はじめに

「廃止」に焦点を当てた業務改革のアプローチについて解説します。業務の生産性を最大化するためには、無駄なタスクや不必要なプロセスを削減することが不可欠です。廃止とは何か、その効果、事例、実践するためのステップを説明します。

業務改革の手法

業務改革は、企業や組織の業務プロセスを効率的かつ効果的に変えることを目指し、生産性を高める取り組みです。これにより、コストの削減、顧客満足度の向上、組織の柔軟性やイノベーション力の強化など、競争力を向上させることが可能になります。

業務改革には様々な手法があります。以下は、主要な業務改革手法の例です。

  • プロセスの改良:業務プロセスを分析し、無駄を取り除き、速度や品質を向上させる方法です。カイゼン(改善)やリーン思考がこのカテゴリに含まれます。
  • テクノロジーの活用:ITシステムやデジタル技術を使って、業務を自動化や効率化します。例として、クラウドサービスやAI技術を用いて、情報共有や業務処理を効率化することができます。
  • イノベーション:新しい技術やアイデアを導入し、従来の業務プロセスを変革する方法です。デジタルトランスフォーメーションやビジネスモデルイノベーションがこのカテゴリに含まれます。

業務改革の目的は生産性の向上です。利用可能なリソース(労働力、資本、時間など)を効果的に使って、より多くのアウトプット(製品やサービス)を生み出すことに焦点を当てています。

廃止によるアウトプットの断捨離

しかし一方で、アウトプットには無駄が多く存在します。たとえば、誰も閲覧しない経営管理資料、管理コストを含めると利益が赤字になる商品などです。

アウトプットの断捨離を行わずに改革に取り組んでも、真の生産性向上は達成できません。

そこで「廃止」です。廃止とは、業務改革の一環として、不要なアウトプットや付加価値が低いアウトプットを止める・減らすことです。

廃止には、以下の効果が期待できます。

  • 生産性の上昇: 不要なアウトプットやプロセスを取り除くことで、リソースをもっと効果的に使い、生産性を高めます。
  • コストの削減: 無駄なプロセスをなくすことで、コストを減らせます。これにより、資源を他の重要な業務に投入できます。
  • スピードの向上: 不要なプロセスを削除することで、業務の進行が速くなり、迅速に対応できるようになります。
  • 柔軟性の強化: 廃止により、組織はより柔軟に対応でき、変化に適応する力を高めます。

廃止で、アウトプット自体やその生成プロセスを無くしたり減らしたりすることができれば、業務改革の成果が格段と上がります。また、無駄が多い業務の場合は、廃止が一番の業務改革であったりします。

実践的な視点:経理部門の支払い手続き

経理部門で支払プロセスを検討してみましょう。支払は経理部門の重要な仕事の一つです。各部門から提出された支払依頼(部長の承認を得たもの)と請求書を検証し、指定された日に銀行振込を行います。

支払は非常に神経を使う仕事です。金額に間違いはないか、振込先は合っているか、振込日は正しいか、支払漏れはないかなど、担当者は自己チェックが欠かせません。さらに課長承認、部長承認など、複数チェック・承認ステップが設けられています。

支払プロセスは1回にかかる業務量が多いので、支払日を五十日(毎月5日・10日・15日・20日・25日・月末日)のいずれかで決めている会社が多いです。たとえば、「15日と月末の月2回」などです。

しかし、支払ルールがあるにも関わらず、各部門の協力を得るのが困難な場合があります。「特別だから」「緊急だから」という理由で、例外的な支払いが増え、結果的に平均して月に10回の銀行振込が行われています。

このような支払プロセスを改善するための方法を考えてみましょう。

プロセスの改良

現在の支払承認は金額に関わらず「担当者→課長→部長」の順序をたどります。そこで、金額基準を設ける提案です。

たとえば、1件あたり10万円以下で、振込総額が100万円以下の支払いについては、課長だけで承認できるとすることで、プロセスを「担当者→課長」に短くします。これにより部長の作業負荷が軽減され、支払いまでの時間も短縮されます。

テクノロジーの活用

支払承認後、担当者はインターネットバンキングを使用して、振込先と振込金額を入力し、その内容を課長が確認して振込みます。多くの振込先は事前に登録されていますが、担当者が誤った振込先を選択する可能性は残っています。

市販の債務管理や経費精算システムの中には、支払承認が行われると自動的に振込データを生成するパッケージもあります。これらのツールを活用すれば、担当者の入力作業が省略され、エラーも発生しません。

廃止による改善

ここまでに、どのようにして支払プロセスを簡略化・効率化するかを見てきました。対照的に、廃止による改善は、支払そのものを減らす・削除する方法を探求します。

たとえば、支払ルールの改訂です。現在の「15日と月末の2回」のルールは、例外的な支払いが常態化し、形骸化しています。

そこで、支払ルールを「10日、20日、月末の3回」に増やし、社内ニーズに対応できるようにします。一方で、今後は例外的な支払いを受け付けないこととし、月平均10回の支払回数を3回に減らします。これが実現すれば、アウトプットを70%削減できます。

しかし、まったく例外的な支払いを受け付けないというのは業務上問題です。そこで、支払ルールから逸脱した支払日で支払依頼をする場合は、通常の部長承認ではなく、役員承認まを求める新しいルールを設けます(職務権限の変更)。

支払回数を減らすためには、支払ルールを厳格に順守できる適切な環境を作り出すことが重要です。

廃止を成功させるためのステップ

廃止を適切に実施し、業務改革を成功させるためには、以下のステップに従って進めると良いでしょう。

  1. 廃止対象の特定: まずは、廃止すべき業務やプロセスを特定します。これには、組織内での情報収集や業務の分析が必要です。無駄なプロセスやアウトプット、付加価値の低い業務などをリストアップし、検討の対象とします。
  2. 廃止の判断基準の設定: 廃止すべき業務やプロセスを選定するための判断基準を設定します。付加価値の有無、効率性、重複性などの観点から、廃止対象を評価し、優先順位を決定します。
  3. 影響分析とリスク管理: 廃止による組織への影響やリスクを分析し、適切な対策を立てます。従業員や顧客、その他の関係者への影響を最小限に抑えるため、事前の準備やコミュニケーションが重要です。
  4. 代替手段の検討と導入: 廃止する業務に代替手段が存在する場合、その効果や効率性を検討し、適切なタイミングで導入します。代替手段の導入により、廃止後の業務遂行がスムーズに行われることが期待できます。
  5. フォローアップと評価: 廃止を実施した後は、その効果や影響を定期的にフォローアップし、評価します。廃止による効果が十分でない場合や、新たな課題が発生した場合には、再度業務改革を検討し、適切な対策を講じます。

まとめ

業務改革は生産性向上が目的です。手法には、プロセスの改良、テクノロジーの活用、イノベーションがあります。

しかし一方で、アウトプットには無駄が多く存在します。アウトプットの断捨離を行わずに改革に取り組んでも、真の生産性向上は達成できません。

廃止は、不要なアウトプットや付加価値が低いアウトプットを止める・減らすことです。廃止によって生産性、コスト、スピード、柔軟性が向上します。

廃止を行う際は、廃止対象の特定、判断基準の設定、影響分析、代替手段の検討、フォローアップのステップで進めると良いでしょう。