システム・業務・会計に関するコンサルティング   人手やコストをかければ、管理や業務は誰でもできるが、それでは生産性は上がらない

  1. 経営のしくみ別冊

Vol.6 改革を成功させる生産性向上の急所

「経営のしくみ別冊」は、弊所が発行している季刊誌です。
この記事は、Vol.6 2019.7「改革を成功させる生産性向上の急所」です。

はじめに

仕事は時間との戦いです。刻々ときざむ時間の中で、いかにたくさんの仕事をこなすことができるのか。私たちは常に仕事において生産性を求めています。

実際、組織の垣根を越えて皆で集まり、「業務改善」や「業務改革」に取り組んだことが、どの企業にも一度はあるでしょう。

ホワイトボードがある会議室。赤・黄・青などのカラフルな付箋を貼ってアイデアを書き込んだり、白いボード一面に文字や矢印で現状の仕事内容を整理したり…。「会社を良くしたい」という気持ちで、意見をたたかわせたことがあるはずです。

しかし業務改善プロジェクトが、「劇的な成果を上げた」という話をあまり聞いたことがありません。改善案はそれなりに出てきても、大概は小粒のアイデアだからです。いまの業務の延長線で考えています。

どうしたら大胆な発想で業務を見直して、業績貢献できるように生産性を大きく改善できるのか? 本レポートは、そのための発想方法・着眼点をまとめました。

2019年4月に「働き方改革」がスタートしました。いま「生産性向上」が、あらためてクローズアップされています。ぜひ本レポートを活用して業務を大胆に見直し、皆さまの生産性向上につなげていただけたら幸いです。

目次

1.迫りくる壁! 労働生産性の恐怖
2.ドラッカーが伝えたかったこと
3.無から有はつくれない! 等価交換の原則
4.代価として「正確性」を犠牲にする
5.代価として「リスク」をとる
6.代価として「システム投資」する
7.代価として「社員の効用」を犠牲にする
8.まとめ

1.迫りくる壁! 労働生産性の恐怖

㈱東京コーポレーションは創業50年、中古自動車販売業を営んでいます。首都圏に7店舗をかまえ、国産車だけでなくさまざまな外車も取り扱っているのが強みです。

本社兼ショールームは、常時100台の車が所狭しと並び、国道に面した歩道には、「大売出し」のノボリがきっかり1メートル間隔で何十本もなびいています。7店舗すべてで整備工場を持ち、点検整備・車検・カスタマイズも行っています。

業績は好調ですが、経営者の頭を悩ます問題が一つあります。それは、2019年4月からはじまった「働き方改革」です。

時間外労働(休日労働は含まず)の上限は、原則として、月45時間・年360時間となり、 臨時的な特別の事情がなければ、これを超えることはできなくなりました。労使が合意する場合でも、 時間外労働は年720時間以内、時間外労働+休日労働は最大月100時間未満(2~6か月平均80時間以内)にする必要があります。

昨年の勤務実績だと、これに抵触する社員が相当数にのぼります。「このままではいかん」と同社も長期間労働を是正すべく、残業時間の削減に取り組み始めました。しかし社内には不満がくすぶっているようです。

・・・

石川社長「働き方改革が始まって3か月たったが、木村係長、社内の様子はどうだ?」

木村人事係長「残業時間の削減は進んでいます。しかし現場の意識改革がまだまだです。」

水野経理課長「意識改革というよりも、業務改善が追い付いていません。残業対象外の管理職にしわ寄せがきている部署もあります。」

石川社長「残業時間が減っても形ばかりでは意味がない。業務自体が大きく変わらないとダメだ。山崎部長、業務改革プロジェクトのほうは進んでいるか?」

山崎管理部長「はい、来月入社予定の松井経営企画室長を中心に進めていきます。彼は前職で業務改革プロジェクトの責任者を務め、高い実績を上げたそうです。しがらみのない外部目線で、当社でもプロジェクト責任者をやってもらいます。」
石川社長「了解した。でも、3年前にも同じような取り組みをしたぞ。あの時は期待するほどの成果が出なかったからなあ。今度は頼むぞ。」

・・・

よく「日本の労働生産性は低い」と言われます。実際、日本の労働生産性が主要先進7ヵ国で何十年間も最下位、と言う調査結果もあります。

これは、たぶんに国民性もあるかもしれません。「わたし、定時で帰ります。」というテレビドラマもありましたが、急ぎの仕事がないにもかかわらず、定時で帰ることに引け目を感じて残業している人は多いのではないでしょうか。

しかし、そのような部分や統計上のアヤを差し引いても、やはり日本の労働生産性が低いと言わざるを負えません。労働人口が減って人件費が上がり始める中、生産性の改善は喫緊の経営課題です。

2019年4月、これと呼応するように「働き方改革関連法案」が施行されました。法律で時間外労働の上限規制が設けられたことでも、労働生産性の改善が促されています。

映画のワンシーンではありませんが、両サイドから迫りくる壁に挟まれ、危機一髪状態になっている主人公のように、経営面と制度面から生産性向上のプレッシャーがかかっています。

しかし多くの企業はこれに対処しきれていません。まだ法律が施行されてから3か月ですが、「残業対象外の管理職にしわ寄せがいっている」「業務にゆとりが無くなり社員の主体性が低下している」「業務が滞っている」などの問題が報告されています。

それはそうでしょう。生産性向上など、一朝一夕で改善できるシロモノではありません。そうたやすくできるなら、企業はとっくに取り組んでいたに違いありません。いま大切なことは、「生産性向上が待ったなし」だと強く認識することです。そして今度こそ確実に成果が上がる業務改革を断行することです。

2.ドラッカーが伝えたかったこと

松井室長「はじめまして。経営企画室の松井です。よろしくお願いします。」

山崎部長「待っていたよ。いきなり改革プロジェクトの責任者で大変だろうが、よろしく頼むよ。」

松井室長「もちろんです。そのために入社したのですから。」

水野課長「頼もしいですね。経理の水野です。ところで、前職で業務改革が成功したそうですが、どれくらい成果が出たんですか?」

松井室長「ざっくり管理部門で40%くらい業務量を削減しました。」

水野課長「ほんとうですか! いったいどうやって!」

松井室長「まずやったのがメンバーの意識改革です。業務改革に関する考え方を大きく変えてもらいました。具体的に何をしたかと言うと、ドラッカーの勉強です。」

・・・

ピーター・ドラッカー。言わずと知れた経営学者の巨匠です。経営者でドラッカーの著書を愛読書にしている人は多いでしょう。日本でも毎年、ピーター・ドラッカーに関する著作が出ています。

最たるものが「もしドラ」です。10年前に大ブームになりました。『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』というビジネス小説で、アニメに出てくる普通そうな女子高生の立ち姿の表紙を覚えている方もいるでしょう。

「生産性」を考えていくうえで、ドラッカーの教えは欠かせません。私も強く影響を受けました。たとえばドラッカーは著書「現代の経営」の中で、生産性について次のように述べています。

『この世に確かなことが一つだけあるとするならば、それは、生産性の向上は肉体労働によって実現されるものではないということである。』

ドラッカーが「現代の経営」を書いたのは1954年です。生産的活動といえば工場の直接工のことでした。その当時の生産性に対する一般常識は、「直接工が熟練度や技術レベルを上げて生産量を増やすこと」でした。生産性を上げるには「人が努力すること」と考えられていたわけです。

しかしドラッカーは「それでは生産性は上がらない」と真っ向から否定します。生産性は「人が努力してどうにかできるものではない」と。この話を初めて聞いた当時の人々は驚いたに違いありません。「じゃあ、どうやって生産性を上げるのだ」と。ドラッカーはこう続けています。

『生産性の向上は、肉体労働によっては実現されない。逆にそれは、肉体労働をなくす努力、肉体労働を他のものに置き換える努力によってもたらされる。』

一番わかりやすい例が工場の「機械設備」でしょう。機械が導入されると直接工がやっていた時の何倍ものスピードで製品を生産できるようになります。ドラッカーの言う「肉体労働から機械への置き換え」が起こったわけです。

また設計内容を改良することで、生産段階の直接工の作業工数が大きく削減することもよくある話です。これは「設計による肉体労働の消滅」「肉体労働から設計への置き換え」が起こったことになります。

このほかにも置換えるモノはたくさんあります。道具(たとえば冶具など)を使うことで1個当たりの生産時間を短くする。材料を加工しやすい別な材料に変える。一から作るのをやめて加工済の部品を購入する。新しい技術を開発して生産方法を改良するなど。

肉体労働を「機械」「設計変更」「道具」「別な材料」「部品」「技術」に置き換えることで生産性を向上させるのです。ドラッカーはこれを「イノベーション」と呼んでいます。
ここで自社のことを振り返ってみてください。過去に行った業務改革で「置き換え」をしたでしょうか? もしそうなら生産性は向上したに違いありません。しかし「置き換え」ではなく、現場に任せ「努力」でなんとかしようとしたのなら、奮闘むなしく成果は上がらなかったに違いありません。これが多くの改革プロジェクト失敗の原因です。

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