企業の基幹システムや業務アプリケーションは、今や経営のインフラそのもの。導入時には多額の投資が必要となり、その後の会計処理、特に減価償却期間の設定が重要なテーマになります。今回は、ソフトウェアの償却期間を決める際の考え方や、上場企業の事例、そしてリース活用に関する検討ポイントを整理してみます。
1. 原則は「5年以内」だが例外もある
会計基準(研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針)では、自社利用ソフトウェアは原則として5年以内に償却することとされています。
ただし、一定の「合理的な根拠」があれば、5年を超える期間を設定することも可能です。
もっとも、この「合理的な根拠」がどのようなものか、基準や指針に明文化された具体例は存在しません。以下に示すのは、実務上考えられる観点であり、筆者の私見です。
- 事業継続性の合理性
そのシステムを利用する事業が長期にわたり継続し、かつ当該システムの利用が見込まれること - システム利用の合理性
ベンダーによる保守契約や長期保証、技術的な利用可能期間が担保されていること
この二つを満たすことで、監査法人等に対して説得力ある説明が可能となるケースがあります。
2. 上場企業にみる実務事例
実際の開示事例をみると、多くの上場企業は「5年以内」を採用しています。
一方で、基幹システムやERPのように投資規模が大きく利用期間が長期に及ぶものについては、7年~10年程度を設定している企業も見られます。さらに一部では、15年や特定資産(顧客基盤)に対して12~18年とするケースも存在します。
- 7年以内:NTTデータグループ
- 3~10年:オムロン、リコー、日立製作所、シスメックス
- 5~10年:伊藤園、KDDI、ソフトバンク、日本ハム、テルモなど
- 10年以内:富士通、日本板硝子
- 15年以内:三菱商事
- 12~18年(顧客基盤):LINEヤフー
投資規模の大きなシステムほど、利用可能性を丁寧に説明し、監査法人の了承を得て償却期間を延長していることが分かります。
3. リース活用で費用負担を平準化できるか?
システム導入に伴うコスト負担を平準化する手段として、リース契約を検討する企業もあります。リース期間を5年よりも長く設定すれば、1年あたりのリース料を抑えることができ、毎年の費用負担は軽減されるという考え方です。
しかしながら、実務的には次の留意点があります。
- リース期間が資産の利用可能期間を大きく超える場合、契約自体に無理が生じる
- 長期契約ほど、技術更新や事業環境の変化に対応しづらくなる
- 新リース会計基準(2027年4月1日以降適用)では、オペレーティング・リースも原則資産計上されるため、会計上の「償却期間短縮リスク」は依然として残る
したがって、リースによって形式的に負担を軽減するよりも、システムの利用実態に即した耐用年数設定の方が実務的に現実的といえるでしょう。
4. 実務対応のポイント
- 「事業の継続性」と「システム利用可能性」を両面から整理しておく
- 監査法人と早い段階から議論を行い、見解を共有しておく
- リース契約は財務負担の平準化には一定の効果があるが、会計基準上は償却期間との整合性が求められる
まとめ
ソフトウェアの減価償却期間は「原則5年以内」。ただし合理的な根拠を持って説明できる場合には、7年、10年、それ以上といった設定も可能です。
もっとも、その「合理的な根拠」は基準に明文化されているわけではなく、実務担当者や監査法人との協議に委ねられているのが実態です。
リースによる長期契約は一見すると毎年の費用負担を軽減する方法に見えますが、会計上は資産計上が前提となるため、結局は耐用年数の設定が鍵となります。