安い時代の終わり② 日本企業はなぜ量を追う経営をしてきたのか

前回の記事では、「安い時代の終わり」というテーマについてお話ししました。

人手不足、原材料価格の上昇、エネルギーコストの増加などにより、私たちはこれまでとは異なる経営環境に入りつつあります。

しかし、ここで一つ考えてみたいことがあります。

なぜ多くの日本企業は、これまで売上拡大や規模拡大を目指してきたのでしょうか。

それは経営者が短絡的だったからでも、利益を軽視していたからでもありません。むしろ、その時代においては極めて合理的な選択だったのです。

日本は「足りない国」から「豊かな国」になった

戦後の日本は、あらゆるものが不足していました。

住宅が足りない。家電が足りない。自動車が足りない。インフラも不足している。

つまり、社会全体に巨大な需要が存在していました。作れば売れる。作った分だけ市場が拡大する。そんな時代です。

企業に求められたのは、「どれだけ効率よく大量に供給できるか」でした。品質向上やコスト削減、生産性向上への取り組みが競争力そのものだったのです。

成功の方程式は「より多く作ること」だった

高度経済成長期以降、多くの企業は共通の成功体験を持っています。

設備投資を行う。生産能力を高める。営業人員を増やす。販売網を拡大する。そして売上を伸ばす。

実際、この戦略は何十年にもわたって機能しました。市場は成長し続け、人も採用でき、エネルギーも原材料も比較的安価に調達できました。

規模を拡大するほど利益も増える。だから企業は売上成長を目指したのです。それは間違いではありませんでした。

「効率化」が最重要課題だった時代

この時代の経営を一言で表現するなら、「不足しているのは需要ではなく供給能力」でした。

顧客はいる。市場もある。問題はどうやって大量に作るか。どうやって大量に届けるか。

そのため、

  • 生産性向上
  • 標準化
  • 自動化
  • 大量生産
  • スケールメリット

が重視されました。ERPも、生産管理システムも、物流システムも、その多くは「効率化」のために導入されてきました。

限られた人員でより多くの仕事をこなすことが企業の競争力だったからです。

量の経営は成功した

ここで誤解してはいけないのは、量を追う経営は失敗だった、という話ではないことです。

むしろ、日本企業は量を追うことで世界有数の経済大国になりました。

製造業も、小売業も、サービス業も、「より安く、より多く」を実現することで成長してきました。

その成功体験が現在の経営にも深く根付いています。

売上を伸ばす。顧客を増やす。市場シェアを拡大する。これらは今でも多くの企業の重要な目標です。

しかし、前提条件が変わり始めている

問題は、その成功の方程式を支えていた前提条件です。

人は採用できる。原材料は買える。エネルギーは十分にある。物流は止まらない。こうした前提が少しずつ崩れ始めています。

たとえば人手不足は、多くの企業にとって恒常的な課題になりました。採用しても人が集まらない。退職者の補充ができない。受注はあるのに対応できない。そんな企業も珍しくありません。

これは市場の問題ではありません。経営資源の問題です。

これからの経営は「何を増やすか」ではなく「何に使うか」

量の経営では、「どうやって売上を増やすか」が重要でした。

しかし、資源が限られる時代には、「どこに資源を投入するか」が重要になります。

すべての顧客を追わない。すべての商品を残さない。すべての案件を受注しない。こうした選択が経営の中心になります。

つまり、量の最適化から、資源配分の最適化へ。経営のテーマそのものが変わろうとしているのです。

次回予告

次回は、これから企業が向き合うことになる「不足」について考えます。

人手不足だけではありません。エネルギー、原材料、物流能力など、多くの経営資源が制約を受ける時代が始まっています。

そのとき企業は何を優先し、何を諦めるべきなのでしょうか。