企業において人事評価は非常に重要な役割を果たします。どのような社員を高く評価し、どのような基準で評価を行うかによって、会社の未来が大きく左右されます。特に管理職の評価は、企業の成長やイノベーションに直結するため、慎重に設計する必要があります。
従来、多くの企業では「部門損益」を管理職の評価指標として使用してきました。しかし、部門損益は会計上の数字に過ぎず、必ずしも管理職の実力や貢献度を適切に反映しているとは限りません。では、どのような指標を導入することで、より正確な人事評価が可能になるのでしょうか?本記事では、その課題と解決策について考察します。
部門損益を評価指標とする問題点
部門損益は、企業の財務状況を示す重要な指標ですが、管理職の能力や成果を正しく評価するには不十分な場合があります。その理由を具体例とともに見ていきましょう。
ケース1:建設業の部門損益の問題
建設業では、売上基準の違いによって部門損益が大きく変動します。
例えば、以下のようなケースを考えてみます。
- 3月決算の企業が5月に1億円の工事を受注し、翌期の4月に完成した場合
- 「完成工事基準」を採用していると、今期の売上はゼロ、翌期の売上は1億円となる
この場合、11カ月間働いても売上がゼロで、翌期の1カ月だけで1億円の売上となります。もし部門損益を評価基準にすると、今期の管理職の評価は低く、翌期の評価は高くなるでしょう。しかし、これは実態に即した評価とは言えません。
ケース2:製造業の減損処理の影響
製造業では、前期の業績が悪かったために設備の「減損処理」を行うことがあります。減損処理とは、資産価値を一気に減らし、今後の減価償却費を発生させない処理です。
- 設備の資産価値がゼロになった場合、翌期から減価償却費が発生しない
- その結果、製造原価が減少し、部門損益が大幅に改善される
このような状況で、管理職の評価を部門損益だけで判断すると、単に会計処理の影響で評価が高まることになります。これは、イノベーションに取り組んでいる他の管理職にとって、不公平感を生む要因となります。
適切な評価基準とは?
部門損益のみに依存せず、管理職の能力や貢献度を適切に評価するためには、以下のような指標を組み合わせることが重要です。
1. 業績指標の補正
- 部門損益の影響を受ける要素(売上基準の違いや減損処理など)を補正する
- 売上や利益の短期的な変動ではなく、中長期的な成長を測る指標を導入する
2. 非財務指標の活用
- イノベーションの成果:新規事業の立ち上げや業務改善の取り組みを評価する
- 組織の成長:チームの育成や人材開発への貢献度を考慮する
- 顧客満足度:取引先や顧客からの評価を指標に加える
3. 多面的な評価手法
- 360度評価を導入し、上司・部下・同僚からのフィードバックを取得する
- 定量データだけでなく、定性評価も重視することで、よりバランスの取れた評価を行う
評価基準の見直しに向けた取り組み
適切な評価指標を導入するためには、総務部と経理部が連携し、以下のようなステップを踏むことが重要です。
1. 現在の評価基準の課題を洗い出す
- どのような評価基準が用いられているかを分析
- 評価基準による歪みが発生している事例を抽出
2. 代替指標を検討し、試験運用する
- 業績指標を補正するルールを設計
- 非財務指標の導入テストを実施し、効果を検証
3. システム化と運用ルールの策定
- データの収集や評価プロセスを一元管理するシステムを導入
- 評価の透明性を確保し、関係者への説明責任を果たす
まとめ
管理職の評価を部門損益だけに頼るのは、企業の成長にとってリスクがあります。短期的な会計の影響を受けず、管理職の本質的な貢献度を測るために、
- 業績指標の補正
- 非財務指標の導入
- 多面的な評価手法
これらを組み合わせた新しい評価基準の導入が求められます。
総務部と経理部が協力し、評価基準の見直しを進めることで、より適切な人事評価を実現し、企業の持続的な成長を支えていきましょう。