管理やシステムについて自ら学び、自分なりの考えを持つ「主導型」の経営者には、改革を前に進める力があります。経営者が必要性を理解していれば、社内の抵抗を乗り越え、難しい意思決定を迅速に行うことができます。
一方で、前回取り上げたように、経営者の部分的な知識が会社全体の結論になったり、経営者の仮説に反対する意見が出にくくなったりする危険もあります。
では、主導型の経営者は、自らの強みを生かしながら、判断の偏りをどのように防げばよいのでしょうか。
重要なのは、自分の考えを持たないことではありません。自分の考えを持ちながらも、それを確定した答えとして組織に与えないことです。そのためには、次の四つの関わり方が有効です。
1.自分の考えを「指示」ではなく「仮説」として示す
経営者が「この方法で進めたい」と言えば、社員は事実上の指示として受け止めます。経営者にそのつもりがなくても、担当者はその案を実現することが自分の役割だと考えるでしょう。
そこで、自分の考えを示すときには、それが決定ではなく、検証すべき仮説であることを明確にします。
例えば、「私は現時点でこの方法がよいと考えている。ただし、見落としている問題がないか検証してほしい」「この案が失敗するとすれば、どのような場合かを考えてほしい」と伝えます。
単に「自由に意見を言ってほしい」と言うだけでは十分ではありません。経営者の案を実現することではなく、問題点を見つけることも担当者の役割だと、具体的に示す必要があります。
仮説として示せば、担当者は経営者の考えを出発点にしながらも、修正や別案を提案しやすくなります。
2.自分の意見を言う前に、現場の事実を聞く
経営者が最初に結論を話すと、その後の会議は、その結論を前提に進みやすくなります。社員は無意識のうちに、経営者の考えに合う情報を選び、反対する情報を控えるようになります。
そのため、重要な検討では、経営者が自分の考えを話す前に、担当者や現場から事実を聞くことが有効です。
現在、どこで作業が止まっているのか。どの例外処理に時間がかかっているのか。同じ情報を誰が何回入力しているのか。どの数字が信用できず、誰が確認しているのか。まずは、こうした具体的な事実を確認します。
この段階では、すぐに解決策へ進まないことも大切です。「その作業は不要ではないか」「システム化すればよい」と経営者が早く答えを示すと、事実の確認が途中で止まってしまうからです。
経営者が先に問いを置けば、社員は経営者の結論ではなく、実際の業務を起点に考えられます。
3.自分の案に反対する材料を、意識して集める
人は一度よいと思った案を持つと、その案を支持する情報に注目し、都合の悪い情報を軽く扱いやすくなります。経営者も例外ではありません。
特に、自分で勉強してたどり着いた案には、時間と労力をかけています。そのため、別の案を認めることが、自分の学習や判断を否定するように感じられることもあります。
判断の偏りを防ぐには、自分の案を支持する理由だけでなく、採用しない方がよい理由を意識して集めます。現場、管理部門、システム担当者など、立場の異なる人に、懸念点を挙げてもらうことも有効です。
「この案で困る部署はないか」「取引量が倍になっても使えるか」「担当者が交代しても維持できるか」「例外的な取引には対応できるか」といった問いを置けば、導入後に表面化する問題を事前に考えやすくなります。
反対意見は、改革を妨げるものではありません。案を強くするための材料です。
4.大きく決める前に、小さく試して確かめる
管理やシステムは、会議や資料だけでは分からないことが多くあります。説明上は合理的でも、実際の業務に当てはめると、想定していなかった問題が見つかります。
そこで、可能な範囲で、小さく試してから本格的に進めます。一部の部署や業務で試行する、実際のデータを使って処理してみる、簡単な試作品を現場に操作してもらう、といった方法です。
ここでの目的は、経営者の案が正しいことを確認することではありません。何が想定と違ったのかを見つけることです。
試した結果、修正が必要になっても、それは失敗ではありません。多額の費用をかける前に、間違いや見落としを発見できたということです。
主導型の経営者は、決断が速いことが強みです。その強みを生かすには、最初からすべてを決めるのではなく、小さな検証を速く繰り返す方が適しています。
経営者の知識は、「答え」より「問い」に使う
経営者が管理やシステムについて学ぶことには、大きな意味があります。担当者や専門家の説明を理解し、議論の質を高め、経営上の優先順位に照らして判断できるようになるからです。
しかし、その知識を完成した答えとして社員に示すと、組織から異なる意見が出にくくなります。
経営者の知識は、「この方法で進めなさい」と答えを与えるためよりも、「なぜそうするのか」「ほかの方法はないのか」「どのような場合に問題が起きるのか」と問うために使う方が有効です。
自ら学び、自ら判断する姿勢を保ちながら、自分の考えを修正できる余地を残す。それが、主導型の経営者が強みを生かすための関わり方です。
次回は、委任型と主導型の議論を踏まえ、管理とシステムにおける経営者の本当の役割について考えます。