企業の予算管理では、「投資」と「経費」を明確に区別することが不可欠です。しかし、多くの企業では、予算策定時にはこれらを分けて考えているものの、実際の予実管理では合算されてしまっています。その結果、管理者が予算達成のために本来削るべきでない投資を削減し、長期的な企業成長を損なうことがあります。本記事では、投資と経費を分別管理する重要性と、その具体的な方法を解説します。
1. 投資と経費の違いとは?
まず、「投資」と「経費」の違いを明確に理解しましょう。
① 投資とは?
投資とは、将来の成長のために行う支出です。すぐに利益を生むわけではなく、一定期間の後に成果が表れます。
代表的な投資の例:
- 設備投資(工場の新設、機械の導入)
- 研究開発投資(新素材や新製品の開発)
- 広告投資(ブランドイメージ向上のためのPR活動)
- 人材投資(従業員の採用や教育研修)
投資は経営の意思決定によって承認され、確実に実行されるべき支出です。
② 経費とは?
一方、経費とは、事業運営のために発生する日常的な支出です。売上に直結するものであり、可能な限り効率的に管理されるべきものです。
代表的な経費の例:
- 広告費(売上促進のためのダイレクトメールやWeb広告)
- 販管費(人件費、オフィス賃料、通信費など)
- 消耗品費(事務用品、コピー用紙など)
- 業務委託費(外部サービスの利用費)
経費は「予算の上限」が定められており、管理者には可能な限り削減する努力が求められます。
2. なぜ投資と経費を分別管理すべきなのか?
① 予算達成のために「投資」が削減されるリスク
多くの企業では、投資と経費が合算された予実管理を行っており、予算達成が苦しくなると管理者が投資を削るケースが発生します。
- 「売上が未達なので、広告予算を削ろう」
- 「設備投資を先送りし、当期のコストを抑えよう」
- 「教育研修費をカットして、部門の利益を確保しよう」
投資は将来の成長を支える支出であり、短期的な予算達成のために削減すると、長期的な競争力低下を招く危険があります。
② 経営層が投資削減を把握できない
投資と経費が一緒に管理されていると、経営層は何が削減されているのか把握しにくくなります。
- 予実表を見ても、経費が減ったのか、投資が減ったのか分からない
- 管理者の判断で投資が削減され、経営層が気付かないまま企業の成長が停滞する
その結果、企業は知らないうちに競争力を失い、「将来の売上減少」につながるのです。
3. 予算管理で投資と経費を分別する方法
① 予算策定時だけでなく、管理時も分ける
多くの企業では、予算策定時に投資と経費を分けていますが、実際の管理では合算してしまうケースが多いです。これを防ぐために、予実管理でも投資と経費を明確に分ける仕組みを導入します。
② 予実表で投資と経費を区別する
従来の予実表(合算管理)
科目 | 予算 | 実績 | 差異 |
---|---|---|---|
広告費 | 500 | 400 | -100 |
この場合、100万円の削減が「投資削減」なのか「経費削減」なのか分かりません。
分別管理した予実表
科目 | 投資予算 | 経費予算 | 投資実績 | 経費実績 | 投資差異 | 経費差異 |
---|---|---|---|---|---|---|
広告費 | 100 | 400 | 50 | 350 | -50 | -50 |
このように分けることで、どの支出が削減されたのかが明確になり、管理者の適切な行動を促すことができます。
③ 経費は削減すべきだが、投資は削減しない仕組みを作る
- 経費予算:管理者が削減努力を行うべきもの
- 投資予算:経営判断で決定し、管理者が勝手に削減できないもの
このルールを明確にすることで、管理者が短期的な利益確保のために不要な投資削減を行うことを防げます。
4. まとめ:投資と経費の分別管理が企業の未来を守る
企業の予算管理において、**「経費は削減すべきもの」「投資は確実に実行すべきもの」**という明確なルールを設けることが重要です。
- 経費と投資を分けた予実管理を導入する
- 管理者が投資を削減できない仕組みを作る
- 投資削減が企業の成長に与える影響を把握できるようにする
投資と経費を正しく管理することで、短期的な利益確保だけでなく、長期的な成長を見据えた経営が可能になります。
中堅企業の経営者・管理者の皆さんは、今こそ投資と経費の分別管理を導入し、より強い企業経営を目指してみてはいかがでしょうか?