電子帳簿保存法について、初心者にもわかりやすく解説します。目的、データ保存形態、基本要件、実践方法まで網羅し、業務効率向上に役立つ情報を提供いたします。
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電子帳簿保存法の目的
電子帳簿保存法は、正式名称を「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」といいます。1998年7月に施行されました。電子帳簿保存法が制定された目的は主に2つです。
目的1:納税者の不便を解消するため
税法により、税務調査のために、会計帳簿と請求書や領収書などの書類を原則として7年間保存することが義務付けられています。これらの書類は、長らく紙で保存されてきました。しかし、紙の保存方法は、保管スペースや書類の整理、探し出す手間など、納税者にとって不便です。
この不便を解消するため、電子帳簿保存法では、本来紙で保存すべき帳簿書類を特別にデータ形式で保存しても良いこととしました。
ただし、データは改ざんが容易で複製も簡単にできるため、不正を防ぐためにデータ保存に関するルール(要件)が厳格に定められています。電子帳簿保存法の条文の多くは、このルールに関するものです。
目的2:税法が想定していなかった事態に対応するため
皆さんは、法人税法がいつ頃制定されたかご存じでしょうか? なんと約75年前、1947年です。その頃は、インターネットやパソコンはもちろん、電卓さえも存在していませんでした。
そのため、現代のようにEDIやインターネットでデータだけがやり取りされる取引が成立することは、税法では想定されていませんでした。
法人税法には「帳簿書類は保存しなければならない」と記載されていますが、データに関しては触れられていません。そこで、データだけで完結する取引(これを電子取引といいます)にどのように対応するべきかを、電子帳簿保存法で定めることとなりました。
データ保存の3つの形態
電子帳簿保存法のデータ保存には、3つの形態が主に存在します。「帳簿書類のデータ保存」「書類のスキャナ保存」「電子取引のデータ保存」です。
納税者の不便を解消するために制定されたのが「帳簿書類のデータ保存」と「書類のスキャナ保存」、税法が想定していなかった事態に対応するためのものが「電子取引のデータ保存」です。
形態1:帳簿書類のデータ保存
図を参照してください。ここで言う「当社のシステム」は、会計システムや基幹システムなどを指します。自社システムで作成した会計帳簿や販売管理システムで作成した請求書の発行控えなどは、本来紙で保存するのが原則です。しかし、電子帳簿保存法は特例として、システムで一貫して作成した帳簿や書類が一定の要件を満たせば、データ形式で保存しても良いことを認めています。これが帳簿書類のデータ保存です。
形態2:書類のスキャナ保存
次に、「書類のスキャナ保存」です。取引先から届く納品書や請求書などの紙の書類が対象です。受け取った紙の書類(「受領書類」と呼ばれます)は、自社で作成した書類(請求書の発行控えなど)と同様に、本来は紙で保存するのが原則です。しかし、電子帳簿保存法では特例として、一定の要件を満たせば、紙の書類をスキャンまたは撮影して、画像データとして保存しても良いこととしています。これが書類のスキャナ保存です。
補足:帳簿書類のデータ保存は、元々「データ」として存在するものをデータで保存するものです。一方、書類のスキャナ保存は、元々「紙」で存在するものを画像データとして保存するものです。データで保存する点では共通ですが、対象が異なりますので、注意が必要です。
形態3:電子取引のデータ保存
最後に、「電子取引のデータ保存」です。もともと税法には電子取引に関する規定が存在しませんでした。そこで、電子帳簿保存法で、電子取引のデータ保存が必要であることが明文化されています。電子取引のデータ保存は「義務」です。これは、帳簿書類のデータ保存と書類のスキャナ保存が「選択できる規定」であるのと対照的です。
これら3つの形態をまとめた図が下に示されています。電子帳簿保存法を学習する際に、最初は3つの形態がどれを指しているのかわからなくなることがあるかもしれません。そのようなときは、この図を参照し、どの形態について話しているのか確認するようにしてください。
以上で、電子帳簿保存法におけるデータ保存の3つの形態、「帳簿書類のデータ保存」、「書類のスキャナ保存」、そして「電子取引のデータ保存」について説明しました。これらの違いを理解し、適切な形態でデータを保存することで、納税者の不便を解消し、税法が想定していなかった事態への対応も可能となります。
基本的な要件の考え方
電子帳簿保存法の要件は細かく定められていますが、概ね「真実性の確保」「可視性の確保」「その他」の3つのカテゴリに分けることができます。
1.真実性の確保
帳簿書類の保存が紙からデータへと変わることで、データの改ざんや複製が容易になるリスクが生じます。紙の帳簿も偽造は不可能ではありませんが、データの方が改ざんリスクが高いと言えます。
これらのリスクを軽減するために、「真実性の確保」が設けられています。具体的な要件には以下のようなものがあります。
2.可視性の確保
可視性の確保とは、税務調査官が調査を行う際に、データが容易に閲覧でき、調査に支障がない状態にしておくことを意味します。データは紙と違って直接見ることができないため、最低限、システムやモニターが必要になります。
また、紙の帳簿ではページをめくって目的の情報を探し出すことが容易ですが、データの帳簿ではそうはいきません。そのため、求める情報を検索できる機能が必要です。さらに、税務調査官にとって初めて触れるシステムでは、電子帳簿保存法が求める仕様が満たされているかどうか判断が難しいため、システム関連の文書を用意しておく要件も存在します。具体的な要件は以下のようになります。
3.その他
真実性の確保と可視性の確保では、3つの形態(帳簿書類のデータ保存、書類のスキャナ保存、電子取引のデータ保存)に共通する要件が多く存在します。一方で、その他のカテゴリでは、各形態の特性に応じた固有の要件が定められています。
例えば、スキャナ保存では、紙をデータに変換するため、画像の品質や元の文書サイズの情報を保存することが求められます。また、電子取引はもともと税法に規定がないため、電子帳簿保存法では、保存方法だけでなく、保存場所や保存期間についても規定しています。
これらの基本的な要件を把握することで、電子帳簿保存法における各形態のデータ保存に対する理解が深まります。真実性の確保、可視性の確保、そして各形態固有の要件に注意を払いながら、適切なデータ保存方法を実践していくことが重要です。これにより、税務調査や各種監査においても、問題がない状態で対応できるようになります。データによる帳簿書類の保存がますます一般的になる中で、適切な対応が求められるビジネス環境での運用を目指しましょう。
電子帳簿保存法の実践方法
この記事では、電子帳簿保存法を適用していく順序について説明します。基本的に正しい順序は特にありませんが、個々の状況に応じて適切な方法を選択することが最善です。以下の内容はあくまで一例として、社内で検討する際の参考にしていただければ幸いです。
電子化の進め方を大きく三つのステップに分けています。第1ステップは、会計・基幹システム系です。第2ステップは、経費精算ワークフロー系、そして第3ステップは過去書類のスキャナ保存です。
第1ステップ「会計・基幹システム系」
第1ステップでは、自社システムに関連するものを対象としています。帳簿のデータ保存では、会計システムをベースに、優良帳簿、その他帳簿のいずれかを選択します。
書類のデータ保存では、まず決算書類を検討します。決算書類は基本的に経理部門で完結するため、取り組みやすいです。
次に、発行書類の控えについて検討します。自社の販売管理システム、購買管理システム、債権管理システム、債務管理システムがデータ保存要件に対応していれば、実施しやすいです。
電子取引も、販売購買の基幹系を中心に、保存義務がある電子取引がないか確認していきます。
第2ステップ「経費精算・ワークフロー系」
第2ステップでは、紙の書類や受領書類を対象とします。申請や承認時に添付される紙の書類をスキャンし、経費精算やワークフローシステムに取り込むことを検討します。
また、経費系の電子取引は、書類スキャナ保存と同様に、経費精算・ワークフローシステムを利用することを想定します。これにより、スキャナ保存や電子取引で別の業務手順を避けることができます。
第3ステップ「過去書類のスキャナ保存」
第2ステップが安定して稼働した後、第3ステップを検討します。このステップでは、過去の書類を紙で保管するコストと、ダンボールを開けてスキャンするコストを比較し、会社にとってどちらがメリットがあるかを評価します。
スキャンコストよりも保管コストが高い場合、第3ステップを進めます。ただし、過去の重要書類には通常の重要書類の要件と異なるものが課されているため、注意が必要です。
まとめ
電子帳簿保存法は「納税者の不便を解消するため」、そして「税法が想定していなかった事態に対応するため」、制定されました。
データ保存には「帳簿書類のデータ保存」、「書類のスキャナ保存」、「電子取引のデータ保存」の3つの形態があります。帳簿書類のデータ保存と書類のスキャナ保存は、納税者の不便を解消するもので、任意選択です。一方、電子取引のデータ保存は、税法が想定していなかった電子取引に対応するもので、義務となっています。
データ保存それぞれに要件が定められていますが、要件には大きく「真実性の確保」、「可視性の確保」、「その他」の3つの要件があります。
電子帳簿保存法への対応は、会計・基幹システム系、経費精算・ワークフロー系、過去書類のスキャナ保存の3つのステップに分けて、進めていくことがベターです。
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