経営者は、管理とシステムにどう関わるべきか~第4回 自ら学ぶ経営者が陥りやすい三つの落とし穴

―

管理やシステムを専門外として人に任せるのではなく、自ら勉強し、自分なりの考えを持って改革を進める経営者もいます。本シリーズでは、このような経営者を「主導型」と呼んでいます。

主導型の強みは、経営者自身が改革の必要性を理解し、意思決定を早く進められることです。会社の将来像を最もよく知る経営者が主導するため、管理体制やシステムを経営方針と結びつけやすいという利点もあります。

特に中小・中堅企業では、部門間の調整に時間をかけるよりも、経営者が方向を示した方が改革が進みやすいことがあります。現状を変える強い意思を持つ経営者は、停滞していたプロジェクトを動かす原動力になります。

しかし、その強さが別のリスクを生むこともあります。

問題は、経営者が管理やシステムを勉強することではありません。限られた情報から得た理解を、会社全体に当てはめてしまうことです。主導型の経営者が陥りやすい問題は、大きく三つあります。

1.部分的な知識で、全体を理解したように感じてしまう

私が学生時代、卒業論文を書くにあたり、参考にする書籍について会計学ゼミの教官に相談したことがあります。そのとき、次のように言われました。

「実務家が書いた本と、学者が書いた本は、目次の章立てを見ればすぐわかる」

もちろん、これは実務家の本と学者の本のどちらが優れているか、という話ではありません。実務家の本には、現場で使える考え方や経験が凝縮されています。一方、学者の本は、概念の定義や相互の関係、前提や例外まで含め、対象を体系の中に位置づけようとします。その違いが、目次の構成にも表れるということなのでしょう。

当時の私は、この言葉から、物事を知るためには個々の知識を集めるだけでなく、全体の中で体系的に理解することが重要なのだと感じました。この点は、経営者が管理やシステムを学ぶ場合にも当てはまります。

現在は、書籍、セミナー、インターネット、生成AIなどを通じて、管理手法やシステムに関する情報を簡単に得られます。経営者が短期間で基本的な知識を身につけることも可能です。

ただし、そこで得られる情報は、複雑な問題の一部を分かりやすく切り取ったものであることが少なくありません。

例えば、「入力を一度にすれば業務は効率化できる」「クラウドシステムなら短期間で導入できる」「データを蓄積すれば経営に活用できる」といった考え方は、方向としては間違っていません。しかし、実際に実現するには、業務ルールの統一、例外処理、データの定義、権限管理、内部統制、既存システムとの連携など、多くの論点があります。

画面上の操作が簡単でも、裏側で複雑な処理が必要になる場合があります。一つの部署の手作業を減らした結果、別の部署に確認作業が移ることもあります。データを集めても、その定義が統一されていなければ、経営判断には使えません。

管理やシステムでは、表面から見える分かりやすさと、会社全体で機能することの間に、大きな距離があります。基礎を理解したことと、自社に適用できることは別なのです。

2.経営者の「仮説」が、組織の「結論」になってしまう

経営者が自分の考えを示すと、社員はそれを単なる意見ではなく、経営方針として受け止めます。

経営者としては、「この方法がよいのではないか」「このシステムを使えないか」と検討を促したつもりでも、担当者には、すでに決まった方向として伝わることがあります。その結果、担当者は経営者の案が妥当かどうかを検証するのではなく、どうすればその案を実現できるかを考え始めます。

現場に懸念があっても、経営者が熱心に勉強し、強い確信を持っているほど、反対意見は出にくくなります。「社長はそこまで調べているのだから、自分たちが反対するのは難しい」と感じる社員もいるでしょう。

こうして、本来は検証すべき仮説だったものが、十分な検討を経ないまま、組織の結論になります。

経営者の意思が改革を進める推進力になる一方で、異なる意見や不都合な情報が届きにくくなるのです。

3.目に見える成果を優先し、見えにくい問題を残してしまう

主導型の経営者は、意思決定が速く、成果も早く求める傾向があります。そのため、短期間で分かりやすい変化を実現できる方法が選ばれやすくなります。

紙をなくした、入力項目を減らした、新しい画面を作った、集計時間を短縮した――。これらは成果として確認しやすく、改革が進んだ実感も得られます。

一方で、管理やシステムには、すぐには成果や問題が見えない部分があります。データの整合性、将来の拡張性、担当者が交代した場合の保守性、例外取引への対応、内部統制などです。

こうした部分を後回しにすると、導入直後はうまくいっているように見えても、取引量が増えたときや、業務が変化したときに問題が表面化します。現場がシステム外でExcel管理を始めたり、改修のたびに費用と時間が増えたりすることもあります。

短期的に動く仕組みを作ることと、長期的に会社を支えられる仕組みを作ることは同じではありません。

問題は「学ぶこと」ではなく、「確定するのが早いこと」です

主導型の経営者が自ら学ぶことは、大きな強みです。管理やシステムに無関心な経営者よりも、問題を早く発見し、改革の必要性を理解できるでしょう。

しかし、学んだ内容から早い段階で答えを決め、その答えに沿って組織を動かし始めると、学ぶ姿勢がかえって判断を狭めることがあります。

経営者の知識は、最初から正解を示すためではなく、よい問いを立て、担当者や専門家の説明を理解し、複数の選択肢を比較するために使う方が有効です。

自ら学ぶ経営者に必要なのは、判断しないことではありません。自分の考えをまず「仮説」として扱い、異なる情報によって修正できる状態を保つことです。

次回は、主導型の経営者が自らの強みを生かしながら、判断の偏りを防ぐための関わり方について考えます。