全部値上げしなくていい~スタグフレーション時代の「顧客の選び方」

値上げの話題になると、経営者の表情は一気に重くなります。「値上げをしたら客が離れるのではないか」「長年の取引先に、そんなことは言えない」こうした不安は、どの業種でも共通です。

しかし、円安・物価高が続く中で、値上げを避け続けること自体が、最大のリスクになりつつあります。重要なのは、「値上げをするか、しない」ではありません。「どこを上げ、どこを上げないか」を選ぶことです。

なぜ「一斉値上げ」は失敗しやすいのか

値上げというと、「全商品・全顧客を一律で上げる」というイメージを持たれがちです。しかし、不況局面での一斉値上げは、次のような問題を生みやすくなります。

  • 価格に敏感な顧客から一気に離脱が起きる
  • 売上が急減し、社内が動揺する
  • 結局、元に戻してしまう

結果として、「値上げはやはり無理だ」という誤った学習が残ります。値上げが失敗する原因の多くは、やり方ではなく、やり方の前提にあります。

値上げの本質は「顧客の選別」

スタグフレーション下では、すべての顧客を守ることはできません。むしろ重要なのは、

  • 誰に価値を提供し続けるのか
  • 誰とは距離を置くのか

を明確にすることです。値上げとは、単に価格を上げる行為ではなく、
「この価格で付き合える顧客を選ぶ行為」だと考えるべきです。

まず見直すべき顧客の特徴

実務上、優先的に見直すべき顧客には、いくつか共通点があります。

  • 値引きが前提になっている
  • 少量・短納期・例外対応が多い
  • クレームや修正依頼が頻発する
  • 利益率が極端に低い
  • 社内の特定の人に負荷が集中している

こうした顧客は、売上はあっても、経営体力を削り続けます。不況期にこれらを抱え続けることは、静かに会社を弱らせる行為に他なりません。

「顧客を減らす」と、なぜ楽になるのか

顧客を減らすというと、売上減少ばかりが意識されます。しかし実際には、

  • 業務がシンプルになる
  • 現場のストレスが減る
  • 管理コストが下がる
  • ミスやトラブルが減る

といった効果が現れます。その結果、売上は減っても、キャッシュフローは改善するというケースは少なくありません。特に、借入返済を抱えている企業では、この効果は想像以上に大きくなります。

値上げが受け入れられる顧客の共通点

一方で、値上げをしても残る顧客には、はっきりとした特徴があります。

  • 価格以外の価値を理解している
  • 継続的な関係を重視している
  • 社内のやり取りがスムーズ
  • トータルで見たコストを考えている

こうした顧客は、値上げに対しても冷静です。むしろ、「これまでが安すぎたのでは?」と言われることすらあります。

値上げは「交渉」ではなく「方針」

値上げを、「お願い」や「交渉」として捉えると、必ず苦しくなります。重要なのは、経営方針として提示することです。

  • 原価構造がこう変わった
  • この価格でなければ提供できない
  • 品質と体制を維持するために必要

感情ではなく、構造と理由を淡々と伝える。これが、値上げを成功させる基本です。

誤解してはいけないのは、値上げに応じない顧客が悪いわけではない、という点です。相手にも事情があります。ただ、その価格帯での取引が合わなくなった
というだけの話です。

この線引きをできるかどうかが、経営者の覚悟になります。

スタグフレーション時代の正解は「薄く広く」ではない

これからの時代、薄利多売・何でも対応する経営は、ますます厳しくなります。

必要なのは、

  • 顧客を絞る
  • 提供価値を明確にする
  • 価格に理由を持たせる

という、濃く、選ばれる経営です。値上げと顧客選別は、攻めの戦略ではありません。生き残るための現実的な防衛策です。誰に、どの価格で、どこまでやるのか。この問いに向き合えるかどうかが、今後の中小企業経営を大きく左右することになります。