はじめに

企業が成長する過程で、月次決算の早期化や購買業務改善のため、購買プロセスを見直す時期が必ずやってきます。請求ベースの仕入計上と納品ベースの仕入計上について説明し、購買プロセスを変える注意点を解説します。


購買プロセスにおける仕入計上の問題点

購買プロセスとは、企業が商品やサービスを調達するために行う一連の手続きのことです。典型的な購買プロセスの流れは以下の通りです。

  1. 発注 購買担当者が、仕入先に商品やサービスを調達するための仕入れ依頼を発注します。発注は口頭で行われる場合もありますが、発注書などの文書により行われることが多いです。発注書には、品目名や数量、価格、納期などが記載されます。
  2. 納品 発注された商品やサービスが、仕入先から納品されます。納品された商品が発注内容と一致しているかを現物と納品書で確認し、問題がなければ検品作業や倉庫保管などに進みます。
  3. 請求書の受領 仕入先から請求書が送られてきます。請求書は納品の都度発行される場合もありますが、継続取引では月末締めなど、複数の納品がまとめらることが多いです。請求書と納品書(または発注書控え)と照合し、請求書に不備がなければ、経理に回されます。
  4. 仕入計上 経理担当者が、請求書の金額を会計システムに仕訳入力します。これにより、仕入れた商品やサービスが仕入計上(費用計上)され、買掛金(未払金)の債務が認識されます。
  5. 支払 買掛金を支払います。支払いは、請求書に記載された期限内に行われます。

この購買プロセスでは、仕入先からの請求書ベースで仕入を計上しています。当月の請求書(月末締め)が会社に届くのは、翌月の初めです。そこから請求書の確認作業を経て、会計システムへの仕訳入力が行われるのは、だいたい翌月の上旬から中旬です。そのため、どうしても月次決算が遅くなります。

さらに、1か月分の仕入仕訳を一気に入力するので、その期間はかなりの繁忙期間となり、経理担当者の疲弊、入力ミスなどが懸念されます。

中小企業の場合は、請求書ベースの仕入計上でもさほど問題はありませんが、事業規模が拡大し、仕入先数や仕入件数が増えると、月次決算は著しく遅くなり、いずれ経理は破綻します。ですから、中小企業から中堅企業になる過程では、必ず購買プロセスを見直す時期がきます。

納品ベースの仕入計上とは?

具体的に、どのように購買プロセスを変えるのか? それが、納品ベースの仕入計上の購買プロセスです。流れを見ていきましょう。

  1. 発注 購買担当者が、購買システムに、発注内容(品目名や数量、価格、納期など)を入力し、発注書を作成して、仕入先に商品やサービスを調達するための仕入れ依頼を発注します。
  2. 納品 発注された商品やサービスが、仕入先から納品されます。納品された商品が発注内容と一致しているかを現物と納品書で確認し、問題がなければ、購買システムの発注データを「発注」から「納品完了」に変更します。
  3. 仕入計上 購買システムの発注データが「納品完了」となると、発注データから仕入計上データが自動で作られ、会計システムに流れます。これにより、仕入れた商品やサービスが仕入計上(費用計上)され、買掛金(未払金)の債務が認識されます。
  4. 請求書の受領 翌月の月初に仕入先から請求書が送られてきます。請求書と購買システムの発注データ(納品完了)を照合し、請求書に不備がなければ、経理に回されます。
  5. 支払 経理は会計システムの買掛金と請求書をチェックし、買掛金を支払います。

請求書ベースでは、仕入先から請求書が到着してから仕入計上が行われていました。これに対して、納品べースでは、当月に納品があった時点で仕入を計上します。これにより、月次決算は格段に早期化され、作業は平準化されます。

購買プロセスを納品ベースに変更することのメリット

納品ベースに変更するメリットは、月次決算早期化や作業の分散だけではありません。納品ベースには、以下のメリットがあります。

  1. 月次決算の早期化 納品ベースの仕入計上では、商品やサービスが納品された時点で、仕入れたという記録を行います。このため、商品やサービスの請求書が届く前に、仕入計上ができます。これにより、月次決算の早期化が可能となります。
  2. 納品ミスの防止 購買システムに発注データがあるので、納品時にデータを照らし合わせ納品ミスを防止することができます。また、納品チェックの作業効率も上がります。
  3. 資金繰りの改善 納品ベースの仕入計上により、早期に支払金額の見込みがわかるため、資金繰りを効率化できます。請求書が経理に届いてはじめて、予期せぬ多額の支払いを直前で認識するなどを防ぎます。
  4. 請求金額の確認 自社の買掛金額(発注データ(納品完了))を持っているので、仕入先の請求書との突合ができます。請求書ベースの仕入計上は、請求書の請求金額をそのまま入力するので、過大請求されても気づかず、支払ってしまうリスクがあります。

購買プロセスの変更に伴う注意点

購買プロセスの変更は、正直に言うと大変です。購買プロセスを変更する際に注意すべき点について解説します。

  1. 組織内の調整 購買プロセスの変更は、単一の部署や担当者だけでは行えません。購買部、経理部、場合によっては営業も含めた組織全体の合意が必要となります。そのため、変更の意図や効果を周知し、全体の理解を得ることが必要です。
  2. 情報システムの対応 発注から仕入までを管理する、購買管理システムが必要です。請求書ベースの場合、必ずしも購買管理システムを必要としませんので、納品ベースに切り替えるに当たり、初めてシステム導入するケースが多いです。
  3. 発注業務のデジタル化 納品ベースの肝は、発注データを活用して仕入データを生成することです。つまり発注業務が口頭や手書きだった場合、担当者が発注業務をデジタル化の手順やシステムを理解し、スムーズに業務を進められるようにトレーニングを実施する必要があります。

請求ベースから納品ベースへの切り替えは、購買の業務やシステムの大きな変更を伴います。関係者でプロジェクトを立ち上げ、しっかり取り組みましょう。

まとめ

購買プロセスには、請求ベースで仕入計上を行うプロセスと、納品ベースで仕入計上を行うプロセスがあります。

中小企業のうちは簡単な請求ベースを採用しますが、企業が成長する過程で月次決算や業務が行き詰まり、いずれ納品ベースに切り替える時が必ずきます。

購買プロセスの変更は、簡単ではありません。しかし、関係者に変更の意図や効果を説明し、適切な購買管理システムを導入し、発注業務をデジタル化できれば、大丈夫です。