社内価格のあり方と適切な原価計算の役割

はじめに:社内価格とは何か?

社内価格とは、工場と営業が製品をやり取りする際に使われる価格です。この価格の呼び名は企業ごとに異なり、「見積原価」「基準値」「標準原価」「社内原価」などさまざまです。しかし、この社内価格をめぐり、多くの製造業では工場と営業の間で対立が生じがちです。

営業部門と工場部門の視点の違い

営業部門の立場

営業部門にとって、社内価格は「見積原価」に相当します。販売価格を決定する際の基準となるため、社内価格が低いほど有利です。理由は以下の通りです:

  • 価格競争力の向上:安い見積価格を提示できるため、顧客への提案がしやすくなる。
  • 営業粗利の確保:販売価格と社内価格の差額が営業粗利となるため、社内価格が低いほど利益を確保しやすい。

工場部門の立場

一方で、工場部門にとって社内価格は「生産高」を意味します。社内価格が高いほど、生産実績の評価が向上します。

  • 高い生産高の確保:同じ生産数量でも、社内価格が高ければ見かけ上の生産高が増加。
  • 有利差異の発生:生産高が実際の原価を上回る場合、有利差異が生じ、工場の成果として評価されます。

社内価格をめぐる対立の本質

全社の視点で見れば、最終的な利益は「販売価格と実際原価の差額」です。この差額のうち、営業粗利か有利差異かという内訳は、会社全体の利益に影響を与えるわけではありません。しかし、部門間の評価指標が異なるため、社内価格をめぐる対立が発生するのです。

社内価格を巡る対立を解消する方法

1. 柔軟な価格決定ルールの導入

営業部門は「社内価格+利益=販売価格」という固定観念にとらわれた価格決定を見直す必要があります。社内価格が競合より高い場合、従来のルールでは競争力を失い、商談を獲得できません。

  • 顧客ニーズや市場状況に応じた柔軟な価格決定
  • プロモーション価格や特別価格の導入

2. 原価差異の正確な分析体制の構築

工場部門は、原価差異を正確に分析できる仕組みを整える必要があります。

  • 部門間の利益の付け替えによる差異と、工場の努力による成果としての差異を区別することが重要です。
  • 差異の種類を明確に区別できれば、社内価格への過剰なこだわりは減少し、全社最適の視点で取り組めるようになります。

社内価格の本質を理解する

社内価格はあくまで「予定原価」に基づいたものであり、目的を持って設定されるべきものです。しかし、これを自己目的化してしまうと、部門間の不毛な争いが発生します。重要なのは、社内価格を組織全体の利益向上のための手段として活用することです。

まとめ:全社最適のための社内価格運用

社内価格は単なる計算上の指標ではなく、営業部門と工場部門の連携を円滑にし、全社利益を最大化するための要素です。以下のポイントを押さえることで、社内価格を効果的に運用できます。

  1. 柔軟な価格決定ルールを取り入れることで、市場競争力を高める。
  2. 原価差異の種類を区別し、工場の成果を正しく評価する。
  3. 社内価格を目的化せず、全社利益の向上を最優先とする。

これにより、部門間の不必要な対立を解消し、企業全体の競争力を高めることができます。社内価格を適切に運用し、持続的な成長を目指しましょう。