中小製造業の原価計算を見に行くと、驚くほど高い確率で「ACCESS製の原価計算システム」に出会います。
しかも、それは10年、20年前に作られたものだったりします。なぜ、これほどまでにACCESSが生き残っているのでしょうか。そして、なぜ多くの会社が「そろそろ限界だ」と感じながらも置き換えられないのでしょうか。
今回はその背景を整理します。
2000年代、原価計算はACCESSで作るのが普通だった
2000年代初頭、多くの中小企業にはERPを導入するだけの予算がありませんでした。しかし、原価計算は必要です。
そこで登場したのが、外部SEや会計事務所、あるいは社内のITに強い社員によって作られた「ACCESS製原価計算システム」でした。
ACCESSは、
- データベースが構築できる
- 入力画面や帳票が作れる
- Excelと連携できる
- 開発コストが比較的安い
という特徴があり、中小企業にとって非常にバランスの良いツールでした。当時としては、合理的で、現実的で、そして十分に実用的な選択だったのです。
なぜ今も残り続けているのか?
20年経った今でも、当時のACCESSが現役で動いています。その背景には、いくつかの理由があります。
①とりあえず動いている
原価計算は毎月回っている。決算も組めている。多少時間がかかっても、Excelで補正すれば何とかなる。つまり、「困ってはいるが、止まってはいない」という状態です。大きな事故が起きていない限り、システム刷新は後回しになります。
②ロジックがブラックボックス化している
長年の改修の積み重ねにより、
- 間接費の配賦ロジック
- 製番別集計の条件
- 材料費や外注費の按分処理
- 工数データの取り込み仕様
などが、誰にも全体像を説明できない状態になっていることが少なくありません。「触ると壊れるかもしれない」・・・この心理が、現状維持を生みます。
③作った人がいない
開発者がすでに退職している、外注先と連絡が取れない、設計書が残っていない。こうした状況もよく見られます。
小さな修正ですら怖くてできない。しかし全面的な再構築も不安。その結果、延命が続きます。
生産形態・生産方法が変わっている
ここが、実は最も重要なポイントです。20年前と比べて、多くの製造業では次のような変化が起きています。
- ロット生産から多品種少量生産へ
- 見込生産から受注生産へ
- 内製中心から外注活用型へ
- 国内単一拠点から複数拠点体制へ
しかし、原価計算ロジックは当時の生産前提のまま、というケースが少なくありません。
たとえば、かつては単純な標準配賦で問題なかった間接費が、現在の複雑な工程構造では実態を表していないことがあります。つまり、生産の実態は変わったのに、原価の計算方法は変わっていないというズレが起きているのです。
このズレは徐々に蓄積し、経営判断を静かに歪めます。
いま起きている典型的な問題
実務の現場では、次のような症状が出始めます。
- 月次締めに時間がかかる。
- Excelでの手修正が増える。
- 拠点追加や新製品に柔軟に対応できない。
- 間接費配賦が「毎年なんとなく」決まる。
そして最も深刻なのは、算出された原価が、本当に現場の実態を反映しているのか分からない という状態です。
原価が歪めば、
- 価格決定
- 受注可否判断
- 製品別採算判断
- 設備投資判断
すべてが影響を受けます。
問題はACCESSではない
ここで強調したいのは、問題はACCESSというツールそのものではない、ということです。
問題の本質は、
- 当時の前提で設計されたロジック
- 生産形態の変化に追随していない計算構造
- 属人化した運用体制
にあります。
ACCESSは単なる器にすぎません。しかし、その器の中身が時代に合っていない可能性はあります。
これから考えるべきこと
では、
- 延命すべきなのか
- 作り直すべきなのか
- クラウドへ移行すべきなのか
- Excelで再設計すれば足りるのか
- KintoneやPowerBIは使えるのか
次回以降、選択肢を整理していきます。重要なのは、単なるツール比較ではありません。自社の生産形態に合った原価設計になっているかどうか。20年前に作った仕組みで、今の経営判断に耐えられるのか。一度立ち止まって考えるタイミングに来ている企業は、決して少なくありません。