企業にとって予算管理は、単なる数値管理ではなく、経営の羅針盤となる重要な仕組みです。しかし、特に中堅企業では予算管理が複雑化し、管理者の意図とは異なる方向へと進んでしまうケースが多く見られます。本記事では、中堅企業の予算管理に潜む問題点と、それを解決するための具体的な改善策を解説します。
1. 中堅企業の予算管理に潜む問題点
① 予算管理の目的が歪むリスク
予算と実績を比較することで、経営状況を把握し、適切な対応を取ることが本来の予算管理の目的です。しかし、管理者の評価や査定が予算達成のみに紐づくと、管理者は「数字を作る」ことにフォーカスし、本来の経営改善が後回しになることがあります。
例えば、予算を達成するために、
- コストを別の部門に配賦し、見かけ上の利益を改善する
- 短期的な売上を優先し、後の返品リスクを無視する
- 必要な投資を先送りし、帳簿上の数字だけを良くする
といった行動が発生しがちです。これは管理者のモラルの問題ではなく、仕組み自体がそうさせてしまうことに原因があります。
② 過度な配賦が組織の対立を生む
中堅企業では、共通費用を各部門に配賦することで、部門ごとの収益を正しく計算しようとします。しかし、この仕組みが過度に複雑化すると、配賦の仕方を巡って部門間の対立を生み、組織の一体感が失われることになります。
ある企業では、毎月40本以上の配賦処理が行われていました。このような状況では、部門長たちが本来の業務ではなく、いかにして有利な配賦を勝ち取るかに注力してしまい、組織全体の生産性が低下してしまうのです。
③ 情報の一貫性が欠けると管理が崩壊する
経営者が「予算通りに進んでいるか？」と尋ねても、その答えが適切であるとは限りません。情報が管理者の都合で歪められていたり、適切なデータが共有されていなかったりすることがあるからです。
特に、売上管理では、
- 売上の実態を把握せず、数値結果だけで評価する
- 返品や値引きの影響を考慮せずに売上を報告する
- 経営が細かい部分を見ないことで、営業の不正が発生しやすくなる
といったリスクが発生します。
2. 誤った管理を防ぐための予算管理改革
① 予算管理の仕組みをシンプルにする
複雑な配賦処理を減らし、管理者が本業に集中できる環境を作ることが重要です。
- 共通経費の配賦ルールを明確化し、恣意的な操作を防ぐ
- 部門別利益の算出方法を統一し、不公平感をなくす
- 収益評価において、短期的な数値だけでなく、返品率や取引の質も考慮する
② 経営判断に必要な情報を適切に整備する
経営層と現場の情報ギャップをなくすことで、より正確な意思決定が可能になります。
- 営業データの詳細を可視化し、売上だけでなく、顧客ごとの利益率や取引リスクも評価する
- 財務・経理部門が、単なる数値報告ではなく、経営判断に活かせる分析を提供する
- 現場からのフィードバックを集める仕組みを整え、実態と乖離しない評価基準を作る
③ 「ご都合主義」を防ぐためのシステム設計
管理者のモラルに頼らず、適切な仕組みを作ることで、意図しない不正を防ぐことができます。
- 売上報告を単なる数値ではなく、その背景まで報告させる仕組みを作る
- 過去の取引データを分析し、異常値が出た場合にアラートを出す仕組みを導入する
- KPIを短期的な売上だけでなく、顧客満足度やリピート率などの長期指標も組み込む
3. 仕組みを変えることで人を守る
管理者が誤った判断をしてしまうのは、その人のモラルの問題ではなく、そうせざるを得ない仕組みがあるからです。これは、SNSの不適切投稿を防ぐ仕組みと同じ考え方が適用できます。
ある企業では、アルバイトのSNS不適切投稿が大きな問題となりました。教育の徹底や監視カメラの設置といった対策が講じられましたが、根本的な解決には至りませんでした。しかし、ある外食チェーンでは「制服にポケットをつけない」というシンプルな施策で、スマホを持ち歩けなくし、投稿自体を防いだという話があります。
これと同じように、予算管理も「管理者が不適切な行動を取れない仕組み」を作ることで、企業全体の健全な経営を維持できます。
まとめ
中堅企業の予算管理は、単なるコスト管理ではなく、企業の成長を支える重要な仕組み です。
- 予算管理をシンプルにし、管理者が本業に集中できる環境を作る
- 情報の透明性を高め、経営判断の精度を向上させる
- モラルに頼らず、適切なシステムを設計し、不適切な行動を防ぐ
予算管理を適切に改革することで、企業は健全な成長を続けることができます。今こそ、自社の予算管理を見直し、より効果的な仕組みを作るタイミングかもしれません。