2025年3月11日、企業会計基準委員会が「金融商品会計に関する実務指針(改正移管指針第9号)」を公表しました。この改正は、特にベンチャーキャピタルファンド(VCファンド)に出資している企業に関係するもので、非上場株式の評価方法を取得原価から時価評価に変更できるようにする 重要な内容を含んでいます。
ベンチャーキャピタル投資に関わる企業や投資家にとって、この改正がどのような影響をもたらすのか、詳しく解説していきます。
変更の背景
これまで、企業が出資するファンド(組合)が保有する市場価格のない株式(非上場株式)は、「取得原価」で評価されるルールでした。しかし、近年では、VCファンドが非上場株式を組み入れるケースが増加 しています。
そのため、以下のメリットを考慮し、時価評価を導入する要望が高まりました。
- 財務諸表の透明性向上 → 投資家が企業の財務状況を正しく把握できる
- 国内外の機関投資家からの資金調達が容易に → ベンチャーキャピタル市場の活性化が期待される
このような背景を受けて、企業会計基準委員会は、非上場株式の評価方法を取得原価から時価評価に変更できるよう基準を改正 しました。
改正のポイント
1. VCファンドの出資評価方法の変更
これまでは、非上場株式の評価方法として「取得原価」が使われていましたが、次の条件を満たす場合に時価評価が認められる ことになりました。
■ 時価評価が認められる条件
- ファンドの運営者が資産運用を業とする者である(例:ベンチャーキャピタル)
- ファンドの決算時に、市場価格のない株式を時価評価していること
また、時価評価によって生じる評価差額は「純資産」の部に計上 することになります。
2. 一度適用したら途中でやめられない
- 企業は「どのファンドに時価評価を適用するか」の方針を事前に決定 する必要がある。
- 一度時価評価を適用したファンドに対しては、途中で取得原価評価に戻すことは不可。
この変更は、財務諸表の透明性や比較可能性を確保するためのものです。
3. 減損処理の変更
- 時価評価を適用した場合、市場価格のない株式の減損処理に代えて、時価のある有価証券の減損処理 が適用される。
4. 財務諸表の注記義務
企業は、財務諸表の注記欄 に以下を記載する義務があります。
- 「時価評価を適用している」ことの明示
- どのファンドに適用しているのかの選択基準
- 対象ファンドの評価額
これにより、投資家は企業の財務戦略をより明確に把握できるようになります。
適用時期と経過措置
適用時期
- 原則:2026年4月1日以降 に開始する会計年度から適用。
- 早期適用:2025年4月1日以降 の会計年度から適用可能。
経過措置
- 初年度は「適用初日の時価」を評価基準とする。
- 時価評価の判断は、一律期首時点で決定。
- 評価差額は期首の「その他の包括利益累計額」(または「評価・換算差額等)に加減。なお、減損相当額は期首の「利益剰余金」に加減。
企業・投資家への影響
この改正によって、企業や投資家にとって以下のような影響が考えられます。
企業側の影響
- 財務諸表の透明性が向上 し、投資家の信頼が増す。
- VCファンドの評価方針を事前に決める必要がある(途中変更不可)。
- 時価評価による損益の変動 を考慮し、財務戦略を練る必要がある。
投資家側の影響
- 企業の投資判断がより透明になる
- VCファンドの財務健全性がより分かりやすくなる
- 海外投資家の資金流入が期待される
まとめ
今回の改正は、VCファンドの透明性を高め、より多くの投資資金を呼び込むことを目的とした重要な変更 です。
企業にとっては、適用するかどうか慎重に判断し、適用後の影響を見極める必要があります。一方、投資家にとっては、より明確な情報が開示されることで、投資判断がしやすくなるメリットがあります。
今後、企業や投資家がこの改正をどのように活用していくのか、注目が集まります。