強い会社を残すこと。まさに100・100プロジェクトに相応しいじゃないか! 皆、よろしく頼むよ。」

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いかがでしたでしょうか? 原価計算刷新の必要性を理解し、取り組もうと思っていただけたのなら幸いです。日本の製造業がますます強くなりますように。

【付録】原価計算の種類

原価計算の種類はたくさんありますが、かんたんに説明すると、「何の原価を」+「どの範囲で」+「どの単位で」の組み合わせです。

※「等級別」は総合の変形、「純変動」(スループット)は変動の変形です。
※基準上の直接原価計算は「直接費変動費」ですが、上表は違いをわかりやすくするために単に「直接費」としています。

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