基幹システムのリプレイスで迷ったら:実績型パッケージとSaaSはどう選ぶ?

「実績あるパッケージ」と「刷新SaaS」はどちらを選ぶべきか?

基幹システムの入れ替えを検討するとき、多くの企業が直面するのが「古くからある実績型パッケージ」と「クラウド前提で再設計されたSaaS型」の二択です。どちらが優れているかという単純な話ではなく、自社の状況と優先順位によって答えは変わります。本記事では、経営判断に必要な考え方を整理します。

1.「安定」か「将来性」かは最初の分かれ道

長年使われてきたパッケージ型システムは、稼働実績やトラブル対応のノウハウが豊富で、カスタマイズや周辺連携も一定の安心感があります。業務を大きく変えたくない、あるいはトラブルによる業務停止を避けたい企業にとっては、もっともリスクの低い選択肢になります。

一方、刷新されたSaaS型は、サーバーの運用が不要で、アップデートも自動で提供され、将来の技術変化に対応しやすいという強みがあります。ただし、導入事例がまだ少ない場合は、安定稼働やトラブル対応力に不安が残るケースもあります。

2.業務を「システムに合わせるか」「システムを業務に合わせるか」

選択の本質は、業務とシステムのどちらを起点に考えるかによって違ってきます。

すでに確立された業務フローや独自の商習慣があり、現行の運用を維持したい場合は、過去のカスタマイズノウハウが蓄積されている従来型パッケージのほうが適しています。導入企業数が多ければ、似た業種・業態の事例も見つかりやすく、カスタマイズ済みの「部品」を再活用できるため、導入コストを抑えることも可能です。

一方、業務そのものを見直したい、あるいは標準化・BPR(業務改革)と並行して刷新を進めたい場合は、SaaS型のほうが合理的です。標準機能をベースに業務を設計し直す前提であれば、過去の“使い回し”に縛られず、運用コストも削減できます。

3.IT運用体制とサーバー管理の可否

「自社でサーバーを持ち続けるかどうか」は大きな判断軸になります。オンプレ型やクラサバ型は、自社もしくは既存ベンダーがシステム維持に関与し続ける前提です。バックアップやセキュリティ、OSアップデート対応などの体制を維持できるなら選択肢として成立します。

逆に、インフラや保守要員の確保が難しい企業、あるいはセキュリティ対応や障害時対応を外部化したい企業にとっては、SaaS型による「運用レス」のメリットは無視できません。特に、IT人材の採用・育成が困難になっている企業では、サーバーを持ち続けるというだけで経営リスクになり得ます。

4.プロジェクトの失敗許容度

「失敗できないプロジェクトか」「ある程度の試行錯誤が許されるか」も判断材料になります。

トラブルが発生した場合の影響が大きい業種、あるいは現場負荷が高くプロジェクトが止められない企業は、実績型のパッケージのほうが安全です。導入ベンダー側も過去の知見をもとにプロジェクトを管理できるため、工数や見積り精度も高くなります。

逆に、将来を見据えて変革のタイミングを作りたい企業や、既存システムの延命に限界を感じている企業であれば、SaaS型との相性は良くなります。もちろん不確実性は伴いますが、その分、刷新後の運用負担は軽くなります。

5.コストは「導入費用」ではなく「総額」で見る

「クラウドのほうが安い」「オンプレは高い」といったイメージだけで判断するのは危険です。カスタマイズ量・連携要件・運用年数・バージョンアップ費用などを含め、5年〜10年単位での総コスト(TCO)を比べる必要があります。

特にSaaS型は初期費用が低く見えがちですが、標準機能外の実装や運用変更が多い場合、追加コストが膨らむケースも少なくありません。一方、従来型であっても「過去の開発資産を再利用できる」「トラブル時の対応が早い」といった点が、結果的にコスト抑制につながるケースもあります。

6.最終判断は「どちらを選ぶか」ではなく「どの前提を受け入れられるか」

どちらが優れているかではなく、自社がどの前提を採用できるかが決め手になります。

安定性・過去実績・カスタマイズ性を重視するなら従来型パッケージ。
業務標準化・インフラレス・将来拡張を重視するなら刷新SaaS。

言い換えれば、「今の業務を守るのが目的か」「将来に合わせて作り替えるのが目的か」で方向性が決まります。

まとめ:迷うのは正常。ただし“曖昧に選ぶ”のが一番危険

両者には明確な棲み分けがあります。どちらを選ぶかは会社の方針、業務の柔軟性、IT体制、リスク許容度によって変わります。にもかかわらず、「最新版だから」「安心だから」という感覚だけで決めると、導入後のミスマッチやコスト膨張を招きます。

重要なのは、判断基準を明確にし、「なぜこちらを選ぶのか」と説明できる状態にしておくことです。逆にそれができれば、どちらを選んでも後悔は少なくなります。

このテーマは、多くの企業がこれから直面する経営判断そのものであり、単なるITの話ではありません。次回は、実際の判断材料をチェックリスト形式で整理してみたいと思います。