オーソドックスな管理会計は財務会計と連動しているため、内容が「実績主義」「負担主義」「形式主義」に重きを置いたものになりがちです。これらの手法は部門ごとの収支を把握するのには適していますが、経費削減の視点では不十分です。この記事では、経費削減を重視した管理会計の設計方法を解説します。
1. オーソドックスな管理会計の限界
従来の管理会計の特徴を整理すると、以下のような課題があります。
- 実績主義:財務会計では実績値のみが使用され、仮の数字や予定値を使うことは認められていません。例えば、全社共通費が今月100万円発生した場合、その全額を部門に配賦します。このため共通費の変動次第で各部門の利益が大きく変動し、経費削減の評価が難しくなります。
- 負担主義:経費を「どの部門が負担すべきか」に基づいて按分されますが、発生源である部門と異なる部署が負担することがあります。例えば、全社用のコピー用紙を総務部がまとめて購入しても、負担は各部門に人数比で按分されることが一般的です。しかし、経費削減の権限を持つのは、実際に発注した総務部です。
- 形式主義:財務会計の利益は「営業利益」や「経常利益」など形式的な指標が使われます。部門別損益でも同様に、販管費すべてを部門別に按分しているため、削減すべき費目が埋もれてしまうことがあります。
これらの問題を解決するためには、発生源や削減責任を明確にし、実態に即した数値管理を行う必要があります。
2. 経費削減に強い管理会計のポイント
経費削減を目的とした管理会計では、「予定主義」「発生主義」「実質主義」に基づいた設計が効果的です。
(1) 予定主義
経費の配賦を実績ではなく予定に基づいて行う手法です。
- 例:全社共通費の年間予算が1,500万円の場合、月次では125万円を定額配賦します。この方法では実際の共通費発生額にかかわらず固定配賦されるため、部門利益が共通費の増減で変動することはなく、部門ごとの経費削減の成果を明確に把握できます。
(2) 発生主義
経費の発生源に基づいて経費を管理する手法です。
- 例:コピー用紙の購入を総務部がまとめて行う場合、その費用は総務部の経費として管理します。各部門への按分を行わないことで、経費削減の責任を負う部門を明確にします。実際に価格交渉や発注数量の見直しを行うのは総務部であるため、削減効果を評価しやすくなります。
(3) 実質主義
経費削減の対象を明確にし、特定の費目に着目して管理する方法です。
- 例:売上総利益や営業利益ではなく、「特定費目を引いた後の利益(貢献利益)」を指標として使用します。たとえば販管費全体ではなく、広告費や通信費など管理可能な費目に絞って削減効果を追跡することで、具体的な改善策を導けます。
3. 経費削減のための補足ポイント
変動予算の導入
- 固定予算では一定の費用があらかじめ設定されますが、変動予算は売上の実績に応じて変動費を設定します。これにより、売上増減の影響を排除し、実績を純粋な予算対比で評価することができます。
投資と経費の区別
- 経費と投資の区別も重要です。利益確保のために必要な投資を先延ばしすると、短期的な数値改善に見えても長期的な競争力を損なうリスクがあります。管理会計では、将来の成長に必要な投資を経費と分けて管理し、適切な判断ができる体制を整えましょう。
4. 経費削減に強い管理会計のメリット
- 透明性の向上:経費発生源を明確にすることで、誰がどの経費を管理すべきかが可視化されます。これにより、責任の所在が明確となり、経費削減に向けた意識が全社的に高まります。また、透明性が高い情報共有によって、無駄な経費の原因を迅速に特定でき、具体的な改善アクションが取りやすくなります。
- 削減効果の測定:予定値を基準にすることで、削減目標と実績との差異を正確に把握できます。これにより、各部門が立てた改善計画が適切に機能しているかどうかを評価しやすくなります。また、成果を評価しやすいため、成功事例を全社に展開することで、さらなる効率化の促進にもつながります。
- 意思決定の迅速化:特定費目に着目した管理が可能になり、改善策の実行に時間を要しません。部門ごとに細かい分析を行うことで、経費削減に対する優先順位が明確となり、無駄な意思決定プロセスを短縮できます。これにより、現場レベルでの即時対応が可能となり、迅速な意思決定とアクションの実行を支援します。
終わりに
経費削減に強い管理会計は、「予定主義」「発生主義」「実質主義」のアプローチを活用することで、責任の所在を明確にし、削減効果を高めることができます。従来の「実績主義」「負担主義」「形式主義」にとらわれず、柔軟な管理体制を構築することで、企業の成長を支える持続可能な経営基盤を築きましょう。これにより、経費削減だけでなく、将来的な成長のための投資判断もより効果的に行えるようになります。