企業の倉庫や店舗で行われる「実地棚卸」は、多くの企業にとって時間と労力を要する大変な業務です。特に中堅企業では、毎月のように実地棚卸を実施しているケースも少なくありません。しかし、その棚卸は本当に必要なのでしょうか?
実地棚卸の3つの目的
実地棚卸を効率化し、負担を軽減するためには、まず「なぜ実地棚卸を行うのか」を明確に理解することが重要です。棚卸の目的には、主に以下の3つがあります。
1. 資産管理のため
商品の在庫は企業の重要な資産です。受払管理を適切に行うことで、帳簿上の在庫数と実際の数量を照合し、盗難や入出庫エラーの発見につなげることができます。
2. 決算確定のため
特に在庫品目の多い小売業では、日々の受払管理が十分に行われていない場合があります。その場合、実地棚卸を行わないと、正確な在庫金額や売上原価が確定せず、決算を締めることができません。
3. 会計上のルールとして
上場企業では、年度決算時に実地棚卸を行うことが会計基準で義務付けられています。四半期決算では省略が認められる場合もありますが、適切な在庫管理を行うためには、必要に応じて実施することが推奨されます。
しかし、これらの目的を達成するために、毎月全商品を対象に実地棚卸を行う必要があるのでしょうか?実地棚卸の頻度や対象を見直すことで、業務の負担を軽減できる可能性があります。
実地棚卸の最適化方法
棚卸の頻度や対象を見直す際には、以下の3つのケースを考慮するとよいでしょう。
1. 受払管理ができている商品の場合
受払管理が適切に行われている商品については、実地棚卸を行わなくても月次決算を確定することができます。この場合、
- 商品金額の大きさ
- 盗難や入出庫エラーのリスク
- 実地棚卸の工数
これら3つの要素を検討し、必要に応じて棚卸の頻度を調整することが可能です。特に、単価やリスクが低く、実地棚卸の作業負担が大きい商品については、実地棚卸の対象から除外することで、業務の効率化につながります。
推奨対応策:
- 年度決算時は全商品を棚卸
- 必要に応じて、中間決算や四半期ごとに一部の棚卸を実施
2. 受払管理ができていない商品の場合
受払管理が行われていない商品については、実地棚卸を行わないと月次決算を締めることができません。しかし、全商品を毎月実地棚卸するのではなく、以下のような方法で簡略化できます。
- 前回の棚卸データをそのまま使用する:
- 金額的重要性が低く、在庫数量の変動が少ない商品については、前回の棚卸データを活用。
- 売上高から売上原価を推定する:
- 原価率(粗利率)が安定している商品であれば、売上高を基に売上原価を推定し、在庫金額を算出。
推奨対応策:
- 在庫変動が大きい商品は定期的に棚卸
- 重要性が低い商品は、前回棚卸データの活用や推定値で代替
3. 費用処理しているが受払管理をしている場合
販促物や消耗品など、購入時に一括費用処理しているものについては、基本的に会計上の資産として計上する必要はありません。しかし、営業活動上、一定の在庫管理が必要な場合もあります。
例えば、営業用のパンフレットやノベルティグッズなどは、適正在庫を維持するために受払管理を行うことがあります。しかし、これらを資産管理の対象として実地棚卸をしてしまうと、不要な業務負担が発生します。
推奨対応策:
- 費用処理したものは、帳簿在庫と実在庫のズレを最小限にするチェックにとどめる
- 定期的な数量確認だけを実施し、資産計上はしない
実地棚卸を効率化するためのポイント
- 全商品を対象にせず、リスクや重要性に応じて対象を絞る
- 受払管理ができている商品は、実地棚卸の頻度を減らす
- 前回データの活用や推定値を利用し、負担を軽減する
- 費用処理しているものは、簡易的な管理にとどめる
実地棚卸の目的を正しく理解し、業務負担を最適化することで、企業全体の効率化とコスト削減につながります。無駄な作業を削減し、より戦略的な在庫管理を目指しましょう。