経費削減の常識を破る ― 会計データから始めるトップ主導の改革

部署主導の経費削減はなぜうまくいかないのか

多くの企業が経費削減に取り組んでいます。しかし実際には、「自部署でできる削減には限界がある」と感じる経営者や管理職は少なくありません。
その背景には次のような要因があります。

  • 慣性の法則:長年続いてきた支出は「当たり前」となり、無くす発想自体が生まれにくい。
  • 承認者の多さ:部署内の複数人が支出を承認していると、「必要性」が組織的に補強されてしまい、実態以上に正当化される。
  • 自部署バイアス:自分たちの経費を削ることに対して心理的な抵抗がある。

つまり、現場主導の経費削減はどうしても小手先にとどまりやすいのです。

イーロン・マスク流「ドージ改革」に学ぶ

イーロン・マスク氏がツイッター買収後に実施した「ドージ改革」は、経費削減の教科書のような事例です。
特徴的だったのは、利害関係を持たないチームが支出データを徹底的に精査し、ゼロベースで無駄を排除したことです。

社内の常識や部門の都合を度外視し、「この支出は本当に必要か?」を一つひとつ問い直す。そこに既存の承認フローやしがらみは関係ありません。この徹底こそが大幅な経費削減につながったのです。

一般企業でどう実践できるか

もちろん、マスク氏のように強烈なリーダーシップを前提にした改革をそのまま再現するのは難しいでしょう。しかし、一般企業でも取り入れられる方法があります。

それは、会計帳簿データを徹底的に分析することです。
社長直轄の小規模なチームを編成し、数年分の会計帳簿データを精査すれば、部署任せでは見えなかった支出構造が浮かび上がります。

  • 同じ性質の費用が複数の部署で重複していないか
  • 継続的に支出されているが、実際には成果と結びついていないものはないか
  • 外注費やサービス契約が「昔のまま更新」されていないか

これらを一つひとつ可視化し、ゼロベースで判断することで、本質的な削減が可能になります。

経営者が取るべきアクション

経費削減を本当に実現するには、「現場に任せる」から一歩踏み出し、トップ主導の仕組みを作ることが不可欠です。

  1. 社長直轄の分析チームを設置する
    経理・企画のメンバーを少数アサインし、利害のない立場で分析させる。
  2. 数年分の会計データを徹底的に可視化する
    支出の傾向や慣性支出をあぶり出す。
  3. 「必要かどうか」をゼロベースで判断する文化を作る
    「去年も払ったから今年も払う」を断ち切る。

まとめ

経費削減は、現場に丸投げしても「消耗品を減らす」「残業を抑える」といった小規模な施策に終わってしまいます。
本質的に企業体質を変えるには、社長直轄で会計データを精査し、既存の常識を打ち破ることが必要です。

「経費削減には限界がある」という思い込みを超えて、本質的な無駄の排除に踏み出す。その一歩が、企業の競争力を大きく高めるでしょう。