売上が変わる!収益認識基準とその対策

  • 2020年4月30日
  • 2020年7月15日
  • 会計

収益認識基準の適用まで1年を切りました。3月決算は2021年4月1日スタートです。

しかし基準のわかりにくさから、対応が遅れている企業が少なくありません。

この記事では基準のエッセンスを「何を・いつ・いくら」の概念を使って、わかりやすく説明しています。

収益認識基準とは何か

なぜ必要になったの?

今の収益基準は「実現主義」ですが、できたのは1949年(企業会計原則)です。

当時と比べると現代のビジネスや取引内容は、比較にならないほど多種多様です。ネット通販・仮想通貨・サブスクリプションなどは、ここ10年くらいの話でしょう。

マーケティングも急速に発展しました。「いま買えばもう1個プレゼント」「工事費無料」「現金ポイント還元」などの販促手法も、70年前にはありません。

収益モデルの多様化で、「何を」「いくらで」「いつ」売上にするのか、実現主義では一概に判断がつかなくなりました。

これまでは業界ごとに実現主義を解釈し、ローカルルールを定めて凌いできましたが、近年ITを使ったニュービジネスが登場すると、会社によって売上ルールが異なるケースが出てきます。

新しいビジネスの登場・成長・変化に業界慣習が追いつけないのです。どんな新しいビジネスが登場しても、売上を決められる基準が欲しい。それが「収益認識基準」導入の理由です。

※もちろん政治的にはIFRS(国際財務報告基準)が理由ですが、ここでは不問。

何を・いくらで・いつ

実現主義と収益認識基準の全体像を比べると、次のとおりです。

何を いくらで いつ
実現主義
収益認識基準

実現主義は、「いつ」売上にするかを定めた基準です。「何を」「いくらで」については、収益認識基準で初めてルール化されました。

「何を」売上とするか

実現主義では、当たり前すぎて「何を」売上にするかなど書いていません。しかし収益認識基準ではそこから定義しています。

何を:「契約」があり、かつ「履行義務」として分別できるモノ

契約の有無は「合意」「明確な取引内容」「支払条件」「経済合理性」「回収可能性」で判断します。文書や口頭などの形式は問いません。

履行義務は「商品」「サービス」「特典」です。「特典」とは“いま買えばもう1個プレゼント”の時の「もう1個の商品」、“工事費無料”の時の「工事費」などです。

「特典」が売上対象となったのが、実現主義と収益認識基準の大きな違いです。

「いくらで」売上とするか

実現主義は、売主と買主で合意した額面上の「契約金額」が売上金額となります。取引の内容を問いません。

一方、収益認識基準は商品やサービスの移転と交換された対価のうち、回収予定分だけが売上です。

いくらで:商品やサービスの移転と交換された対価のうち、回収予定分

たとえば、自動車販売の仲介ビジネスで、クルマを97万円で仕入れ、100万円で売ったとしましょう。さらにキャンペーン期間中で、1万円キャッシュバックしたとします。

売上金額は収益認識基準だと2万円です。仲介業なので提供した履行義務は「クルマ」ではなく「仲介サービス」です。

移転と交換された3万円(100万円-97万円)から、キャッシュバック1万円を差し引いた2万円が売上となります。

一方、従来の実現主義なら売上は100万円です。なんと売上が98万円も減りました。

「いつ」売上とするか

実現主義では商品やサービスを引渡し、金額が確定した時点で売上を認識します。これに対して、収益認識基準は支配が移転した時点です。

いつ:商品やサービスの支配が移転した時点

支配が移転したかどうかは次の5つのポイントで総合的に判断します。

  • 代金請求権は発生したか
  • 法的所有権は移ったか
  • 物理的な占有は移ったか
  • リスクと経済価値は移ったか
  • 財・サービスは検収されたか

ところで建設業では実現主義の例外として、工事進行基準が認められています。物件の引き渡しが完了していない進行基準の取り扱いはどうなるのか?

収益認識基準では支配が徐々に移転すると捉え、進行基準と同様の処理が可能です。

売上の5ステップ

「何を」「いくらで」「いつ」を、収益認識基準では「売上の5ステップ」と言います。

ステップ 分類 内容・ポイント
① 契約の識別 何を 契約の5要件
② 履行義務の識別 何を 商品・サービス・特典
③ 取引価格の算定 いくらで 移転と交換された対価のうち、回収予定分
④ 取引価格の配分 いくらで 独立販売価格
⑤ 収益の認識 いつ 支配が移転した時点

ステップ4の「取引価格の配分」は、取引価格を各履行義務にどう割り振るかです。履行義務それぞれの独立販売価格を求め、その比率で配分します。

なお履行義務のうち「特典」など、価格が無いもの(または偏っているもの)は、別途見積りが必要です。

経営への影響を知る

どうなる? 売上高

売上高の影響を「何を」「いくらで」「いつ」の別に整理すると、次のとおりです。

何を いくらで いつ
影響の内容 売上計上日が変わる 売上の金額が変わる ほとんど変わらない
売上高の影響度
入会金の期間按分 返品権付の販売

「何を」の影響

従来は「商品」「サービス」のみですが、収益認識基準では「商品」「サービス」に加え、「特典」も売上対象です。「特典」にも取引価格を配分しなければなりません。

また従来は一つの「商品」「サービス」であっても、価値が小さかったり区分できなかったりすると、別個としては扱われず、他の「商品」「サービス」に含めます。

「何を」の変化は、売上単位の変更を意味します。これにより売上計上日が変わる可能性があります。

「何を」の変化で、売上計上日が変わる
例1)入会金の期間按分

スポーツクラブ等の入会金は、一般的に返金不要なので入会時に売上とします。

しかし収益認識基準では「入会金」は別個の商品ではなく、入会後の「月額利用料」に含めます。会員の利用期間が平均2年であれば、入会金の売上は2年按分します。

「いくらで」の影響

従来は「契約金額」ですが、収益認識基準では商品やサービスの移転との「交換」と「回収予定」を満たした金額です。

代理販売や立替回収に係る金額は「交換」を満たさず、また値引き・リベート・返金・ポイントなどは「回収」を満たさないので、これらの金額は売上にできません。

「いくらで」の変化は、取引価格の変動を意味します。これにより売上の金額が変わる可能性があります。

「いくらで」の変化で、売上の金額が変わる
例2)返品権付の販売

従来は商品を販売したら売上、その後返品されたら、その時点で売上のマイナスです。

しかし収益認識基準では返品が想定されるなら、その分を売上にできません。商品の取引価格が100円、見込返品率が5%なら、売上は100円ではなく95円となります。

「いつ」の影響

「引渡し」が原則で「進行基準」が例外でしたが、収益認識基準では「支配の移転した時点」(一時点/一定期間)です。

引渡し≒支配移転(一時点)、進行基準≒支配移転(一定期間)なので、ほとんど影響はありません。

新たに増える業務

管理項目

実現主義と収益認識基準の管理項目を比べると、次のとおりです。

品目 価格 売上計上日
実現主義 A商品 100円 3/31
収益認識基準 A商品
B特典
95円
5円
3/31
4/5

実現主義では契約と実際のモノの流れがわかれば売上できました。

しかし収益認識基準はそれに加え、契約以外の品目の有無、取引価格の配分、各品目の売上計上日を管理しなければ売上できません。

見積作業

さらに収益認識基準では、前述のスポーツクラブ会員の平均利用期間(例1)や、返品権付販売の見込返品率(例2)などの見積作業も必要です。

平均利用期間や見込返品率などは常に変化します。決算の度に必要なデータを抽出し、再計算し、金額を洗い替えなければなりません。

収益認識基準への対策

やり過ぎないこと

収益認識基準の対応でもっとも大切な点は、やり過ぎないことです。

正解がないとどうしても現場はやり過ぎてしまいます。昔、内部統制が導入された時、大変な苦労をした上場企業は少なくありません。

収益認識基準の検討の中で、業務やシステムに多大な負荷がかかる点があれば、事前に監査法人と相談して、できるかぎり回避しましょう。

5つの作業軽減策

収益認識基準の導入作業は結構あります。特に初年度は過年度数字(ハイライト情報)を調整しなければなりません。連結決算はグループ全体でやる必要があります。

私がオススメする作業軽策は次の5つです。

① 適用指針の「代替的な取扱い」を活用する

収益認識基準の適用指針で「重要性等に関する代替的な取扱い」が認められています。該当する箇所はフル活用して下さい。

② 適用初年度は楽な処理方法を選ぶ

適用初年度は複数の選択肢があります。原則は過年度の遡及適用ですが、期首利益剰余金の調整も可能です。また遡及適用(原則)と剰余金調整(例外)の中にも、それぞれ原則と簡便があります。

作業が楽なのは例外・簡便です。一方で「過年度と当期の比較をどう見せるか」という経営視点も大事です。両方考慮して決めて下さい。

③ ビジネスのあり方を見直す

本来、会計のためにビジネスを見直すのは本末転倒です。

しかしほんの少し、契約内容・販売手法・販売条件・販促手段を調整することで、管理業務を軽減できるなら、全社最適化の観点からアリだと思います。

④ システム改修は極力しない

収益認識基準の求めに応じ、システム改修することはお勧めしません。

それは従来の契約と実際のモノの流れとは別に、売上計上専用の品目・数量・価格の明細管理をすることに他ならないからです。システムが冗長化します。

できる限り必要データを抽出、外で計算し、会計伝票だけで処理しましょう。

⑤ 経営管理のルールを見直す

収益認識基準では売上数字に見積計算が入りました。確定までには時間がかかります。

多くの企業は「会計決算」と「経営管理」で同じ数字を使っていますが、これを継続すると月次決算が重たくなります。

普段の経営管理では、従来の「契約と実際のモノの流れ」の数字を使うほうが作成も管理も楽です。

まとめ|収益認識基準

収益認識基準とその対策を、ポイントを絞って説明してきました。

  • 収益認識基準とは何か
  • 経営の影響を知る
  • 収益認識基準への対策

収益認識基準は、どんな新しいビジネスが登場しても売上を決めるために登場した基準です。これまでの「いつ」だけでなく「何を」「いくらで」までをルール化しました。

ルールから「契約と実際のモノの流れ」が逸脱していた場合、売上が変わります。

強制適用から1年切りました。まずはルールをよく理解し、どこが逸脱するかを見つけ、対策を講じましょう。

チェックリスト|ダウンロード

社会的重要性から、弊所使用の「収益認識基準チェックリスト」を無料で配布することにしました。メールアドレスの入力も不要です。下記からご自由にダウンロードしてください。