経営の仕組みが中堅企業の成長を阻害する

経営の仕組みが中堅企業の成長を阻害する

 事業が成功し企業規模が拡大すれば、規模に見合う経営の仕組みが必要になります。ところが、売上や新規事業の立ち上げばかりを追い求め、仕組み作りを疎かにする会社が少なくありません。せっかくビジネスが上手くいっているのに非常にもったいない話です。

 

 規模に相応しい仕組み構築を怠り、従来の仕組みで走り続けるとどうなるか。これは業種業態に関わりなく、どの企業にも同じ症状が現れます。その一致は面白いほどです。どのような症状が現れるのか。具体的に見ていきましょう。

 

 

■症状1 決算の遅延

 事業が成長すると取引先や取引量が増え、それを処理する仕訳伝票枚数が増えます。社員や拠点も増えるので、経費の精算や支払い回数が増えます。経理処理やお金回りの様々な業務量の増加に伴い、月次決算が遅くなるのです。決算が遅くなれば当然、経営の意思決定も遅れます。

 

 

■症状2 管理コストの増大

 経理や人事などの業務量が増えると、次に管理部の人を増やします。しかし管理業務は営業や製造と違って、繁忙・閑散の差が大きいです。経理であれば月末月初に業務が集中します。専門性が高く兼務も難しいので、ピークに合わせてより多くの人員を要します。

 

 

■症状3 コミュニケーション不足で生産性低下

 社員が増えてくると、知らないことが増えていきます。少人数だった頃は当たり前に伝わっていた情報が、意識的に情報を取りこまないとわからないのです。そのため、色々なことが後手に回ったり、重複やムダが起きたりします。生産性は低下し、それは業績の悪化という目に見える形で現れます。

 

 

■症状4 不正や法令違反の発生

 業績の悪化を食い止めるための適切な対策を施さず、ただ単に社内に激を飛ばすと今度は無理が増えます。サービス残業やパワハラの類。新規事業を見切り発車で立ち上げ、契約書の不備や法令違反。さらに社員数が増えて目が届きにくくなったことも拍車して商品の横流し、売上の架空計上などの不正リスクが上昇します。

 

 

 これらの症状は、企業規模と経営の仕組みのアンマッチが拡大すると現れます。そのアンマッチにいつまで耐えられるかはビジネスモデルに寄ります。単一事業や粗利が大きい企業だと比較的耐久力がありますが、複数事業を営み粗利が小さい企業は早い段階で成長に陰りが出るでしょう。

 

 一つのビジネスモデルが成功して中堅企業(年商50~300億円)になれても、その上の大企業になれるかどうかは、ビジネスそのものより経営の仕組みが果たす役割が大きいです。

 

 一時は勢いに乗って年商を拡大できても、仕組みが悪いとエンジンブレーキのように足を引っ張り、成功の阻害要因になります。規模に見合う仕組みを構築し、秩序と業務効率・生産性を取り戻し、成長を加速させることを、ぜひ重要な経営課題として認識してほしいと思います。

現場から事前相談がない!管理部門の対策は?

 新規事業に関して「現場から事前相談がない」「情報が届くのが遅い」「内容確認に時間がかかる」「後々の処理のことを考えていない」・・・管理部門からは、よくこのような困りごとを聞きます。

 

 どの会社でも身に覚えがある話ではないでしょうか。一時期テレビで「あるあるネタ」が流行りましたが、まさにこれはベンチャー企業あるあるです。

 

 ベンチャー企業は、新規事業を次々と立ち上げ、すべてが整っていない状態でも、まずやってみます。そのため失敗も多いのですが、このフットワークの軽さこそ、ベンチャースピリッツです。

 

 ゆえに、新規事業の立ち上げでは、経理や法務などの管理部門と十分相談することなく進められることも少なくありません。

 

 しかし、ビジネスは取引だけでは成立しません。取引に関わる法令順守や経理処理を含めた一連の仕組みがあってこその事業です。担当者が知らない法律や条例があったり、契約内容一つで会計処理が異なり売上がすぐには計上できなかったりすることもあります。

 

 現場担当者が新規事業をスタートさせることばかり考えてしまうのは、ある意味致し方がないことですが、すべてが完了する前には管理部門ときちんと相談することが不可欠です。

 

 どうしたら現場が事前相談してくれるか。管理部門ができる対策を考えてみましょう。

 

 

■対策1 事前相談の義務化

 新規事業を検討するに当たり、もし予算取り等で稟議や申請があるならこれを利用します。事前相談を義務化し、法務部・経理部の相談が終わっているか否かをチェック項目にするのです。

 

 新規事業の中には、契約書が締結していないで事が進むこともあるでしょう。新規の正規契約書締結は時間がかかるものです。しかし法務部への事前相談により担当者が法務リスクを多少理解するだけでも、リスクは大幅に低減します。

 

 また稟議や申請は電子化して、法務部・経理部にも閲覧権限を与えます。いつでも情報取得できれば、請求書が届いてから経理が初めて知るようなことはなくなります。

 

 

■対策2 相談窓口を作る

 事前相談がなくて困っていると言う割に、管理部門では相談窓口がなかったりします。「部内の誰に聞いてもらってもよい」というのは管理側の都合です。新規事業の構想段階から関与するには、管理部門内で経験豊かな特定の人を置き、当面は部内でも秘密厳守で当たらせるべきです。

 

 相談窓口を置いて社内に正式に告知するだけでは足りません。窓口の認知を高めるのと教育啓蒙を兼ね、定期的に新規事業で良くある問題点や情報を発信することです。

 

 また新規事業担当は少数でしょうから、相談窓口になった人は個人的な人間関係を構築することも大切です。

 

 

 とりあえず2つ対策を挙げてみました。現場部門は新規事業の立ち上げで常に頭がいっぱいです。管理部門に情報が下りてくること、事前相談に来ることが当り前とは考えず、管理部門自らが現場部門に働きかけましょう。

月次決算は遡及させない仕組みにする

 現代会計の起源は、大航海時代の交易だと言われています。

 

 当時の交易は、欧州の出資者がお金を出し合って船を調達し、地元の特産品を仕入れます。何か月も航海してアジアに運び、積荷を売りさばき、今度はアジアの特産品を仕入れます。それをヨーロッパに持ち帰って売りさばき、出資者に出資金と利益を還元します。

 

 この航海の収支を記録したのが「会計」であり、出資者に報告した行為が「会計報告」です。こうしてみると無機質な会計にもロマンを感じます。

 

 大航海時代は、一つの航海が終わると出資者に報告し、お金を分配しました。しかし、現在の会社組織は、事業を継続して会社を成長させ続ける仕組みです。大航海時代のように終わりがありません。

 

 そこで、出資者に定期的に会計報告し利益を分配できるように、一定の期間で区切りを設けたのが「会計期間」です。制度会計の会計期間は通常1年で、年1回決算をして株主総会に報告します。

 

 会計期間は、継続するビジネスのために設けられた暫定的な区切りですが、報告・分配するための重要な区切りです。

 

 ゆえに、一度確定した報告を後から遡及して修正することは、原則として認められていません。それを認めてしまうと、定期報告・分配の仕組みが成り立たなくなってしまうからです。

 

 一方、管理会計の会計期間は通常1ヵ月です。月1回決算(月次決算)をして経営者に報告します。管理会計は経営のために会社が自由意思で実施するものですから、制度会計ほどの厳格さは求められていません。

 

 しかし、だからと言って月次決算で遡及修正を許すのは非常に危険です。

 

 現在の業務システムや業務プロセスは複雑に絡みあっています。販売管理システム→債権管理システム→会計システム→連結会計システム→経営報告レポートと、データがバトンリレーのようにつながっています。

 

 当月になって前月分の売上計上漏れを発見したとしても、前月分のシステム処理が終了しているならば、当月分として処理しなければなりません。

 

 仮に販売管理システムに前月分として入力してしまうと、連携している債権管理システムや会計システムと整合性が取れなくなってしまいます。もう一度、全部のシステムでデータを再取り込みしない限り、この差異は解消されません。

 

 通常はこのような事象を防止するため、システム上、月次締め後は前月分を入力できないよう機能を制限しておきます。しかし、自社開発したシステムだと、現場の業務要求を聞き入れ、過去データを自由に修正更新できるようになっていることも少なくありません。

 

 決算早期化、業務プロセスやシステム単純化のためには、月次決算の締め後の遡及を禁止し、それを担保する仕組みづくりが大切です。

市場環境に応じて稼働率の見方を変える

 製造業にとって稼働率は重要な経営指標です。目標稼働率を定め、その達成状況を工場長の評価にしている工場も少なくありません。

 

 たしかに稼働率が上がれば生産量が増えます。生産量が増えれば1個当たりの固定費が下がり、製造単価が下がります。製造単価が下がれば利益が増えますから、高い稼働率をキープすることは重要です。

 

 ただし、これには大きな前提条件があります。それはその製品が「作れば作るほど売れる」ということです。生産量の増加が許されるのは、それに見合う販売があるからです。販売できないのに生産量を増やせば、当然、工場は在庫の山となります。

 

 在庫が増えたとしても、在庫は会計的には資産です。そのため、作れば作るほど資産が増え、損益は改善します。稼働率を上げると会計上の利益が増えるので、関係者はあまり罪悪感を持たないのです。

 

 しかし資金繰りはどうでしょうか。販売量は増えないのでお金は入ってきません。それにも関わらず、生産量が増えた分、変動費の支払いは余計に発生します。つまりキャッシュ・フロー的には悪化しているわけです。

 

 さらに言うと、在庫がいずれ販売されれば良いですが、在庫の山が滞留在庫となり、最終的に売れずに損失になると、損益も一気に悪化します。経営的に決して良い状態ではありません。

 

 このように、稼働率に焦点を当て過ぎると、作り過ぎを誘発します。だからこそ、市場環境を正しく把握することが大切なのです。その製品は、作れば作るほど売れるのか、それとも、売れる分しか作れないのか。

 

 もしその製品が、売れる分しか作れないならば、稼働率を絶対的な経営指標にしてはいけません。需要が少ないのですから、稼働率は低くて当然です。それは工場の責任ではないのです。

 

 もちろん、そのまま稼働率が低いのを放っておけば良いという話ではありません。工場が持つ最大生産能力を活かせるよう、営業を強化して受注を増やす対策を取らなければなりません。

 

 また、市場環境が悪くどうしても受注が増やせず、将来の成長性も見込めないなら、今度は工場サイドの見直しが必要です。稼働率が低いということは、裏を返せば生産能力が過剰ということです。設備や人を配置転換したりして、需要に見合う生産能力にリサイズします。

 

 市場環境によって稼働率に対する見方は180度違います。環境が変わっているのに気付かず、稼働率を重視する経営を続ければ、最終的に経営悪化を招きます。一見会計上の利益が上がるので、見過ごされがちですが、十分気を付けましょう。

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