経営が厳しくなると、多くの経営者は「どうやって売上を伸ばすか」を考えます。
新規顧客の開拓、新サービスの投入、営業強化。これらは平時であれば、確かに正しい選択です。
しかし、不況局面では話が変わります。市場そのものが縮み、コストは下がらず、資金の余力も小さい。この環境で成長戦略に踏み込むことは、アクセルを踏みながらブレーキを踏むようなものです。
実際に、不況を越えて生き残ってきた中小企業を見ていくと、ある共通点が見えてきます。それは、早い段階で「縮む決断」をしているという点です。
「縮小=敗北」という思い込みを捨てる
多くの経営者にとって、事業縮小はネガティブな響きを持ちます。
- 売上が減るのは悪いこと
- 人を減らすのは申し訳ない
- 規模を小さくするのは負け
こうした感情が、判断を鈍らせます。しかし、現実には潰れることこそが最大の敗北です。縮小は、撤退ではありません。生き残るために、守る範囲を決める行為です。売上が多少減っても、資金が残り、判断の自由度が高まるなら、それは「前向きな後退」と言えます。
防衛戦略の出発点は「守れる規模」を知ること
最初にやるべきことは、「どこまでなら無理なく会社を維持できるのか」を把握することです。具体的には、
- 最低限必要な売上はいくらか
- その売上を支える固定費はいくらか
- 借入返済を含めて耐えられる水準はどこか
を、感覚ではなく数字で確認します。この作業をすると、多くの会社で次の事実が見えてきます。「今の規模は、実は想像以上に無理をしている」。この認識が、防衛戦略のスタート地点です。
不採算事業・不採算顧客を直視する
次に必要なのは、「儲かっていない部分」を曖昧にしないことです。不況期に危険なのは、
- 売上はあるが利益が薄い
- 手間ばかりかかる
- トラブルや例外対応が多い
こうした仕事を、「昔からの付き合いだから」と抱え続けることです。見直すべき対象は、たとえば次のようなものです。
- 利益率が極端に低い事業
- 社長や一部社員にしか回せない仕事
- 値上げが一切できない顧客
これらを切り分けることで、売上以上に、経営の余力が生まれることがあります。
固定費は「少しずつ」ではなく「構造」で下げる
不況になると、「無駄を削ろう」「節約しよう」という話が出ます。もちろん大切ですが、消耗品の節約や細かなコストカットには限界があります。本当に効くのは、次のような固定費の見直しです。
- 拠点や設備の適正化
- 人員配置の再設計
- 外注・内製の見直し
- 固定費を変動費に置き換える工夫
これらは一時的に痛みを伴いますが、一度下げれば、その効果は継続します。「毎月必ず出ていくお金」を減らすことが、防衛戦略の核心です。
縮むことで、判断はむしろ速くなる
規模が大きいほど、人もお金も、しがらみも増えます。不況下では、この「重さ」が致命傷になります。一方、規模を絞ると、
- キャッシュの見通しが立てやすい
- 判断が速くなる
- 変化に対応しやすくなる
というメリットが生まれます。これは、単なるコスト削減ではなく、経営の機動力を取り戻す行為です。
防衛戦略は「逃げ」ではない
防衛戦略という言葉には、後ろ向きな印象があるかもしれません。しかし実際には、
- 生き残る
- 選択肢を残す
- 次の一手を打てる状態を作る
ための、極めて戦略的な判断です。無理な成長を目指して体力を削り切るよりも、一度身軽になり、確実に次を見据える。それが、これからの中小企業に求められる姿勢です。
いま問われているのは「覚悟の方向」
不況期に必要なのは、「どこまで拡大するか」ではありません。
- どこを守るか
- どこを捨てるか
- どこで踏みとどまるか
この選択には、勇気がいります。しかし、何も決めずに流されることの方が、はるかにリスクは大きい。縮むことは、負けではない。生き残るための、意思ある選択です。
防衛戦略を取れるかどうかが、この先数年の明暗を分けることになるでしょう。