原価を正しくつなぐためのポイント:戦略的原価計算の基礎

はじめに:精度の高い原価計算が重要な理由

企業が効果的にコスト削減や価格決定を行うためには、正確な原価計算が不可欠です。しかし、実際には「どんぶり勘定」による低精度の原価計算に依存している企業も少なくありません。そのため、戦略的原価計算を行う前に、「正確な原価計算の基盤作り」が重要です。

物品販売業の場合、仕入価格がそのまま原価となるため計算はシンプルです。しかし、製造業は異なります。生産プロセスを経ることで製品が完成するため、材料費、人件費、設備費などを適切に結びつける必要があります。

以下では、原価計算の精度を高めるための「プロセス設計」と「配賦モデル」について詳しく解説します。

プロセス設計:費目から製品までの道筋を明確に

プロセス設計とは、費目(コストの発生源)から製品までの道筋を設計することです。費目から直接製品に結びつけることを「直課」と呼びますが、すべての費目を直課することは難しいため、多くの場合は中継地点を設けて配賦(按分)します。これが原価を「正しくつなぐ」ポイントです。

中継地点の種類

原価を結びつける際、中継地点としてよく使われるのは「部門」や「工程」です。しかし、これ以外にも以下のような中継地点があります。

  • 機械設備:大型プレス機や熱処理炉など、特定の工程で使用される機械。
  • 小工程・作業タスク:特定の工程内の細分化されたプロセス。

実際の生産形態に合わせて、中継地点を設定することが重要です。ただし、中継地点を増やしすぎると、現場のデータ入力や原価計算の事務負担が増えるため、適切な範囲に留めましょう。全社共通ではなく、必要な製品や部門ごとに柔軟に設計することも効果的です。

プロセス設計が複雑になる原因

  • 他部門への応援作業が常態化している
  • 工程戻りが発生する(例:A部門→B部門→再びA部門)

これらの要因により、原価計算が複雑化する場合は、まず生産プロセス自体を見直すことが必要です。工場組織、工程設計、生産方法、機械配置、人員配置などの改善を行い、シンプルなプロセスを目指しましょう。

配賦モデル:合理的な配賦基準の設定

配賦モデルは「対象となる費用」と「どのように配賦するか」を定める仕組みです。以下では、部門から製品への配賦モデルを具体例を挙げて説明します。

1. 配賦対象の特定

部門を以下のように分類します。

  • 直接部門:製品と直接的に関連し、合理的に原価を配賦できる部門(例:資材課、プレス課)。
  • 間接部門:直接部門を支援する役割を持つ部門(例:工場事務課)。

間接部門の原価は、そのままでは製品に直接結びつかないため、以下の方法を用います。

  • 製造間接費として配賦:間接部門の原価を一括で配賦する。
  • 部門間配賦:間接部門の原価を、関連する直接部門に按分して配賦する。

2. 配賦基準の設定

配賦基準は「何をもとに按分するか」を決定する要素です。例として、プレス課での配賦モデルを考えてみましょう。

  • 配賦基準:プレス課の作業は主に機械稼働が中心のため、「機械稼働時間」を採用します。
    • 部門予定原価 ÷ 稼働予定時間 = 1分あたりの単価 → 100円/分

3. 配賦ロジックと条件分岐

作業工程は「段取時間」と「加工時間」に分かれます。

  • 段取時間:1回の段取りに30分かかる。
  • 加工時間:通常品は1個あたり12秒(0.2分)、特殊品は18秒(0.3分)。

配賦金額の計算例

  • ロット#1(通常品) (段取回数×30分)+(生産数×0.2分)(段取回数 × 30分) + (生産数 × 0.2分) × 100円/分 → (1回 × 30分) + (1000個 × 0.2分) × 100円 = 23,000円
  • ロット#2(特殊品) (段取回数×30分)+(生産数×0.3分)(段取回数 × 30分) + (生産数 × 0.3分) × 100円/分 → (1回 × 30分) + (500個 × 0.3分) × 100円 = 18,000円

このように、正確な基準をもとに配賦することで、製品ごとの原価が正確に算出できます。

まとめ:原価を正しくつなぐために

原価計算の精度は「プロセス設計」と「配賦モデル」の適切な設計にかかっています。費目から製品までのプロセスが不明確なままでは、どれだけ計算をしても正確な原価は算出できません。

正確な原価計算は、企業に次のような効果をもたらします。

  1. 正確な価格設定により市場競争力を維持できる。
  2. 無駄を見える化し、効果的なコスト削減が可能になる。
  3. 経営判断の質を高め、利益率向上に貢献する。

適切な原価計算を行うことで、製造業における業務効率化と経営改善を進め、企業競争力をさらに高めましょう。