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実際原価の“実際”ってなんだ?

「実際原価」と聞くと、多くの人が「実際なんだから、それは原価として正しい金額にちがいない!」と思います。しかし、本当にそうでしょうか?

会計には「減損会計」というものがあります。売上が悪くなり設備投資の回収が見込めないと、工場の建物や機械の簿価を切り下げてしまう処理です。これを実施すると、その年は多額な損失が発生します。しかし、損失を先取りしたので、翌年以降の減価償却費は減ります。

たとえば、機械の簿価が1億円、耐用年数が10年、減価償却方法は定額法だとしましょう。その場合、年間の減価償却費は1億円÷10年で1,000万円です。

減損前:減価償却費1,000万円

しかしその後、売上が芳しくなく機械1億円の投資回収の見込みがたたないので、そのうち0.6億円を減損処理したとします。そうすると残った簿価は0.4億円ですから、翌年からの減価償却費は400万円となります。

減損後:減価償却費400万円

工場は何もせずに、実際原価が600万円も下がりました。

もう一つ例をあげましょう。「今期は業績が悪くなりそうだ」といって、例年は4か月支給している賞与を2か月にする、ということはどこの企業でもよくあることでしょう。かりに例年の賞与支給額が4,000万円だとすると、今年の支給額は2,000万円になります。

例年:賞与4,000万円
今年:賞与2,000万円

従業員の犠牲によって、実際原価は2,000万円下がりました。

このように実際原価の“実際”とは、その年の会計上の単なる事実にすぎません。それ以上でもそれ以下でもありません。

先ほどの例でいうと、減価償却費600万円の削減は工場の生産努力とは無関係です。もし実際原価を「生産管理」の成果ととらえてしまうと、まちがった評価をしてしまいます。また実際原価を「価格決定」に利用してしまうと、従業員の賞与はこれからもずっと2か月のままになってしまいます。

実際原価を無条件に正しいと考えて、経営上の何かを決断していくのは危険です。過度な信頼を持ちすぎないようにしましょう。

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