「社員は忙しいのに、利益が出ない」――その違和感
「残業は増えている」「タスクも案件も多い」「新規顧客も順調に増えている」。それなのに、手元に残る利益が増えない。そんな“成果と感覚がかみ合わない”状況に、経営者として疑問を持ったことはないでしょうか。
この状態は、決して現場の努力不足ではありません。むしろ、目の前の仕事に全力で対応しているにも関わらず「儲からない」のであれば、問題は業務の中身や取引の質にある可能性が高いのです。
忙しさの裏にある「儲からない構造」
儲からない理由として、まず考えたいのが「業務の設計そのもの」です。
たとえば、以下のような構造が見られることが多くあります。
・ 属人化していて、引継ぎや再発防止ができない
・ 作業指示や要件が曖昧で、手戻り・再対応が頻発
・ システムやツールが連携しておらず、二重入力が多い
・ 無償対応・カスタマイズ対応が日常化している
これらは「忙しさ」を生む原因ではありますが、さらに深く掘ると、そもそも「利益が出づらい仕事・顧客・商品に多くの時間を割いている」という戦略的な問題に行き当たります。
利益率の低い仕事を抱えすぎていないか?
「取引が多い=良い顧客」と思っていないでしょうか?
実際には、利益率の低い製品やサービス、値引き要求の多い顧客、対応工数ばかりかかるオプション案件などが、利益を押し下げていることが少なくありません。
一見、売上に貢献しているように見える顧客でも、個別対応やイレギュラーな要求が多く、社内の工数・負荷が高ければ、実質的な粗利は低いことがよくあります。これを放置すると、「利益は薄いが手間はかかる案件」にリソースが集中し、結果として“忙しさ”だけが増していくのです。
このような場合、業務の改善だけでは不十分で、「どの仕事を選ぶか」「どの顧客に注力すべきか」といった取捨選択=戦略の再設計が必要になります。
儲けるための「業務設計と戦略設計」5つのステップ
ステップ1:業務の可視化と棚卸し
まずは、部署単位・職務単位で、日々の業務をすべて洗い出し、フローとして可視化します。ここで重要なのは、単に業務を並べるのではなく、「どの業務が価値を生み」「どの業務がムダや重複になっているか」を明確にすることです。
ステップ2:利益貢献度による取引の分類
製品・サービス・顧客ごとに「粗利率」「対応工数」「再作業率」などのデータを基に分析し、収益性の高い取引と、そうでない取引を分類します。利益率の低い仕事は、本当に自社で抱えるべきかを見直します。
ステップ3:業務負荷を軽減する仕組み化
たとえば、定型業務はRPAやSaaSを活用して自動化し、非効率な属人業務はマニュアル化・標準化します。人手による対応は、より創造的・判断が必要な業務に振り分けることを目指します。
ステップ4:KPIと評価軸の見直し
「処理件数」や「稼働時間」ではなく、「粗利額」や「1時間あたりの利益」「標準工数との差異」など、経営に直結する指標へとシフトします。KPIが変われば、現場の動きも必ず変わります。
ステップ5:商品・顧客ポートフォリオの最適化
業務設計の見直しと並行して、「自社が本当に注力すべき商品や顧客」は何かを再定義します。全方位的に仕事を取るのではなく、収益性と効率性が見込めるものに集中する戦略が必要です。
実際に効果が出た再設計の例
ある製造業の企業では、営業部門が顧客の細かなカスタマイズ要求に個別対応していたため、受注後の製造現場で頻繁に手戻りが発生していました。これにより残業が常態化し、利益率も下がっていました。
そこで、営業段階での受注フローと製造フローを可視化し、標準仕様からの逸脱が発生するたびに社内申請が必要になる仕組みを導入。加えて、収益性の低いオプション製品の見直しを実施した結果、手戻りは大幅に減少し、月次粗利も改善しました。
まとめ:「仕組みで稼ぐ会社」への転換を
「忙しいのに儲からない」という状態は、現場の頑張りではどうにもなりません。必要なのは、経営としての決断と再設計です。業務の流れを見直し、利益につながる仕組みに変え、さらに誰のために、どんな価値を提供するかを再定義することで、会社は劇的に変わります。
忙しさに目を奪われず、「本当に儲かる仕事」に集中できる体制こそが、持続的な成長を生む真の業務設計です。