失敗しない!システム構想を練る手順と方法


システム導入の最初の一歩は、今を知り、将来のシステム構想を練ることです。

中には「世の中にどんなシステムがあるかわからない」と言って、すぐにベンダーに話を聞いたり、何か提案してもらったりする人もいます。しかし先に製品ありきの考え方は、システム導入の失敗を招きます。

何の問題を解決するために、業務のどこをIT化して、必要なシステムは何か? 記事を読んで、次期システムをデザインする手順と方法を学んでください。

業務の種類を知ろう

業務の種類は多いですが、大別すると「基幹」「会計」「人事給与」の3つです。基幹は商品を買い、製品を作り、それらを売る、ビジネスの根幹を担っています。会計は決算や資金、人事給与は人や給与に関わる業務です。3つに分けて11種類の業務を見ていきます。

基幹業務とは

① 販売管理

販売管理は営業の仕事です。受注の社内処理から売上の計上、請求書の発行までを管理します。見積書の発行を入れる場合もあります。得意先や取扱い品目の数が多いと、システム化は欠かせません。

② 購買管理

購買管理は商品の発注処理からモノの入荷、仕入の計上までを管理します。購買対象は商品のほかに、材料や部品、外注製品、サービスも含みます。下請法の規制を受ける場合は、法律にも配慮します。

③ 在庫管理

在庫管理には方法が2つあります。1つは普段から品目別に入出庫数量をカウントし、在庫数量を把握する「継続記録法」です。もう1つは月末にたな卸しを実施し、在庫数量を把握する「実地棚卸法」です。

④ 生産管理(キー業務)

キー業務とはビジネスの核となる業務です。業種によって異なります。製造業であれば、キー業務は「生産管理」です。生産管理は計画から日程、工程、作業指示、実績までを管理します。MRP所要量計算では原価標準も設定します。

小売業なら「店舗POSレジ」、建設業なら「工事管理」、ソフトウェア業なら「プロジェクト管理」です。

販売・購買・在庫・生産(キー業務)の4つを合わせて「基幹業務」と言います。

 

会計業務とは

⑤ 一般会計

いわゆる記帳業務です。一般会計は仕訳入力から仕訳帳・総勘定元帳などの会計帳簿の出力、決算作業までを行います。業務効率化のためには手入力を減らす「自動仕訳」が重要です。

⑥ 債権管理(売掛金管理)

債権管理は売掛金の計上から入金、消込、請求書の発行までを管理します。得意先からの入金と売掛金は、必ずしも金額が一致しません。確認を伴う売掛金の消込は手間がかかります。

「債権管理」と「販売管理」では、請求書の内容が違います。債権管理は売掛金が、販売管理は売上が請求金額です。会社はどちらか確認しましょう。

⑦ 債務管理(買掛金管理)

債務管理は買掛金の計上から支払いまでを管理します。売掛金と同じく仕入先の請求額と自社の買掛金が異なる場合があります。買掛金を支払う前に請求書・納品書のチェックが必要です。

⑧ 固定資産

固定資産管理は資産の取得から異動・処分までの台帳管理と、減価償却費の計算が仕事です。資産にはリース資産も含みます。減価償却が税務と会計で異なる場合は、複数台帳で管理します。
会計・債権・債務・資産の4つを合わせて「会計業務」と言います。

 

人事給与業務とは

⑨ 人事管理

人事管理は社員の採用・研修・考課・異動・昇進・退職の実務と、社員情報の管理が仕事です。組織の人員配置を考え、シミュレーションしたりもします。秘匿性が高いので情報セキュリティが重要です。

⑩ 給与計算

給与計算は社員の勤怠実績をもとに、毎月の給与計算と支払実務を行います。夏冬の賞与計算や退職金計算も含みます。社会保険の手続き、年末調整、昇給時の差額調整なども大事な仕事です。

⑪ 勤怠管理

勤怠管理は社員の出勤・退勤・残業時間の集計、有給取得や休日出勤の申請承認を管理します。時間外労働の上限規制、5日以上の有給消化の義務化など、働き方改革法の順守が求められます。

人事・給与・勤怠の3つを合わせて「人事給与業務」と言います。

 

現行システムを整理しよう

業務システムの基本図

11個の業務は互いに関連しています。それを図示したのが「業務システムの基本図」です。現在どの業務がIT化しているのか? 基本図を見ながら整理していきましょう。

 

■ 整理方法

  • 業務ごとに該当システムの有無を調べます。現在IT化している業務には下の空欄に「システム名称・モジュール名(またはメニュー名)」を書きます。該当システムが無ければ「×」を記入してください。
  • 次に該当システムの基本機能を確認します。業務に必要な機能が一通りそろっているか? 足りない機能があればメモしておきます。
  • 重要なシステムがあるのに該当業務がない場合は、基本図に業務を書き足してください。
  • 最後にシステム間のデータ連携を整理します。業務と業務との間でどのようなデータが流れているのか? 内容を書き足し、矢印で流れの方向を示します。

■ 注意点

  • システム名が「販売管理システム」だからと言って、内容が「販売管理」に該当するとは限りません。システム名ではなく実質の機能で判断してください。
  • システムがあっても現場が使ってないなら、システム(機能)は無いものとします。

以下は、業務システム別のチェックリストです。

 

基幹システムの整理

基幹システムは生産管理(キー業務)を核として、販売管理・購買管理・在庫管理の4つのシステム・モジュールで構成されています。物販中心だとシンプルに販売・購買・在庫の3つのケースもあります。

ビジネスに直結する基幹システムは全社の中でも優先的にIT化されます。一方で、その良し悪しは業績に大きな影響を与えるので、導入失敗は許されません。

システム チェック項目
販売管理
  • 見積・受注・手配・売上・請求の販売プロセスのうち、どの機能があるか
  • 品目マスタ・得意先マスタ・営業担当者マスタの有無、利用プロセス
  • 製造手配(販売→生産)・製品出庫(在庫→販売)・売上計上(販売→債権)
購買管理
  • 見積依頼・発注・入荷・仕入の購買プロセスのうち、どの機能があるか
  • 品目マスタ・仕入先マスタの有無、利用プロセス
  • 購買依頼(生産→購買)・部品入庫(購買→在庫)・仕入計上(購買→債務)
在庫管理
  • 継続記録法の入庫・出庫・単価計算の在庫プロセスのうち、どの機能があるか
  • 単価計算の方法、タイミング
  • 部品出庫(在庫→生産)・製品入庫(生産→在庫)
生産管理
(キー)
  • 生産管理は、MRP・製番・ハイブリットのどの方式か
  • 計画・日程・工程・作業指示・実績の生産プロセスのうち、どの機能があるか
  • 品目マスタ・工程マスタの有無、利用プロセス

 

会計システムの整理

会計システムは一般会計を核として、債権管理・債務管理・固定資産の4つのシステム・モジュールで構成されています。企業規模が大きい会社は、ほかに管理会計・手形管理・連結決算・経費精算などのシステム・モジュールを持ちます。

またスクラッチ開発では、債権管理・債務管理が会計システムではなく基幹システムの販売管理・購買管理の一機能である場合もよくあります。

システム チェック項目
一般会計
  • 売上・入金・仕入・支払・経費の5大仕訳のうち、自動仕訳はどれか
  • 勘定科目・補助科目・仕訳明細行の数
  • セグメント・プロジェクトの有無
債権管理
  • 売上・入金・消込・請求の債権プロセスのうち、どの機能があるか
  • 入金消込の方法(明細消込・一部消込・自動消込など)
  • 売上計上(販売→債権)・売上仕訳(債権→会計)
債務管理
  • 仕入・抽出・支払の債務プロセスのうち、どの機能があるか
  • 支払手段(振込、期日払い、支払手形、電子手形、相殺など)
  • 仕入計上(購買→債権)・仕入仕訳(債務→会計)
固定資産
  • 取得・異動・処分・償却の固定資産プロセスのうち、どの機能があるか
  • 複数台帳対応、リース資産対応
  • 減価償却仕訳(資産→会計)

 

人事給与システムの整理

人事給与システムは給与計算を核として、勤怠管理・人事管理の3つのシステム・モジュールで構成されています。

業務のIT化は、まず給与計算から始まり、会社が成長して社員数が増えてきたら、勤怠管理・人事管理がシステム導入されます。

システム チェック項目
人事管理
  • 採用・研修・考課・異動・昇進・退職の人事プロセスのうち、どの機能があるか
  • 社員情報の一元管理、複数組織対応
  • 社員情報(人事→給与)
給与計算
  • 給与・昇給・賞与・退職金の給与計算プロセスのうち、どの機能があるか
  • 住民税管理、社会保険管理、年末調整管理
  • 勤怠情報(勤怠→給与)
勤怠管理
  • 打刻・申請・承認・集計の勤怠プロセスのうち、どの機能があるか
  • 残業自動計算、有給残管理
  • 外出先からの入力・承認・参照の有無

 

問題点を見つけよう

システム導入は、大規模なシステムだと10年に一度、もしかしたら20年に一度の出来事です。前回のシステム導入経験者が社内にいないこともよくあります。

一方で、業務はシステムと密接不可分な関係にあります。システム変更は業務を変える貴重なチャンスです。業務の核心となる問題点をあぶり出し、本気でその解決に取り組みましょう。

その際、気を付けるべきことは、本質を捉える、当たり前を疑う、広い視野を持つの3つです。以下、事例をあげて説明します。

本質を捉える|損益予測

製造業A社の悩みは、毎月の操業の振れ幅が大きく、月次が締まるまで損益がわからないことでした。管理会計システムを導入すれば、損益を予測できるだろうと考え、パッケージを購入します。しかし結果は期待外れでした。

管理会計システムは、予算管理・セグメント集計・配賦機能・経営分析などの機能を持ち、数字を加工して多角的に分析できます。しかしそれはあくまで過去の数字です。予測には適していません。

損益を予測したいなら、見込操業度をつかむことです。製造の生産計画や営業の案件情報から工数を積上げて、今月の操業度を見込みます。見込と基準の操業度を比べれば、おおよその操業度差異がわかり、損益を予測できるようになります。

A社の問題の本質は損益予測の仕組みにあります。管理会計システムの有無ではなく、生産管理システムと販売管理システムから、見込操業度の情報をいかに取得するかが鍵だったわけです。

当たり前を疑う|請求書発行

卸売業B社は請求書を10日・20日・月末締めで、月3回発行しています。2営業日以内に発送するため、締めの翌日と翌々日は担当者がいつも深夜残業です。

請求書発行が多忙なのは違算チェックが原因です。入金と売掛金の差異を見つけ、内容を確認します。支払サイトが30日の場合、当月売上の締めと前月分の入金が同日です。入金後二日で違算チェックを終えなければなりません。

 

しかし請求書発行プロセスの順番を変えれば、これを回避できます。③消込(違算チェック)を後回しにして、④請求書発行を先にするのです。

この方法だと違算でエラーが見つかった場合、反映するのが翌月の請求書になり遅くなります。しかし簡便な方法なので、この順番を採用している会社も少なくありません。

もし「消込しないと請求書は発行できない」と思い込んでいたら、これは議論にすらならないでしょう。「昔からそうしてきたから」と言わずに、当たり前も疑ってみることが大事です。

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広い視野を持つ|勤怠申請

サービス業C社では、社員が残業や有給などの勤怠申請する際、紙の申請用紙を使っています。記入したら上司の承認印をもらい、申請書を総務部に持参します。

勤怠申請を電子化するために、勤怠管理システムの導入が社内で検討されました。勤怠管理の所轄部署である総務部に意見を求めたところ、「システム不要」との回答でした。理由は次の3つです。

総務部の主張

  • 総務部は今のやり方で何も困っていない
  • システムを買えば余計なコストがかかる
  • 導入にかかる総務部の作業負担が大きい

これは一つの考え方ですが、勤怠管理システムは社員全員が利用します。一部署だけの意見ではなく全社ベースで検討すべきです。

全社の視点

  • 申請側の社員や上司は利便性が向上する
  • システム投資以上のメリットがあるか否かが大事
  • 導入作業は一時的なもの

全社ベースで見れば、勤怠申請が電子化されると社員が外出先で申請・承認できたり、上司が部下の残業状況を一目でわかったりします。利便性は高いでしょう。

またシステムはコストではなく投資です。社員数と勤怠申請の件数を踏まえて、投資メリットがあれば導入すれば良いだけです。導入作業の負荷で決める話ではありません。

自分目線だけで問題を捉えようとすると、間違って認識したり、見落としたりします。広い視野で何が問題なのかを考えましょう。

 

問題解決シートにまとめる

核心となる問題点を見つけたら、問題点・解決策・事前準備・対象システムを表にします。下表は製造業A社、卸売業B社、サービス業C社の問題点をまとめたものです。

 

次期システムの青写真をつくろう

ここから、次期システムのグランドデザインです。次期システムに必要な構成を考え、重要な仕様を織り込みます。実際のシステム導入では、予算とスケジュールが欠かせません。構想段階の概算予算と大まかなスケジュールの組み方を説明します。

次期システムの構成

次期システムの構成は現行システムがベースとなります。「2 現行システムを整理しよう」で作った基本図を見直しましょう。

現在業務で使われているシステム・モジュールは、次期システムでも必要です。ただしシステム導入当時と比べて業務量が著しく減っているなら、不要かもしれません。

現在業務で使われていないシステム・モジュールがあれば、理由を確認します。一度はシステムの必要性を認めたわけですから、たとえ今業務が回っていたとしても、IT化すべき場合もあります。

「3 問題点を見つけよう」で作成した問題点解決シートの対象システムで、現行システムに無いシステム・モジュールは、次期システムの構成に加えます。これは会社として初めてIT化する業務です。

次期システムの構成が固まったら、基本図を参考に次期システムの構成図を作ります。

 

重要なシステム課題

重要なシステム課題とは、核心となる問題を解決するために、次期システムに期待する機能・要件です。内容は問題解決シートから導き出します。

会社 システム システム課題
製造業A社 生産管理 生産計画から工程別予定工数を、実績集計から工程別実績工数を、日単位で出力できる。
製造業A社 販売管理 見積情報から案件ごとの受注確度と予定納期、原価の工程別見積工数を出力できる。
卸売業B社 債権管理 入金と消込が別々に処理でき、請求書が締め入金後・消込前に発行できる。
サービス業C社 勤怠管理 外出先でもパソコン・スマートフォンを使って、出退勤の打刻、勤怠の申請・承認・確認ができる。

重要なシステム課題は、現行システムや従来の業務からの大きな変更点で、今より良くなるためのキーポイントです。実現できる適切な課題を設定しましょう。

 

予算と導入スケジュール

予算(初期投資)

システム投資額は一体いくらが適切なのか? 会社や導入範囲によって異なりますが、年商の1~2%を初期投資の目安にしましょう。配分は基幹システム60%、会計・人事給与システム40%くらいです。

 

導入スケジュール

システム導入作業は、大きく「システム構想」「パッケージ選定」「導入作業」の3つのタスクがあります。期間はシステム構想で3~6か月、パッケージ選定で3か月です。

導入作業の期間は、会計・人事給与と基幹で大きく違います。会計・人事給与は6~12か月です。受託開発であったり、パッケージでもカスタマイズが発生したりするので、基幹システムは12~18か月見ておくのが賢明です。

次期システム方針書

業務の核心となる問題点を見つけ、それを解決するための、重要なシステム課題、次期システムの構成、予算と導入スケジュールが整理できました。あとは、経営者への報告です。「次期システム方針書」にまとめましょう。下記は目次例です。

 

まとめ|システム構想を練る

システム導入の成功に欠かせない最初のステップ、「システム構想を練る」を説明させていただきました。

  • 業務の種類を知ろう
  • 現行システムを整理しよう
  • 問題点を見つけよう
  • 次期システムの青写真をつくろう

私はこの方法で良い結果を出してきましたし、失敗しなかったシステム導入では、必ず同じような上流工程をやっているはずです。

システム・業務・会計と色々な知見がいるので、上流工程をやるのは大変です。でも時間と手間をかければ、それだけ次期システムがより良くなることは保証します。ぜひこの記事に書いていることを実践して見てください。

システム構想をより詳しく知りたい方は、拙著「お金をドブに捨てないシステム開発の教科書」(下記参照)をお読みください。システム構想の方法論だけでなく、システム構築前にやるべき業務改革の仕方・手順も書いていて、参考になると思います。

お金をドブに捨てない システム開発の教科書(技術評論社)
4.5

システム構想はシステムの視点だけではつくれません。経営・会計・業務・システムの4つの視点を押さえることが大切です。

公認会計士兼システムコンサルタントである著者が、20年のコンサルティングで得た知見をわかりやすくまとめています。

(著者 中川 充 技術評論社 1,800円+税)