昨年10月からインボイス制度が始まりました。適格請求書の記載金額に合わせ、自社の購買システムで生成した仕入金額を、わざわざ手で端数調整している会社があるようです。そのような無駄な作業をやめる仕組みを説明します。

消費税の1円端数問題

仕入先の請求書が届いてから、その請求金額で仕入計上する場合は、差異が生じる余地がないので、特に問題にはなりません。

発注 → 納品 → 請求書 → 仕入計上 → 支払

しかし、中堅企業以上は違います。商品が納品された段階で、購買システムの発注データと照合、入荷処理し、発注金額を仕入金額として、会計システムに仕入計上の自動仕訳を流します。このような処理をするのは、翌月に届く仕入先の請求書を待っていては、業務や月次決算が遅くなるからです。

発注 → 納品 → 仕入計上 → 請求書 → 支払

この場合、自社で消費税を計算して仕入計上するため、仕入先の適格請求書の消費税額に端数が生じます。

仕入税額の計算方法

適格請求書等保存方式で認められている仕入税額の計算方法は次のとおりです。

1 積上げ計算(原則)

2 割戻し計算(特例)

積上げ計算は、請求書に記載された消費税額の合計から計算します。割戻し計算は、課税仕入れに関する支払い総額に特定の税率を適用して計算します。※なお、本記事は割戻計算を採用していない会社向けの話です。

さらに、積上げ計算は、計算の基礎資料によって2つに分けられます。

1-1 請求書積上げ計算(適格請求書ベース)

1-2 帳簿積上げ計算(帳簿ベース)

請求書積上げ計算は、請求書や領収書などの外部文書に記載された消費税額を基に計算します。これに対して、帳簿積上げ計算は、会社の会計帳簿に記録された取引データを基に消費税額を計算します。帳簿積上げ計算であれば、必ずしも適格請求書と一致する消費税額でなくともよいのです。※なお、請求書積上げ計算と帳簿積上げ計算は併用可

帳簿積上げ計算

帳簿積上げ計算について、もう少し詳しくみていきましょう。この計算方法の根拠は、消費税法施行令第46条2項です。

2 事業者が、その課税期間に係る前項各号に掲げる課税仕入れについて、その課税仕入れの都度、課税仕入れに係る支払対価の額に百十分の十(当該課税仕入れが他の者から受けた軽減対象課税資産の譲渡等に係るものである場合には、百八分の八)を乗じて算出した金額(当該金額に一円未満の端数が生じたときは、当該端数を切り捨て、又は四捨五入した後の金額)を法第三十条第七項に規定する帳簿に記載している場合には、前項の規定にかかわらず、当該金額を合計した金額に百分の七十八を乗じて算出した金額を、同条第一項に規定する課税仕入れに係る消費税額とすることができる。

ポイントは、赤字の「その課税仕入れの都度」がどのような単位を指すのかです。これについては、消費税法基本通達11-1-10とQA126に記載があります。

基通11-1-10 令第46条第2項《課税仕入れに係る帳簿による消費税額の積上げ計算》に規定する「その課税仕入れの都度、……法第30条第7項に規定する帳簿に記載している場合」には、例えば、課税仕入れに係る適格請求書その他の書類等の交付又は提供を受けた際に、これらの書類等を単位として帳簿に記載している場合のほか、課税期間の範囲内で一定の期間内に行った課税仕入れにつきまとめて交付又は提供を受けた適格請求書その他の書類等を単位として帳簿に記載している場合がこれに含まれる。
QA126(注1)(略)なお、帳簿積上げ計算において計上する仮払消費税額等については、受領した適格請求書ではない納品書又は請求書を単位として計上することや継続的に買手の支払基準といった合理的な基準による単位により計上することでも差し支えありません。

整理すると、帳簿積上げ計算で認められる単位(課税仕入れの都度)は、適格請求書以外の外部資料に基づくもの、あるいは、何らかの合理的な基準によるものとなります。

  • 受領した適格請求書以外の納品書又は請求書単位
  • 合理的な基準による単位(継続使用が前提、例:買手の支払基準)

合理的な基準の候補としては、具体的には仕入計上(ないしは支払)仕訳の生成単位でしょう。例えば、以下のようなものです。

  • 月次単位
  • 締め単位
  • 日次単位
  • 支払単位

商品単位は認められるか?

仕入計上仕訳の生成単位として商品単位もよくありますが、商品単位が帳簿積上げ計算として認められるか否かはわかりません。そもそも適格請求書の消費税額等の端数処理で、商品単位の端数処理は認められていないからです(QA57)。

適格請求書の記載事項である消費税額等に1円未満の端数が生じる場合は、一の適格請求書 につき、税率ごとに1回の端数処理を行う必要があります (消令70の10 、基通1-8-15)。 なお、切上げ、切捨て、四捨五入などの端数処理の方法については、任意の方法とすること ができます 。(注)一の適格請求書に記載されている個々の商品ごとに消費税額等を計算し、1円未満の端数処理を行い、その合計額を消費税額等として記載することは認められません。

あくまで私見ですが、請求書積上げ計算で認められていない方法を、帳簿積上げ計算で認められる可能性は低いでしょう。商品単位での帳簿積上げ計算は推奨しません。

適切な帳簿積上げ計算の仕組みをつくる

請求書積上げ計算を採用すると、納品時に自社システムのデータで仕入計上を行う会社は、適格請求書を届いてから、消費税端数の仕訳調整を手動で行わなければならなくなります。

このような無駄な作業をやめるためには、仕入税額の計算方法は帳簿積上げ計算を採用(併用)すべきです。

なお、購買システム(または債務システム)のデータで仕入計上仕訳を生成する際の消費税計算は、その単位をよく協議してください。

※本記事の論点は、インボイス制度における端数調整についてです。仕入先の請求書と自社の買掛金(支払額)との違算や端数に関する論点は、別な機会にお話ししたいと思います。