近年、後継者不足が深刻化する中で、中小企業のM&Aがますます活発化しています。その中でも、承継先が上場企業となり、その連結子会社になるケースが増えてきています。これは事業承継の一つの形として注目されていますが、上場企業の子会社となることで、新たに直面する課題も少なくありません。
上場企業の子会社となると、親会社の経営方針や管理体制に合わせた業務運営が求められます。その中でも特に大きな実務上の課題となるのが、「月次決算の早期化」です。
上場企業では、連結財務諸表の作成が義務付けられており、親会社はすべての子会社から財務情報を一定のタイミングで収集する必要があります。そのため、子会社は毎月決められた期日までに、月次決算を締めて親会社に財務書類を提出しなければなりません。
月次決算早期化の課題
多くの中小企業では、これまで月次決算のスピードがそこまで求められていなかったため、迅速な決算を行う仕組みが整っていません。
例えば、仕入業務を考えてみましょう。仕入先の請求書は通常、翌月初に届きます。仕入担当者が請求書をチェックし、問題がないことを確認してから経理に回し、支払いを依頼します。その後、経理担当者が請求書の金額をもとに仕訳を入力します。
このような流れでは、短期間で集中して仕入先の請求書を処理する必要があるため、既存の体制では非常に大きな負荷がかかります。さらに、仕入先からの請求書の到着が遅れると、決算作業全体に遅延が発生するリスクも伴います。
また、上場企業の会計基準は、中小企業がこれまで採用してきた税務会計とは本質的に異なります。親会社の基準やルールを正確に把握し、それに対応するためには、相当な時間と労力が求められます。これには新しいプロセスの導入や、従業員への教育、システムのアップデートなどが含まれ、短期間で対応するには慎重な計画と準備が必要です。
買収する上場企業側の話
買収する上場企業側も、こうした課題を認識しており、財務調査の中で「月次決算をどれくらいの日数で締められるか」「買収後にスムーズに月次決算を行える体制か」を詳細に確認します。
買収を決断する際の最大の要素は、その企業の将来性や成長性ですが、M&Aを数多く実施している上場企業ほど、買収後の実務上の課題も重視します。特に、月次決算体制が整っていない場合、買収後に親会社側が多大なコストや時間を費やすリスクがあるため、子会社側にも早期の対応が求められます。
事前準備の重要性
事業承継を考える中で、こうした状況に備えるためには、今からできる準備を進めておくことが重要です。
- 業務プロセスの見直し
現在の仕入・経理プロセスを洗い出し、無駄や遅延要因を特定し、効率化を図ります。 - 会計基準の理解と適応
上場企業の会計基準や親会社が求めるルールを事前に理解し、必要な対応策を検討します。 - 人材育成と体制強化
財務や会計の専門知識を持つ人材の育成を進め、迅速な決算作業に対応できるチームを構築します。 - デジタルツールの導入
自動化ツールやクラウド会計ソフトの活用で、手作業を減らし、業務効率を向上させます。
まとめ
突然、上場企業の子会社になることは大きなチャンスであると同時に、実務上の課題への迅速な対応が求められます。特に月次決算の早期化は避けて通れない問題です。しかし、適切な準備を行うことで、これらの課題を克服し、親会社との連携をスムーズにすることが可能です。
事業承継を検討している企業は、今から必要な体制づくりを進め、将来のM&Aや上場企業の子会社化に備えましょう。