新規事業の鉄則「初期投資をいかに抑えられるか」

新規事業の鉄則「初期投資をいかに抑えられるか」

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 個人が創業する、企業が新規事業に参入する、どちらにしても新たなビジネスを起こし、それを継続することは大変です。

 

 中小企業白書によると、起業した後、10年後には約3割の企業が、20年後には約5割の企業が退出しています。企業が行う新規事業の撤退率はわかりませんが、撤退しやすい分、起業と同等の割合かそれよりも高いと思います。

 

 なぜ、新規事業は撤退に追い込まれやすいのか。

 

 それは当初の計画が狂うからです。想定外のことが発生したり、一つ一つのタスクが、考えていた以上に時間がかかったりするので、計画通りに売上や利益が出てこないのです。

 

 これまで、数多くの事業計画を見てきましたが、当初計画どおり数字を上げた会社は1社だけです。その企業は、ほどなくして上場しましたが、このような企業はまれです。

 

 では、どうすれば事業を継続する耐久力がつくのか。それは、徹底的に初期投資を抑えることです。投資するにしても、最初は極力小出しにして、様子を見ながら追加投資します。

 

 一度に全額投資しないので、上手くいかない時は手元資金を別なことに使えます。勝利の方程式をつかむまで、何度かチャレンジする機会を持つことができます。

 

 先週、東京で観測史上初の11月の積雪がありましたが、タクシーの運転手さんから、タクシー会社の「冬タイヤ」対応に関して、おもしろい話を聞きました。

 

「タクシー会社によって「冬タイヤ」の対応は異なる。冬が近づくと、

 A社は4輪すべて冬タイヤに替える。

 B社は2輪だけ冬タイヤにして乗り切る。

 C社は冬タイヤにせず、雪が降ったら「回送」にしてゆっくり帰社する」

 

 素人考えだと、タクシー事業を始めるなら場所が東京でも、「夏タイヤ」と「冬タイヤ」がタクシー台数分必要だと考えるでしょう。タイヤ購入費は2倍となり、年2回の取替え費用、使わない期間の保管費用もかかります。

 

 一方B社は「冬タイヤ」を半分に抑えています。さらにC社は雪が降る年何日かの営業は最初から捨てて、「冬タイヤ」を一切買わないという選択をしています。

 

 法律上B社やC社の対応が許されるかはわかりません。ここでは安全面はいったん忘れて、新規事業の初期投資と考えると、C社の戦略は正しいと思います。

 

 事業を始める際、その業態の成功企業をモデルにするので、「これもあれも必要だ」と考えてしまいがちです。しかし「それは最初から本当に必要なのか」と問いただすことが大切です。

 

 まだ売上や利益がほとんど上がっていないベンチャー企業が、資金調達したお金で、豪華な受付や社長室をつくっているのを見ると「事業の怖さを知らないなあ」と思ってしまいます。

 

 新規事業の鉄則は「初期投資をいかに抑えられるか」です。初期投資を抑え、トライ&エラーをくり返すことが成功への道です。

決算早期化のための単位変更という奇策

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 上場企業の経理部の重要な仕事。それは決算開示業務です。具体的には、有価証券報告書、四半期報告書、計算書類、決算短信など、決算数字を中心とした開示書類の作成です。

 

 この仕事は、担当者の神経をとてもすり減らします。開示書類は上場企業の公式な数字です。投資家はこれらの決算数字を見て、会社の株式を売買するわけですから、作成者の責任は重大です。

 

 このような大変な仕事ですが、実はある奇策を用いると、各段に楽にすることができます。最初にほんの少し工数がかかりますが、その後は何の手間もかかりません。しかもノーリスクです。

 

 「そんな上手い話があるのか?」と思うかもしれませんが、本当です。私は何社にもこの奇策を助言し、適用してきました。ただし、この奇策を利用できるのには条件があります。中堅企業で、過去それを実行したことがなく、かつ実行可能なタイミングにある企業に限ります。

 

 その奇策とは・・・開示金額の「単位変更」です。

 

 「千円単位」で開示していたのを「百万円単位」に切替えるのです。※ここまで読んだ、すでに「百万円単位」の上場企業の方は、ごめんなさい。

 

 千円単位だと10億円の数字は「1,000,000千円」と書きます。これが百万円単位だと「1,000百万円」です。ゼロが3個いらないのです。

 

 開示書類内の100以上ある金額で3ケタ省略できると想像したら、いかに業務が軽減するかわかるでしょう。入力作業もそうですが、最も効果が高いのは入力後の検証作業です。7ケタの数字でなく4ケタの数字なら、チェックも楽です。

 

 一方で、「単位変更は開示の後退なのではないか?」という意見もあるかもしれません。たしかに百万円単位にすれば情報量は落ちるでしょう。

 

 しかし、年商100億円以上の上場企業なら、百万円単位でも会計報告責任を十分果たせています。むしろ千円単位のほうが見にくくて、情報の視認性が低いくらいです。

 

 では、いつ・誰が判断すれば良いのか。

 

 単位変更にルールはありません。監査法人も積極的には特に言ってこないので、上場企業が自ら判断すれば良いことです。

 

 私は、年商100億円を超えた時が一つのタイミングだと考えています。ただ、年商100億円以下で「百万円単位」にする企業もあれば、年商1000億円くらいで切替える企業もあります。

 

 いずれにせよ、早い段階でやっておくに越したことはないです。単位変更すれば、業務量も開示エラーのリスクも減ります。考えるほど百万円単位未満の数字は見られていませんし、有用性が低いことはやめるべきです。

 

 単位変更を決断すれば、あとはタイミングですが、年次決算が大半です。それまでに監査法人には確認して了承を取っておきましょう。

現場のやりたいことは必ずしも会社の最善ではない

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 私がシステム開発や業務改革で現場ヒアリングしている時、常に意識していることがあります。それは、「現場のやりたいことは、会社にとっての最善なのか」ということです。

 

 業務担当者に「次期システムでどのような機能がほしいか」と聞けば、自分の業務を快適にするための内容がほとんどです。

 

 なぜなら、業務担当者は毎日同じ業務を繰り返しています。「少しでも簡単にできるようにしたい」と思うのは人として自然な話です。

 

 情報システム部は、その気持ちがわかるだけに、現場の希望をできる限り叶えようとします。また、システムベンダーは要求に応えるのが仕事ですから、すべて開発しようとします。

 

 こうして、システム要件が「現場ファースト」の仕様となるわけです。

 

 しかし、現場のやりたいことは必ずしも会社にとっての最善ではありません。ドラッカーが指摘しているように、各部門のタスク自体が目的化している危険があります。

 

 では、どうすれば最善の業務(ベストプラクティス)に修正できるのか。その答えは、現場ヒアリングのやり方を変えることです。

 

 本来、要件定義の現場ヒアリングは現場の要求を洗い出し、肯定し、整理する場です。しかし、それではどうしても現場ファーストに偏ります。

 

 そこで、ヒアリングでは“現場(現状)の否定”から入ります。ヒアリング実施者は「それが果たして会社にとって最善なのだろうか」という疑問を持ちながら、ヒアリングするのです。

 

 それが徹底できると、当初は気付かなかった経営貢献や業務改善のヒントが生まれ、ベストプラクティスにつながります。

 

 しかし、これは言うほど簡単なことではありません。現場担当者はそのタスクの専門家です。その人が言っていることを、普段従事していない人が否定するのですから、「何を言ってるんだ。わかりもしないくせに!」と言う反発が当然あります。

 

 “現場の否定”を実践するヒアリング実施者には、3つの要素が必要です。

 

1「会社の最善とは何か」を人に説明できること

 経営の視点は、なかなか言葉ではいいあらわすことができません。個別の業務の中で、色々な形であらわれてくるものだからです。そのため、ヒアリング実施者は「会社の最善とは何か」を体感でわかっている必要があります。

 

2各部門の目的・ミッションの理解

 機能別組織には、各部門・チームに与えられた役割や目的があります。それらを明文化したのが「業務分掌規程」です。これらを頭に入れた上で、会社の最善と、各部門の求められる目的・水準のバランスをとります。

 

3各部門の最低限の業務知識

 ヒアリング対象の大所の業務を理解していないと、議論の土俵に上がれません。これがないと受け身一方のヒアリングになります。情報システム部員に他部門交流が推奨されるのは、まさにこれです。

 

 ヒアリングは、現場(現状)を否定するより肯定するほうがずっと楽です。しかし、それだと現状の打開はできません。経営貢献できるシステムや改革を目指すためには、苦しくてもイバラの道を進みましょう。

ベンチャー企業の「勝利の方程式」

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 「若くしてベンチャー企業を起こし、株式上場まで果たす」 いかにも成功者というサクセスストーリーですが、その道は非常に狭き門です。実際、昨年の新規上場は年間100社程度ですから、そのような体験ができる人は極わずかです。

 

 一方、上場予備軍の数は新規上場の10倍と言われています。ステージはそれぞれで異なるでしょうが、100社だと1,000社以上です。

 

 たしかに、監査法人が関与したベンチャー企業10社に対して上場1社というのは、私の経験的にも近い数字です。上場をある程度本気で考えている企業の上場確率は「10%」と考えても悪くないでしょう。

 

 では、どうしたら自社の上場確率を高くできるのか。それは事業の核となる「勝利の方程式」をなるべく早くつかむことです。

 

 勝利の方程式とは、簡単に言うと「何の商品を、どのターゲットに、どのような手法で販売し、必要な利益を上げるか」です。これはビジネスの基本中の基本ですが、勝利の方程式を発見できずに沈むベンチャー企業が後を絶ちません。

 

 たとえば、商品や製品に自信がある、創業したばかりの方は、「この商品は従来にない画期的な機能があるので、間違いなく売れる」と言います。そして、いかに優れているのかを一生懸命に説明してくれます。

 

  私は、このような言葉を何十社以上のベンチャー企業から聞きましたが、それを実現できた企業はごく少数です。

 

 売上もままならないベンチャーにとって、商品や製品の良さは「もろ刃の剣」です。なぜなら卓越しすぎた商材は、まだマーケットに認知されていないので、相当な営業力やマーケティングが必要だからです。

 

 あるベンチャーの社長は「これは大ブームになる」と、集めた資金をいきなり新製品に5億円つぎ込みましたが、ほとんど売れることなく終わりました。またあるベンチャーは資金集めすら上手くいかず、頓挫しました。

 

 商品や製品が良いからといって、「ほっといても売れる」ことは決してありません。売上規模は小さくてよいから、模索して「どのターゲットに、どのような手法で販売すれば、利益が出るのか」をつかむことが先決なのです。まずはそこからです。

 

 多くのベンチャー企業は、資金集めのタイミングを間違っています。極力自己資金で「勝利の方程式」を掴み、その事業を大きくするために資金を集めるところ、資金を集めてから「勝利の方程式」を探しているのです。そのため、資金が枯渇する前に見つけられずに大変な思いをします。

 

 勝利の方程式は、言い換えれば「創業」そのものです。ファウンダー(創業者)が尊敬されるのも、まさにその点なのです。

1億円のシステム投資を社長に承認してもらう方法

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 事業が成長して初めて本格的な基幹システムを導入する時、システムベンダーに概算見積を依頼すると「億越え」の金額をもらいます。

 

 それまで簡易なパッケージソフトや、高くて数百万円のシステムしか導入したことがない企業にとっては、驚くような金額です。

 

 おそるおそる担当者が、社長のところにシステム導入の話をしにいくと、

 

「1億円? システムに高すぎじゃないか? 本当に必要なのか精査しろ!」

 

と言われます。こう言われて、途方にくれた人も少なくないのではないでしょうか。実際、私のところにも「システム投資金額が高いと言われたのですが、これが相場でしょうか?」と言うご相談もたまにあります。

 

 相場と言っても、ビジネスや企業規模によって必要なシステムは変わりますから、一概には言えません。ただ、全社システムの初期投資の目安として、年商の1~3%の金額で考えていれば大外れはしないです。参考にして下さい。

 

 ところで、創業時のシステムと言えば、家電量販店で売っている会計ソフトくらいです。パソコンにインストールして使う類で、金額は1台用で10万円以下です。

 

 その企業がベンチャーの「死の谷」を超えて、一つの勝利の方程式をつかむと、事業は急に成長し始めます。

 

 店舗運営の小売であれば成功店をモデルに多店舗化します。物販であれば取扱い商材や営業所を増やし、拡大路線に入ります。これらが上手く回り始めると、あっという間に年商は30~50億円くらいにはなります。

 

 この段階の会計システムだと、まだパソコンソフトが多いと思いますが、さすがに1台用はムリです。ネットワーク版といって複数人が同時作業できるバージョンとなります。価格は大体100万円です。

 

 この段階で基幹システムを導入するか否かはビジネスによるでしょう。取引単価が少額で取引量が多い企業だと、簡易なシステムは必要です。価格は数百~数千万円でしょうか。

 

 そして、年商50億円を超えて中堅企業となり300億円を目指す過程のどこかでは、必ず本格的なシステムを導入する時期がきます。

 

 なぜなら、簡易システムのままでは、経営情報が見えづらくなるからです。その上、業務は人海戦術で非効率な状態が続きます。企業規模に相応しいシステム化を怠ると、成長が停滞します。

 

 たとえば、会計システム。情報量が増大すれば、オラクル等の高性能なデータベースが必要です。中堅企業向けの会計システムではデータベースを独立した形で運用します。

 

 また、中小企業の場合、手間がかかるので商品の受け払いは管理せず、月末の棚卸で在庫数量を確定しています。しかし、この体制では月中の正確な損益を把握することができません。

 

 取扱い商材が増えれば、これは致命的になります。受け払いを管理するということは、それまでの業務管理とレベルがまったく異なるのです。それを実現するためには、「販売管理」と「購買管理」と連動した「在庫管理」を持つ基幹システムが必要です。

 

 社長には、次のように説明すると良いでしょう。

 

「これから5~10年、当社の成長は年商30~50億円で留まるのでしょうか。そうであれば、システム投資は数千万円程度に抑えます。しかし、100億、300億を目指すのであれば企業としての本格的なシステム構築が必要です。今回の1億円はそのための土台作りです。」

 

 新規のシステム導入は、検討を始めてから稼働できるようになるまで、少なくとも1年はかかります。事業が急成長して業務がパンクしてからでは遅いのです。中期計画や業務実態を踏まえ、適切なタイミングで社長に進言しましょう。

 

※本文記載の年商は物販業をモデルにしています。製造業等は5掛け・7掛けで検討する必要があります。

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