はじめに:クイズで考えてみましょう
Q:同じ工場で製品Aと製品Bを生産しています。現在、以下の状況です。
- 製品Aは販売計画を上回っています。
- 製品Bは販売計画を下回っています。
あなたが経営者なら、どの指示を出しますか?
- 営業にゲキを飛ばす
製品Bをもっと売るように営業担当者に指示を出す。 - コスト削減
製品Bのコスト削減に取り組み、販売価格を下げる努力をする。 - 製品Aを増産する
販売不振の製品Bの生産を減らし、代わりに製品Aを増産する。
正解は「条件次第」
どれも一見合理的な選択肢に見えますが、これらの決定が正解となるかどうかは原価が正確に計算されているかにかかっています。
たとえば、もし原価が正確でない場合、どれほど適切に思える施策を講じたとしても、結果的に逆効果となる可能性があります。
原価が不正確だと、経営判断は「勘違い」や「思い込み」に基づいたものとなり、大きな損失を生むリスクがあります。
原価計算の精度が経営判断に与える影響
以下に、具体的なケースを見てみましょう。
1. 原価の配分ミスのリスク
例えば、ある製造工程の費用を製品Aと製品Bに50%ずつ配分していたとします。しかし、実際には以下の通りだったとします。
- 製品Aの作業時間:全体の90%
- 製品Bの作業時間:全体の10%
この場合、製品Aの原価は本来よりも安く計算され(90%を負担するべきところを50%)、製品Bの原価は不当に高く計算されていることになります。
原価計算が誤っている場合の問題点
1. 営業活動の方向性を見誤る
製品Bが売れない理由は、単に「営業努力不足」ではなく、価格が相場より高すぎる可能性があります。この場合、どれだけ営業を強化しても、価格競争力が低いため期待通りの成果は得られません。
営業担当者は「売れない理由」を現場の声として経営層に伝えますが、原価の計算が誤っていれば、この声も正しく反映されないため、営業部門が疲弊する結果を生むかもしれません。信頼できる原価計算は、営業チームの成果を正当に評価し、改善策を講じるためにも必要不可欠です。
2. コスト削減の誤った要請
工場に対して製品Bのコスト削減を要請しても、原価計算が実態と異なっている場合、適切な削減策を講じることができません。無理な削減は品質低下を招き、かえってブランド価値の低下やクレームの増加につながります。
品質トラブルが頻発すれば、顧客離れを引き起こし、長期的な利益減少を招くこともあります。「適正な原価」を知ることで、品質を守りながら無駄を削減する効率的な手段が見えてきます。
3. 生産計画の誤り
製品Bの生産を減らし、製品Aを増産する決断をした場合、もし製品Aが実際には利益率の低い製品であれば、会社全体の利益が激減する可能性があります。良かれと思って下した決断が、会社の業績悪化を招く事態になりかねません。
また、需要変動や市場競争の影響も考慮しないと、「売れているから増産」という短期的な判断で在庫リスクを抱える可能性があります。正確な原価計算は、生産計画を策定する際の信頼できる指針となります。
正しい原価計算の重要性
正確な原価計算は、次のような経営のあらゆる場面で重要です。
- 正確な価格設定
製品やサービスの適切な価格を設定するための基礎となります。価格設定は競争力の源であり、適正な価格を顧客に提示することで信頼と満足を得られます。 - 利益構造の把握
どの製品が利益を生んでいるか、逆に赤字を出しているかを正確に把握できます。特に多品種生産を行う企業では、正しい利益構造の把握が事業継続の成否を左右します。 - 効果的なリソース配分
利益率の高い製品に注力し、無駄なコストを削減するための判断材料となります。経営資源は有限です。どこにリソースを投入するかを判断するためには、正確な原価情報が欠かせません。 - 意思決定の精度向上
営業方針、製品戦略、生産計画など、あらゆる意思決定の精度が高まります。正しい原価情報は、社内の部門間の連携もスムーズにし、企業全体で一致した戦略を推進できるようになります。
正確な原価計算を行うためのポイント
- 作業実態に基づいたデータ収集
現場の作業時間や資源の使用状況を細かく計測し、実態に即した原価計算を行いましょう。 - システムの導入・活用
正確なデータをリアルタイムで管理するためには、ERPや原価計算システムの導入が効果的です。 - 定期的な見直し
事業環境の変化に合わせて、原価計算の手法や配分ルールを定期的に見直し、常に最新の情報を反映させることが重要です。
まとめ:原価計算は経営の羅針盤
正確な原価計算ができていないと、経営判断は”暗中模索”の状態となり、売れる製品を見逃し、無駄な努力をしてしまうリスクがあります。特に、複数の製品を生産する工場では、製品ごとの正確な原価を把握することが重要です。
経営を成功に導くためには、信頼できる原価情報をもとにした戦略的な判断が必要です。原価計算を経営の羅針盤として活用し、業績向上を目指しましょう。