システム構築において、利益とセグメントを適切に管理することは、企業の経営判断において極めて重要です。しかし、多くの企業では「営業利益」という指標だけを基準に部門や事業の成績を評価しており、これでは本当の収益構造を把握することはできません。
本記事では、システム構想の段階で考慮すべき「貢献利益」の概念と、「事業軸」と「組織軸」を活用したセグメント管理について解説します。
1. 営業利益だけでは不十分な理由
企業の業績評価では、一般的に「営業利益」を指標として使用します。しかし、営業利益はあくまで制度会計上の数値であり、部門や事業の本当の収益力を測るには不十分です。
1.1 営業利益の限界
営業利益は、売上高から売上原価を引いた「売上総利益」から、販売管理費などの経費を差し引いて算出されます。しかし、この数値には以下のような問題があります。
- 全体の収益構造を正確に反映していない
- 例えば、広告費や交際費が多い部門が営業利益を押し上げていた場合、利益が高い=良い部門とは言えません。
- 部門間の比較が難しい
- 固定費の配分方法によって、利益が大きく変動する。
- 戦略的投資の影響を考慮しにくい
- 例えば、新規事業の立ち上げでは初期投資が多くなるが、長期的な貢献を加味できない。
このため、経営判断には「貢献利益」という独自の指標を用いることが有効です。
2. 貢献利益の考え方
2.1 貢献利益とは?
貢献利益とは、制度会計に基づく営業利益とは異なり、企業が独自に設定する利益指標です。事業ごとの真の収益性を明確にし、経営判断の精度を向上させるために使用されます。
例えば、以下のような計算式が考えられます。
- 小売業の場合
- 売上総利益 ー(営業人件費 + 販売奨励金 + 広告宣伝費)= 貢献利益
- 不動産開発業の場合
- 売上総利益 ー(租税公課 + 修繕費 + 支払利息)= 貢献利益
このように、事業ごとに異なるコスト構造を考慮した利益計算を行うことで、部門ごとの本当の収益性を把握できます。
2.2 システムで貢献利益を管理する
貢献利益を可視化するためには、以下のようなシステム設計が必要です。
- データの足し引きをカスタマイズできる仕組みを導入
- 事業ごとに異なるコスト構造をシステム上で反映。
- リアルタイムで貢献利益を算出できるダッシュボードを設計
- 予実管理との連携を強化し、経営判断のスピードを向上。
- 部門別・事業別の利益分析機能を実装
- 各部門が適切な指標を基に、戦略を調整できる仕組みを構築。
3. 事業軸と組織軸を意識したセグメント管理
企業の業績管理では、「事業軸」と「組織軸」を分けて考えることが重要です。
3.1 事業軸と組織軸の違い
軸の種類 | 説明 | 代表的なカテゴリ |
---|---|---|
事業軸 | 商品・サービス、店舗・営業所、事業単位ごとの採算管理 | 事業部別利益、商品別売上、店舗別利益 |
組織軸 | 社員、店長・部門長、幹部役員の評価基準 | 個人業績評価、チーム目標達成率 |
これらの軸を適切に管理しないと、評価制度の不公平感や戦略判断のズレが発生します。
3.2 システムでの分離管理の重要性
システム設計において、事業軸と組織軸を分けることで、より公平な評価と正確な業績分析が可能になります。
- 事業軸の管理
- 店舗や事業ごとの採算分析を行い、成長戦略の意思決定を支援。
- 組織軸の管理
- 社員個人の能力評価と事業の成果を切り分け、公平な人事評価を実現。
例えば、新規事業や新規店舗の初期投資が大きく、短期的な利益が低い場合でも、店長の評価に悪影響を与えないようにするなど、システム上での管理が必要です。
4. システム構想で考えるべきポイント
利益とセグメントを適切に管理するためには、システム構想の段階で次のポイントを考慮することが重要です。
- 自社に最適な貢献利益の指標を決める
- 事業特性に合わせた利益指標を設定し、システム上で計算できるようにする。
- 事業軸と組織軸を分離して評価する
- 売上や利益を事業ごとに管理しつつ、人事評価とは切り離す設計を行う。
- リアルタイムでのデータ分析を可能にする
- ダッシュボード機能を活用し、経営判断の迅速化を図る。
- 部門間のデータ連携を強化する
- 営業・生産・経理などの部門間で情報共有をスムーズにする。
5. まとめ
企業の成長には、制度会計上の「営業利益」だけでなく、事業ごとの真の収益性を示す「貢献利益」の管理が不可欠です。また、「事業軸」と「組織軸」を適切に分離することで、公平な業績評価と戦略的な意思決定が可能になります。
- 営業利益だけに頼らず、貢献利益を可視化する仕組みを構築する。
- 事業軸と組織軸を明確に分け、適正な評価制度を設計する。
- リアルタイムでのデータ分析を行い、迅速な経営判断を支援する。
これらのポイントをシステム構想に取り入れることで、より強固な経営基盤を築くことができます。