企業の予算管理は、通常「固定予算」をベースに行われます。しかし、固定予算では売上の変動を考慮できず、管理者が適切なコスト削減策を講じるのが難しくなります。そこで注目したいのが「変動予算」の活用です。本記事では、変動予算の仕組みと導入のメリットを詳しく解説し、中堅企業が予算管理をより効果的に行う方法を紹介します。
1. 固定予算の限界とは?
① 予算作成の流れ
多くの企業では、年度が始まる前に予算を作成します。
- 経営または経営企画部が基本方針を決定
- 各管理者が部門予算を作成
- 予算案を取りまとめて全社予算を策定
- 事業計画や売上目標との調整を経て確定
こうして決まった予算は、基本的に1年間固定され、変更があるとしても下期に1回修正する程度です。この「固定予算」と実績を比較しながら経営管理を行うのが一般的です。
② 固定予算の問題点
固定予算の予実管理では、次のような問題が発生します。
- 売上未達が注目されやすい →「なぜ売上が未達だったのか?」という議論ばかりになり、他の要因が見落とされる。
- コストの適正評価ができない → 売上に連動する経費(変動費)が減っていても、それが適切な削減なのかどうかが判断できない。
- 管理者が本質的なコスト削減を実施できない → 「売上が未達だったので経費も減った」という表面的な解釈で終わる。
これでは、管理者が適切なコスト削減策を考えることが難しくなります。そこで有効なのが「変動予算」です。
2. 変動予算とは?
① 変動予算の仕組み
変動予算は、実際の売上高や操業度に応じて、連動する費用(変動費)の予算額を調整する方法です。
変動費の例:
- 売上原価(仕入単価や製造コスト)
- 運賃(商品の発送にかかるコスト)
- 広告費(広告投資と売上の相関がある場合)
- 販売手数料(売上高に応じて変動する)
- 決済手数料(売上に比例する)
- 業績連動型賞与(成果に応じて支給額が変わる)
例えば、売上実績が予算の95%だった場合、変動費も95%に調整されるべきです。これにより、「本来あるべき費用」と「実際の費用」を比較しやすくなります。
② 変動予算で見える新たな視点
変動予算を導入すると、以下のような新たな分析が可能になります。
- 売上減少の影響を排除し、コストの本質的な問題を発見できる
- 売上原価が適正かどうかを判断し、価格設定や仕入単価の見直しが可能になる
- 広告費削減が売上に影響を与えているかどうかを分析できる
例えば、売上が未達でも、変動予算の分析によって「粗利率の悪化」や「コスト削減の余地」を明確に把握できます。
3. 変動予算の具体的な活用方法
① 変動予算を用いた分析のステップ
- 固定予算と実績の比較 → 売上の達成率を把握
- 売上に応じた変動費の再計算(変動予算の作成)
- 変動予算と実績を比較 → 本質的なコスト差異を発見
- 追加の深掘り分析 → 仕入単価や広告費の影響を評価
- 具体的なコスト削減施策の実施
② 変動予算の導入が特に有効なケース
- 売上の変動が大きい業種(例:小売業、製造業、ECビジネス)
- 変動費の割合が高い企業(例:広告依存型ビジネス、物流コストが多い企業)
- 固定予算と実績の差異分析が不十分な企業
③ 変動予算の導入手順
- 変動費と固定費を分類する(売上と連動する費用を明確化)
- 変動費の計算ルールを設定する(売上や操業度に応じた計算式を作る)
- システムまたはExcel等で変動予算を算出する仕組みを整備
- 定期的なレビューを行い、管理者が適切な分析をできるようにする
4. まとめ:経営者と管理者で予算管理を分けるべき
固定予算だけを使うと、売上未達の分析に終始し、管理者が適切なコスト削減策を考える機会が失われます。そこで、
- 経営者には「固定予算」を提供し、大局的な判断を行う
- 管理者には「変動予算」を提供し、実効的なコスト管理を行う
という考え方を採用すると、より精度の高い予算管理が可能になります。
変動予算の導入により、「売上未達を嘆く」のではなく、「適切なコスト管理を実施する」組織へと変革できるのです。
中堅企業の経営者・管理者は、今こそ固定予算だけでなく、変動予算を取り入れた新しい予算管理の仕組みを検討してみてはいかがでしょうか?