景気が悪くなると、経営者は必死になります。売上を落とさないように、社員を守ろうと、取引先との関係を切らさないように。その姿勢自体は、決して間違っていません。
しかし、不況局面では、「善意」や「努力」が、必ずしも会社を救うとは限らない、という現実があります。
実際に、資金繰りが詰まり、撤退や倒産に追い込まれる企業を見ていると、共通して現れる典型的な判断があります。ここでは、特に多く見られるものを整理します。
① 値上げできず「量」でカバーしようとする
最も多いのが、この判断です。
- 値上げは怖い
- 客が離れるのが不安
- とにかく仕事量を増やそう
その結果、どうなるか。単価は低いまま、原価と人件費だけが上がり、
忙しさだけが増えていきます。
この状態では、
- 社員は疲弊する
- 社長は現場から離れられない
- 利益率は改善しない
という悪循環に入ります。量でカバーする経営は、コストが安定している時代の戦略です。円安・物価高の局面では、真っ先に見直すべき判断だと言えます。
② 「忙しい=順調」だと思い込む
仕事が詰まっていると、経営がうまくいっているように感じてしまいます。しかし、忙しさと経営の健全性は、必ずしも一致しません。
よくあるのが、
- 利益の出にくい仕事ほど手間がかかる
- クレーム対応やイレギュラーが多い
- 管理コストが膨らむ
といったケースです。結果として、売上はある、仕事も多い、しかし現金は増えない、という状態になります。「忙しいのにお金が残らない」という違和感は、経営が黄色信号に入っているサインです。
③ 社長が身を削って耐えようとする
不況になると、
「自分が我慢すれば何とかなる」と考える社長は多いものです。
- 役員報酬を下げる
- 休みを取らない
- 現場に出続ける
短期的には、確かに会社は回ります。しかし、この対応には明確な限界があります。
- 社長が倒れたら終わり
- 判断が後手に回る
- 本来考えるべき経営課題に手が回らない
これは経営の延命ではなく、問題の先送りです。
④ 「そのうち景気が戻る」と期待する
過去の不況では、時間が経てば景気が戻り、売上も自然に回復することがありました。しかし今回の環境は違います。
- 円安は構造的
- 物価は下がりにくい
- 家計の余力は小さい
この状況で、もう少し我慢すれば元に戻ると考えるのは、前提条件が違う時代の発想です。景気を待つ間にも、固定費と返済は確実に出ていきます。
⑤ 何も変えず「現状維持」を選ぶ
実は、これが最も危険です。
- 大きな失敗はしていない
- まだ回っている
- 変えるのは怖い
こうした理由で、何も決めず、何も変えない。しかし不況下では、現状維持は後退と同じ意味を持ちます。市場が縮む中で同じことを続ければ、相対的に立場は悪くなっていきます。
真面目な会社ほど危ない理由
ここまで挙げた判断は、決して「怠慢」や「放漫経営」から生まれるものではありません。むしろ、
- 顧客を大切にしてきた
- 社員を守ろうとしている
- 誠実に仕事をしてきた
真面目な会社ほど、陥りやすいのが特徴です。だからこそ、「頑張る」「耐える」以外の選択肢を、意識的に持つ必要があります。
不況局面で問われるのは「覚悟のある判断」
これからの局面で重要なのは、
- 何を続けるか
- 何をやめるか
- どこまで守るか
を、感情ではなく構造で決めることです。すべてを守ろうとすると、
結果的に何も守れなくなります。不況時の経営判断は、「努力の量」ではなく、
選択の質で結果が決まります。
やってはいけない判断を知ることは、正しい判断への第一歩でもあります。