企業のリース契約は、新リース会計基準の導入により原則として使用権資産・リース負債のオンバランス処理が必要になりました。一方で、リースのすべてを厳密に処理すると、現場の業務負担が膨れ上がるのも事実です。そこで実務者にとって鍵となるのが、「短期リース」と「少額リース」という2つの簡便的な取扱いです。本記事では、この2つの免除ルールの内容と活用ポイントをわかりやすく整理します。
短期リースを見逃すな
1. 定義 ― リース期間 12 か月以内
リース期間が12か月以内であり、かつ購入オプションや自動更新が付いていない契約は短期リースに該当します(適用指針第20項)。
この場合は、
- 使用権資産・リース負債をバランスシートに計上せず
- リース料を期間按分で費用処理
とすることが認められています。
2. なぜ免除されるのか
背景資料(BC37–38)では、短期リースは「金額・期間ともに重要性が乏しい」と判断されています。従来の日本基準やIFRS16でも、同様の免除ルールが用意されており、国際的にも妥当とされる取り扱いです。
3. 実務上の留意点
- 資産の種類やグループ単位での適用が可能:例「複合機グループは簡便処理」「倉庫フォークリフトは通常処理」など、業務実態に応じた分類ができます。
- 更新条項に注意:実質的に12か月を超える契約(自動更新など)は免除の対象外と判断される可能性があります。
少額リースはどう判断する?―金額基準は“自社ポリシー”で決める
リース契約が少額で、会計上の重要性が乏しいと判断される場合は、短期リースと同様にオンバランスを免除し、リース料を費用処理することができます。
新基準では“金額”の明示なし
新しい会計基準では、従来のような「○○万円以下」という画一的な数値基準は示されていません。代わりに、各社が自社の固定資産の会計ポリシー(資産計上基準)をもとに、合理的な金額基準を社内で設定することが求められています(BC39)。
この柔軟な考え方を踏まえたうえで、実務上広く使われている2つの判定基準があります。
少額リースの2つの判定方法
1. 判定方法A:300万円ルール(国内基準ベース)
- 内容:リース契約1件あたりのリース料総額が300万円以下であれば、オンバランス処理を免除
- 根拠:旧適用指針第16号の考え方を踏襲(BC41・43)
このルールは、従来の運用実績があることから、多くの日本企業が採用しやすい方式です。なお、延長オプションや解約オプションの見積りが煩雑な場合は、契約書に記載された期間を基準に判定することで、実務負担を軽減できます(第23項ただし書き、BC44)。
2. 判定方法B:新品時価値ルール(IFRSベース)
- 内容:原資産の新品時の価値が概ね5,000ドル(約70万円)以下であれば、簡便処理可
- 根拠:IFRS16の方針と一致(BC45)
IFRS任意適用会社やグローバル連結対象会社では、こちらの基準を用いることでIFRSパッケージへの調整を最小化できます。
3. 利息分の“上乗せ”も考慮できる
リース料には、原資産の価額だけでなく利息も含まれているため、自社の固定資産基準(例:10万円未満)よりも少し高めの金額を基準とすることが許容されています(第22項(1)ただし書き、BC39)。
実務で失敗しない4ステップ
- 固定資産ポリシーを再確認
自社の資産計上基準(金額・耐用年数)を洗い出す - 短期リース・少額リースを分類
評価表などで契約を振り分け、処理方法を整理 - 社内ガイドラインを整備・承認
会計方針として明文化し、監査対応にも備える - 総額の影響を管理
少額・短期リースが固定資産残高の10%を超えないよう、全体感をチェック
まとめ:例外ルールを使いこなせば、実務負担は大きく減らせる
リース会計の新基準対応は煩雑に見えますが、短期リース・少額リースの正しい判定と社内方針の整備ができれば、実務のスリム化とコンプライアンスの両立が可能です。決算前には必ずリース契約の棚卸しを行い、自社方針との整合性を確認しましょう。