価格のための原価計算

売上があるにもかかわらず、利益が残らないとしたら、それは製品の値決めに問題があります。

製造業の大半は価格を「実際原価+α」で決めています。しかしこれは一歩間違えると、経営を弱体化させる危険なやり方です。

なぜ危険なのか? この記事ではその理由を説明し、製造業が利益を稼ぐための価格決定方法について解説します。

製品価格の2つの決め方

製造業は製品の価格をどうやって決めているのでしょうか。方法は2つです。

「相場」で決める

1つは「相場」です。具体的は市場価格、他社製品の販売価格、自社の過去の取引価格などです。

相場は需要と供給がしのぎを削って生まれます。ですので、取引量が十分に無かったり、買手または売手の一方だけで決めている場合は相場ではありません。

京セラの稲盛氏は値決めに関して、次のように言っています。

お客さまが納得し、喜んで買ってくれる最大限の値段
それよりも低かったらいくらでも注文はとれるが、それ以上高ければ注文が逃げるという、このギリギリの一点で注文を取るようにしなければならない。(出典:稲盛和夫の実学 経営と会計)

相場で決まる価格は、まさにこれに近いです。顧客が製品を買ってくれるギリギリの価格であり、それよりも高くすると失注してしまいます。

一方で、それよりも安くすると製品は売れますが、今度は会社の利益が減ります。利益を最大化したいのなら「相場」で価格を決めるべきです。

しかし「相場」がある製品は少数です。製品の大半、特に一品モノの受注品や、競合品がない製品だと、相場と呼べるものはありません。価格を決める別な方法が必要です。

「原価+α」で決める

もう1つの価格決定方法が「原価+α」です。その製品をつくるためにかかる(かかった)原価を基礎として、それに利益(+α)をのせて価格とします。

原価が発生しない製品はありませんから、この方法であれば価格を必ず決められます。

また「相場」は市場データを調べたり独自の情報を集めたりして手間を要しますが、「原価+α」は社内だけで完結できるので簡便です。

そのため、製造業の多くは「原価+α」、特に実際原価(または実際原価に近い予定原価)で価格を決めています。

実際原価の危険性

しかし「実際原価+α」は、価格決定方法として次の危険性を持っています。

不安定リスク

「実際原価」は同じ製品であっても、会社によって設備も人も材料価格も異なるので違ってきます。同じ会社の中でも、生産ラインや操業度が違うと変わってきます。

言ってみれば、実際原価は「水物」です。価格を決める基礎である原価が不安定だと、価格の信頼性や比較可能性に問題があります。

利益流出リスク

事例をあげて説明しましょう。

ある会社が製品を130円で売っていました。価格決定方法は「原価+α」で、+αの利益は社内ルールで原価30%です。

価格130円 = 原価100円 + 利益30円(原価100円 × 30%)

数年後、製造部の努力でコスト削減に成功します。原価は100円から70円に下がりました。

さて、営業部はこの製品をいくらで売ったでしょうか?

答えは91円です。営業部はルールにのっとり、原価70円に利益21円(70円×30%)のせて価格91円で売りました。

価格91円 = 原価70円 + 利益21円(原価70円 × 30%)

価格が130円から91円に下がったので、注文数は30%増えました。工場はフル稼働で製造現場は大忙しです。

しかし1年経っても、会社の利益はほとんど増えません。※正確には、増産による製造固定費の単価減少分は利益として残る。

それもそのはず、これまでは1個当たり利益が30円ありましたが、値下げ後は21円です。

注文数が30%増えても、利益が▲9円(30%減)だったので、帳消しだったのです。

利益増加要因  注文数30%増
利益減少要因  1個当たり利益▲9円(30%減)

一方で、顧客は購入価格が130円から91円になり、利益が39円(30%)も増えました。

当社のコスト削減30円に加え、当社の元々の利益9円、合わせて39円がすべて顧客の利益として流出していたのです。

当社利益  ほぼゼロ(注文数30%増+1個当たり利益▲9円) 
顧客利益  1個当たり利益39円増(コスト削減30円+元々の当社利益9円)

もちろんこの問題は、価格130円で売り続ければ発生しません。しかし営業担当者には「受注を確実に取るために、できるかぎり安い価格で顧客に提示したい」という気持ちがあります。

社内ルールで許されるなら、自然と価格は安きに流れていきます。

価格決定には回収原価

価格決定における実際原価の危険性はわかりました。では、どうすればよいのか?

その方法は簡単です。価格決定に利用する原価の概念を変えれば良いのです。

実際原価

実際原価は会計の決算に使うもので、客観的な事実に基づいた原価です。実際の消費数量と単価を用い、実際の生産量で製品に原価を割り振ります。

実際原価 = 実際の消費数量 × 実際の単価 ÷ 実際の生産量

実際原価はある意味、事実に基づくので「真実」ですが、前述のとおり必ずしも価格決定には適していません。

予定原価

予定原価は経営管理に使うもので、予定の消費数量と単価を用い、予定の生産量で製品に原価を割り振ります。

予定原価 = 予定の消費数量 × 予定の単価 ÷ 予定の生産量

予定原価は経営管理の目的によって、いかようにも数字が変わります。

たとえば決算の着地予想が目的ならば、予定原価は「実際原価」に近い数字になります。製造の原価管理が目的なら「標準原価」に近い数字です。

回収原価

価格決定にオススメするのは「回収原価」です。回収原価は私の造語ですが、予定原価の一種です。

回収原価 = 回収予定の消費数量 × 回収予定の単価 ÷ 回収予定の生産量

回収原価は、予定原価のうち価格決定を目的として考えられたものです。投資回収の視点で原価を設計します。

たとえば、減価償却費。何十年も使用している機械だと、すでに減価償却が終わっているので、実際原価の減価償却費はゼロです。しかしそれでは、将来、機械を買い替える資金を確保できません。回収原価では必要な減価償却費を加えます。

また今年度は業績が悪いので、賞与を半分にしたとしましょう。実際原価の賞与は例年の50%です。しかしそのままだと、社員の犠牲はそのまま顧客の利益になってしまいます。回収原価では賞与を満額にします。

では、前述のコスト削減30円を回収原価ではどう考えるべきか?

一例ですが、30円のうち20円はコスト削減努力の正当な対価、10円は顧客還元とすると、回収原価は90円です。

価格117円 = 回収原価90円 + 利益27円(原価90円 × 30%) 
価格は117円です。ただし実際原価は70円ですので、会社には利益が47円残ります。
価格117円 = 実際原価70円 + 利益47円(利益27円+コスト削減20円) 
回収原価は決して新しい概念ではありません。会社によっては社内価格、基準値、見積原価などと呼ばれていたりします。
しかし肝心な点は、その原価に投資回収の視点を持って、価格決定を意識して設計されているかどうかです。
実際原価に近似した金額や、係数で一律アップしただけの金額では、価格決定には役立たないのです。

回収原価の設計

原価計算の種類

原価計算にはたくさんの種類がありますが、簡単に説明すると、「何の原価を」+「どの範囲で」+「どの単位で」の組み合わせです。

たとえば「何の原価を」が”実際”、「どの範囲で」が”全部”、「どの単位で」が”総合”なら、実際全部総合原価計算です。

 

 

回収原価の位置づけは「何の原価を」の”予定”の一つです。予定の数字を価格決定、投資回収の視点で検討するにすぎません。

予定原価計算を採用している場合は今採の仕組みを流用し、そこに少し手を加えるだけでできます。

4つのステップ

ステップ1 原価範囲

まずは原価範囲の見直しです。実際原価は会計基準を逸脱することはできません。

一方、回収原価は価格決定が目的です。必要なら販管費から原価(あるいは原価から販管費)に振り替えます。

たとえば費目。運送費や研究開発費など、実際原価では販管費として処理していても、回収原価に含めたほうがよければ、原価にします。

部門も同じです。購買部・設計部・倉庫など、実際原価では販管費部門として処理しているが、回収原価に含めたほうがよければ、原価に加えます。

通常の価格決定では、販管費は「原価+α」の”+α(利益)”で回収します。

しかしこれだと、全製品で同じ割合で一律回収するような価格になりがちです。内容によっては、原価に含めたほうが製品ごとでメリハリがつき、実態を表します。

ステップ2 原価金額

次は原価の金額の検討です。通常の原価計算では、実際に発生した金額(実際原価)、あるいは発生予定の金額(実際原価に近似値の予定原価)が一般的です。

しかし価格決定には「会社が存続するために必要な投資を回収する」という目的があります。

設備の減価償却費、賞与、外注費(内製外製の違い)など、回収の観点から適切な金額を設定します。

なお回収原価は、必ずしも「回収原価>実際原価」になるとは限りません。たとえば過去の設備投資が過大だと、実際原価の減価償却費は必要以上に多くなります。

その場合、会計上は設備の減損をしていなくても、回収原価だけで減損を行い、減価償却費を小さくすることも考えれらえます。

ステップ3 配賦方法

製品別計算には「直課」と「配賦」があります。直課はそのままでよいですが、配賦に関しては吟味が必要です。

部門間の配賦、工程間の配賦、最終の製品への配賦など、各プロセスの配賦ロジックや配賦のパラメータが、回収の観点で適切なのかを考えます。

特に生産量(操業度)のパラメータは重要です。これ次第で製品1個当たりの原価は大きくぶれます。

通常の原価計算では単年度の生産量ですが、回収原価では製品ライフサイクルを考慮して中長期の平均年間生産量で考えます。

ステップ4 変固分離

回収原価においても「どの範囲で」は”全部”を用います。その製品にかかった原価全部でないと、価格が低くなってしまうからです。

しかし価格の検討に当たっては、全部原価の内訳、つまり1個当たりの製品の原価のうち、変動費はいくらで、固定費はいくらなのかは知っておく必要があります。

変動費は価格の下限です。仮に市況が悪くて原価全部を回収できなくても、価格が変動費以上なら固定費をいくらかは回収できます。

また前述のとおり固定費単価は生産量によっても変わります。顧客から大量取引の引合いがあったら、数量に応じて固定費単価を上下して価格を検討できます。

多様な価格戦略のためには原価の変固分離は欠かせません。

まとめ|価格のための原価計算

ここまで価格決定のための原価計算について説明してきました。

  • 製品価格の2つの決め方
  • 実際原価の危険性
  • 価格決定には回収原価
  • 回収原価の設計

原価計算には財務会計・原価管理・経営管理・価格決定など複数の目的がありますが、価格決定に実際原価は適切ではありません。

実際原価には「不安定リスク」と「利益流出リスク」があるからです。

価格決定には「回収原価(予定原価の一種)」が適切です。これまでの価格決定方法を見直し、利益を増やしましょう。