「在庫は悪である。」
多くの経営者はそう教わってきました。在庫を減らす。在庫回転率を上げる。必要な時に必要な量だけ調達する。こうした考え方は長年、経営の常識でした。
実際、日本の製造業は在庫削減によって大きな競争力を獲得してきました。しかし、これからの時代も同じ考え方が正しいのでしょうか。
私はそうとは限らないと思います。なぜなら、在庫を取り巻く前提条件が変わり始めているからです。
なぜ在庫は悪とされたのか
まず確認しておきたいのは、在庫削減の考え方そのものが間違っていたわけではないことです。
在庫にはコストがかかります。保管場所が必要になる。資金が寝る。品質劣化や陳腐化のリスクがある。
そのため、必要以上の在庫を持たない、という考え方は非常に合理的でした。
特に、必要なものがいつでも調達できる環境では、在庫はできるだけ少ない方が効率的です。
ジャストインタイムは豊富な時代の仕組みだった
日本企業が世界に誇る生産方式の一つに、ジャストインタイムがあります。
必要なものを、必要な時に、必要な量だけ調達する。無駄をなくし、在庫を極限まで削減する。非常に優れた仕組みです。
しかし、この仕組みには大きな前提があります。
それは、「必要な時に必ず届く」ことです。部品が届く。原材料が届く。物流が機能する。電力が供給される。この前提があって初めて成立する仕組みなのです。
今は本当に必要な時に届くのか
近年、多くの企業が経験したことがあります。部品が入らない。コンテナが不足する。納期が分からない。原材料価格が急騰する。発注しても納品されない。これらは以前であれば例外的な出来事でした。
しかし現在はどうでしょうか。むしろ、供給不安が常態化しつつあります。もし調達が不安定になるのであれば、在庫に対する考え方も変わらなければなりません。
在庫はコストか、保険か
ここで重要な問いがあります。在庫とは何でしょうか。従来は、在庫=コスト、と考えられてきました。
しかし供給不安が続く環境では、在庫=保険、という見方もできます。
例えば、重要な原材料を確保している企業と、必要な時に購入する企業。供給が止まったとき、どちらが顧客への供給を維持できるでしょうか。
在庫は利益を生みません。しかし事業継続能力を高めることがあります。
つまり、在庫には効率だけでは測れない価値があるのです。
在庫を持つべきか、持たないべきか
もちろん、すべての在庫を増やすべきだという話ではありません。それは別の問題を生みます。
重要なのは、何を持つべきかです。
例えば、代替が難しい原材料。納期の長い部品。事業継続に不可欠な資材。こうしたものは、戦略的に在庫を持つ価値があります。
一方で、容易に調達できるものまで大量に持つ必要はありません。つまり、在庫管理も資源配分の問題なのです。
これからの経営は効率だけでは測れない
安い時代の経営は、効率を追求する経営でした。
在庫を減らす。人員を減らす。設備稼働率を上げる。無駄をなくす。その考え方は正しかったと思います。
しかし資源制約の時代には、効率だけでは不十分です。
重要になるのは、回復力です。
供給が止まったときにどうするか。人が足りなくなったときにどうするか。想定外の事態に耐えられるか。
これからの経営では、効率性と回復力のバランスが問われるようになります。
在庫は経営戦略になる
在庫管理は現場の問題だと思われがちです。
しかし本来は経営戦略です。どの商品に資源を配分するのか。どの顧客への供給を優先するのか。どの原材料を確保するのか。
在庫とは、経営者の意思決定の結果なのです。安い時代には、在庫を減らす会社が優れていました。
これからの時代は、何を持ち、何を持たないかを決められる会社が強くなるでしょう。
次回予告
次回は、「原価計算は経理の仕事ではなくなる」をテーマに考えます。
これまで原価計算は決算や会計処理のためのものと考えられてきました。しかし資源制約時代においては、原価計算は経営そのものに関わる重要な情報になります。
なぜ原価計算が経営戦略になるのかを考えていきたいと思います。