はじめに

ビジネスマンが知っておくべき、原価計算の定義、原価の種類、原価計算の方法、CVP分析、原価計算の限界など、原価計算の基本を解説します。

原価計算の定義

企業において、原価計算は経営や製造の現場に欠かせない重要なツールです。製品やサービスのコストを特定し、推定するプロセスです。経営や価格決定の意思決定に不可欠なツールであるとともに、製造部門がコストをコントロールするためにも使用されます。

原価の種類

まず、固定費と変動費という種類を見てみましょう。固定費とは、家賃、保険料、給料など、生産量や売上高に関係なく変動する費用です。一方、変動費とは、原材料、電力、梱包材など、生産量や売上高に応じて変動する費用です。

もう一つの重要な種類は、製品やサービスに対して直接的に追跡できる費用である直接費と、直接的に追跡できない費用である間接費です。

固定費と変動費は、生産量や売上高と関連があるので、意思決定やCVP分析など、原価を分析する際によく使われます。一方、直接費と間接費は、製造実態と紐づいているので、原価を計算する際によく使われます。

原価計算の方法

どこまで

まず、原価をどこまで製品に割り振るのかという分類です。一般的な原価計算の方法として、全部原価計算と直接原価計算の2つを取り上げます。

全部原価計算とは、固定費と変動費を含むすべての製造原価を製品に割り当てる原価計算の方法です。一方、直接原価計算とは、製造原価のうち変動費のみを製品に割り当てる方法です。製品に割り当てられなかった固定費は、すべて期間費用となります。

何の原価を

次に、何の原価で計算するのかという分類です。実際原価計算、予定原価計算、標準原価計算などがあります。

実際原価計算とは、実際に発生した金額(実際単価×実際数量)で原価を計算する原価計算の方法です。会計上は必ず行う必要があります。

これに対して、予定金額(予定単価×予定数量)で原価を計算するのが予定原価計算、生産目標とする標準原価(標準単価×標準数量)で原価を計算するのが標準原価計算です。

どのように

3つ目が、原価をどのように製品に割り振るかという分類です。個別原価計算、総合原価計算、ロット別原価計算などがあります。

個別原価計算とは、1個1個の製品ごとに原価を集計する方法です。これに対して、1カ月など期間で原価を集計して、その期間に製造した数量で割って原価を計算する方法を総合原価計算といいます。また、生産ロット単位で原価を集計して、そのロットの生産量で割って原価を計算する方法がロット別原価計算です。

原価計算の方法は、これら3つの分類の組み合わせで決まります。原価全部を実際原価で製品ごとに割り振るなら、「全部実際個別原価計算」です。変動費のみを標準原価で1カ月の生産数量で割り振るなら「直接標準総合原価計算」です。

補足

間接費は、製品やサービスに対して直接的に追跡できないので、原価と製品までの間に、何らかの中間地点を置いて紐づけしなければなりません。この中間地点を部門としたのが部門別原価計算、工程としたのが工程別原価計算です。

CVP分析

経営や価格決定の意思決定には、コストが利益にどのような影響を与えるかを理解することが重要です。

コスト、数量、利益の関係を把握するために使用する、最もポピュラーな財務ツールがCVP(コスト・ボリューム・プロフィット)分析です。売上高と変動費の差を貢献利益といい、貢献利益で固定費をカバーできる販売数量を、損益分岐点売上高といいます。

これは、損益分岐図表です。横軸に売上高、縦軸に利益・原価をとっています。赤線Fは固定費です。青線Vは変動費です。緑線Sは売上高です。

CVP分析では、まず赤線F、固定費のラインを引きます。この図の固定費は300万円です。その上に、青線V、変動費のラインを引きます。売上高が増えれば増えるほど、変動費も増えるので、右肩上がりになっています。緑線S、売上高のラインは、縦軸と横軸が同じ縮尺ですので、45度の角度です。

売上高が500万円の時、緑線Sと青線Vが交差しています。これが損益分岐点売上高です。売上高500万円から変動費200万円を引いた、貢献利益300万円が、固定費300万円と一致しています。

CVP分析は、目標利益を上げるためにどれだけ販売する必要があるのか、固定費増加をカバーするためにどれだけ売上を増やさなければならないのか、価格を改定したら利益はどうなるのか、といった様々な質問に答えることができます。

原価計算の限界

原価計算は意思決定のための重要なツールですが、いくつかの限界があります。

主観性と見積り

原価計算の主な限界の1つは、そのプロセスに含まれる主観性と見積りです。多くの原価は容易に測定・追跡できないため、製品やサービスに原価を割り当てるためには、見積りや仮定に頼らざるを得ません。

例えば、間接費は、原価を集計・按分する便宜上の中間地点を置き、主観的な配賦方法を選んで、製品やサービスに配賦する必要があります。

仮にこの中間地点と選択した配賦方法が、製造実態にそぐわないものであれば、結果として得られる原価の正確性に影響を与えます。

財務以外の要因の考慮不足

原価計算のもう一つの限界は、財務以外の要因に対する考慮の欠如です。原価計算の手法や分析は、通常、原価、売上、利益といった財務的要因に焦点を当てます。

しかし、顧客満足度、ブランドイメージ、従業員のモラルなど、財務以外の要因もビジネスの成功に影響を与える可能性があります。

これらの要因を無視すれば、たとえ短期的な財務的観点からは意味のある決定であっても、長期的な成功にマイナスになる決定を下してしまうかもしれません。財務以外の要因も考慮することで、企業はよりバランスの取れた意思決定を行うことができます。

まとめ

原価計算は、あらゆるビジネスにおける意思決定に不可欠な財務ツールです。

原価の種類には、重要な種類が2つあり、1つは変動費と固定費、もう1つは直接費と間接費です。前者は生産量や売上高と関連しているのでCVP分析などで使われ、後者は製造実態と紐づいているので原価計算を行う過程でよく使われます。

原価計算の方法には、原価をどこまで製品に割り振るか、何の原価で計算するのか、原価をどのように製品に割り振るかという3つの分類がありました。全部実際個別原価計算など、これら3つを組み合わせることで、原価計算の方法は決まります。

また、コスト、数量、利益の関係を把握するCVP分析は、経営に役立つ情報を提供してくれますが、原価計算そのものに主観性や見積りという限界があるので、過度に依存せず、財務以外の要因も考慮して経営に当たることが大事です。