配賦とは?
原価計算では、費用を適切に分配することが重要です。この分配のプロセスを「配賦」と呼びます。配賦は、費目と部門の間、部門と製品の間など、さまざまな箇所で行われます。適切な配賦ができなければ、最終的な製品原価が大きく狂い、経営判断を誤るリスクが高まります。
例えば、工場内には「製造部門」「補助部門」「管理部門」が存在する場合、管理部門のコストを製造部門と補助部門に配賦し、次に補助部門のコストを製造部門に配賦するといった流れになります。このように、同じプロセス内で何度も配賦を行う手法を「多段階配賦」と呼びます。
配賦モデルとは?
配賦の正確性を担保するために必要なのが「配賦モデル」です。配賦モデルには、以下のような要素が含まれます。
- 配賦基準:コストをどのルールで分配するか(例:作業時間比、面積比、業務量比)
- 計算ロジック:どのように計算するか(例:直接比例方式、段階的配賦方式)
- 条件分岐:特定の条件下で異なる配賦基準を適用するかどうか
- パラメータ係数:具体的な配賦率(例:人件費の割合、機械の稼働時間)
適切な配賦基準の選び方
配賦基準を決定する際に最も重要なのは、「配賦されるコストと配賦先のサービス量が比例すること」です。たとえば、A製品とB製品があるときに、「2種類の製品を作っているから」という理由だけで共通コストを50:50で配賦すると、実際の負担とズレが生じる可能性があります。
適切な配賦基準を選ぶためのポイントは次の通りです。
- 比例関係の確保:配賦コストが、配賦先の業務負荷と適切に対応しているか。
- 実績の取りやすさ:原価管理のPDCAサイクルを回すために、データの取得が容易であること。
- 安定性の確保:変動が激しい要素(例:頻繁な人事異動がある場合の人数比)は避ける。
人時間 vs. 機械時間の選択
配賦基準を決める際に「人の作業時間」と「機械の稼働時間」のどちらを採用すべきか迷うことがあります。選択基準のポイントは以下の通りです。
- 無人機械(例:24時間稼働するロボット):機械時間を配賦基準にする。
- 有人機械(例:作業員が操作する機械):原則として人時間を基準にする。
- 段取り作業が多い場合:人時間のほうが適切なケースが多い。
- 機械関連費用が高い場合:機械時間を基準にする。
また、人件費と機械の減価償却費を分けて管理する場合、それぞれに異なる配賦基準を設定するのも有効です。ただし、配賦基準を増やしすぎると計算が複雑になりすぎるため、バランスを考慮する必要があります。
配賦基準の選択で注意すべきポイント
- 実績の取得が可能か:将来的に実績データを取得する予定があるなら、先行して採用してもよい。
- 変動の激しい基準を避ける:例えば、頻繁に人事異動がある場合に人数比を基準にすると、モデルが不安定になる。
配賦モデルの設計ステップ
配賦基準が決まると、次に「計算ロジック」「条件分岐」「パラメータ係数」の設定を行います。その際、重要なのが「現場の実態を反映すること」です。
1. 製造現場へのヒアリング
実際の作業工程を理解し、どこでどのようなコストが発生しているのかを把握する。
2. データの収集と分析
- 過去1年間の作業回数や作業時間を整理
- 作業担当者の自己申告や現場観察を行う
- 稼働率や生産能力のデータを集める
配賦モデルの運用ポイント
- 生産数量と必要数量を区別する
- 生産途中の仕損じを考慮して、余剰分も含めた数量を基準にする。
- 段取り作業と加工作業を分ける
- 例えば、段取りコストが1回1000円で1000個生産すれば1個1円、100個なら1個10円。
- 生産数量によってコストが大きく異なるため、配賦モデルに反映する。
- 部門間の応援を考慮する
- 応援業務が発生した場合、その影響を適切に配賦する。
- 日常的に部門を超えて作業する場合は、応援分を考慮した配賦基準を設定する。
まとめ
配賦モデルは、原価計算の精度を左右する重要な要素です。適切な配賦基準の選定、現場データの収集・分析、計算ロジックの工夫により、より正確な原価管理が可能になります。
配賦の精度を高めることは、コスト削減や経営判断の質向上につながります。最適な配賦モデルを設計し、実務に活かしていきましょう。